花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
125 / 178
chapter7

若様5

しおりを挟む



「誰かに、頼まれたんだろ?」

引き倒した男の上体に乗りあげて、片手を顔の横にもう片方を顎下に押さえ込むようにしてその瞳を覗き込むと、男は何が何だか分からない様に瞳を泳がせて一切の抵抗を見せなかった。


「写真を撮ってこいって命令されたんじゃないのか。じゃなきゃ、こんな遠い所で出くわす訳がないんだよ」

「な、何のことを……。言ってるのか」

「何も分からないって言いたいのか?会長に命じられたんだろ。“あやめ”と俺の写真を撮ってこいって。あの子と会えば、約束は全部無かったことになるんだから。」

「ちがっ!!お、俺は……。ただっ!」

「ただ……?何だよ。1年も時間をやる気はなかったって、そういうことなんですか。たったその時間すらも、与える気はなかったって」

「だから、えっと。………とにかく!!俺は、何もしらないんだよっ………!!!本当だって、信じてくれっ!!」


困ったように眉を寄せる挙動不審な態度の男に俺の考えは間違ってるのではないかという僅かな疑念が生まれる。




もしも、天宮の人間ならばこんなミスを犯す訳がない。
あの麦わら帽子の少女につけているのを気付かれて、こんな簡単に窮地に陥る様な真似をするのだろうか。



(……違うのか?約束を守られる保証はなかった。お婆様にとって、次期当主が確定していない、今。すぐにでも目の届かない場所へと追いやりたいのも分かっている。)



けれど____違うのか?




違うのなら、この男は一体何なんだ。



ぐちゃぐちゃの思考を纏めようと深い呼吸を落として
初めて男へときちんと視線を向けると、耳の後ろに隠れるようにしてつけられているピンク色のピン留を見つける。



「これ……。」

そのピン留に、指先を這わせようとして初めて
男は、触るなとでも言うように片手で俺の腕を掴んではっきりと拒絶を示した。


「“落胤のクロユリ”を知っていますか」

「だから、俺は知らない……!そうじゃなくて、俺は」

「じゃあ、矢井島、美音」

「な、な、な……んで。わかっ……て」

男に言葉を返すことなく
その男の上から退いて、立ち上がり掴まれたままだった腕もやんわりと外させる。

「美音には、言わないでくれっ……。これ以上、嫌われたら死にそう、なので。ていうか、絶対……傷つくし。だから………っ。お願いします」

矢井島の交友関係には興味はないが
傍目から見ても、明らかに怪しいこの男と関わっていて大丈夫なのだろうか。


矢井島と俺が、それなりに関係があるのも知っているような素振りだし。
同じピン留を身につけているのに、嫌われているなんて矛盾しているのも甚だしい言動。


「矢井島とどういう関係なんですか。」

明らかに、ストーカーとも取れる男を見下ろし
意外にも掴まれていた腕が軽く赤くなっている部分を摩り尋ねると、視線を泳がせながらもボソリと告げた。

「えっと………。怪しいものじゃなくて、えっと、つまり……。幼馴染だと思う、多分」

歯切れの悪い答えに、疑念を拭いきれないでいると
俺が信じてないと思ったのか焦ったように
地面に倒れたままだった身体をおこして懐から携帯型生徒手帳を取り出すと、写真を見せてきた。

「これ見て!ほら、一緒に映ってるよね!!ね?!」

見せられた写真を見ると、確かに矢井島らしい面影のある少年と一緒に目の前にいる男に似ている少年も映っていた。

「……そうですね」

「まだ、駄目かな……。確かに、似てない気もするような。えっと……じゃ、じゃあっ。」

そして、次に男が出してきた画面を覗き込むと
そこには生徒手帳が映し出されていて


『3年   一色    蓮治』

と、表記されていた。


河井颯斗の時と、似たようで違ったのは
役職という項目に、生徒会書記と書いてあったことぐらいだ。


「美音にだけは………言わないでくれ。お願いだから。」

俺より、図体の大きい男は泣きそうになりながら
頭を下げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

処理中です...