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chapter7
贖罪2
「よぉしっ……。完成!」
河井へと視線を向けた春は
目の前に運ばれてきたグラタンに目を瞬かせた。
「何で、2つあるんですか?」
「んなの、お前のだよ。何で、ねぇと思うんだよ」
「……もう、晩御飯は食べたので。」
「あぁ?!……食べた?何だよ、ここにきた意味ないじゃんか。」
「どうぞ。食べて下さい」
河井は、舌打ちをうつとスプーンを手にとって
グラタンを食べ始めた。
「……うんまいな!俺は、天才だ!!あ、そういや、あのダンボールの中、どんだけ貰っていんだよ?」
「必要な分だけ、持っていって下さい。」
「じゃあ、そうするからな」
もぐもぐと食べ続ける河井は、5分もしないうちにあっという間に食べ終わって手を合わせると食事を終えた。
グラタンの皿を洗い終えて、コップに水をいれて飲もうとした河井はキッチンに入ってきた春に目をとめると
棚からコップを出そうとする春を見て自分の持っていたコップを手渡した。
「ありがとうございます」
春が、手渡した水を口にするのを見て
河井も水を注いで喉を潤した。
「……眼鏡、返してもらえますか。」
手を差し出す春に、河井は何の躊躇もなく
胸ポケットに入っていた眼鏡ケースを渡した。
「ソレ、割れてたから直してやったんだぜ?眼鏡ケースだって、俺がわざわざ用意したしなっ!」
「元々、割れたのは貴方のせいですよね?」
「可愛くない奴」
河井は出て行けとでも言いたげな春の視線をかいくぐろうと話の話題を探して、視線を泳がせていると
河井が殴った痕のまだ少し腫れたままの頰に視線を向ける。
「ガーゼするんだろ。俺がやる」
「自分でやるので、大丈夫です」
見上げた春と河井の視線が交錯して
河井は、心臓がドクリと跳ねるのを感じた。
「大丈夫ですか?」
「………ち、ちち近いっ!」
河井の不審な動きに、春が河井を覗き込むように見上げると石けんの香りが鼻腔をくすぐり、急激に体温があがるような心地がして、顔を真っ赤にした河井は春を押しのけた。
「風邪でも引いてるんですか。顔、赤いですけど」
「いや、大丈夫だ。」
いつまでたっても静まらない心臓を押さえながら
河井は春の顔を見ることができずに
後ずさると何かに足元を取られて思いっきり滑る。
河井は、咄嗟に何かに捕まるが
転んで、頭を後ろにあった冷蔵庫に打ち付ける。
「イッ」
「……冷たっ」
河井は、頭をさすりながら腹の上にのしかかる妙な重みと別の誰かの声に視線をあげると、春が河井の胸に倒れこんでいる事に頭がついていかずにあからさまに狼狽えた。
「な、何してんだ……!」
「それは、こっちの台詞ですよ。倒れるなら一人で倒れてください。」
河井は、数秒、上体を起こしながら言う
春の言葉が分からなかったが
春の手首を持っている事に気づき、さっき掴んだものが春の手首だと分かるとすぐに離した。
春が上の服を脱ぎ出そうとしているのを
ギョッとしたように河井が止めに入る。
「お、お前、何してんの?」
「何って。シンク台にのってたコップが溢れて、濡れたので着替えようかと思って」
服の裾を持って、怪訝な顔をする春の肌が目に入ると
心臓が一層、強く鼓動を刻みだしたのに
再び、冷蔵庫へと思いっきり頭をぶつけると
「……やばい。俺は、病気だ。………病気だ」
ぶつぶつ呟いて、唖然としている春に見向きもせずに
河井は立ち上がると春の部屋から勢いよく立ち去った。
「何だったんだ、あの人」
※
「颯斗ォー。そういや、昨日は上手くいったのか?」
「……赤木。俺は、病気かもしれない。心臓が可笑しいんだよ」
屋上のフェンスにもたれかかりながら項垂れる
神妙な顔つきの河井に、赤木はポンポンと肩を叩いた。
「バカだ、バカだとは。思ってたけど、頭までいかれたか。……知ってたけど。ま、ゲームでもして元気だせ」
「……お前。完全にバカにしてんだろ!!」
「いんや。してないしてない。なぁ。黄ちゃん、こいつ、どうする?」
赤木が河井を指差しながら、呆れたような顔を浮かべて塔屋に背を預けている黄髪の生徒に振り返る。
「ウーン。……ハヤト、もう治ってるヨ。痛くないならネ。」
「いたく、ない……?黄!お前……天才だな!!流石、学年トップ10に入る黄雲雕だなっ!!!確かに、今は痛くないっ!!!」
河井がパソコンを弄る黄をビシッと指をさしながら
反対の手で、赤木の肩をバシバシと叩く。
「だから、イッテェんだよ!!」
「元気そうで、良かったヨ」
黄は、ニッコリと微笑むとパソコンの画面に視線を向け直した。
「秘密を暴くには、もっと……コウカツに、けど、ダイタンに追い詰めないとダメネ。例えば、あの三足烏(さんぞくう)……みたいに利口なのがヨロシ」
黄は、ニッコリと笑んだ表情のまま呟いて、片手で煙管を弄びながら、丸眼鏡をキラリと光らせた。
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