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chapter7
若様5
しおりを挟む「誰かに、頼まれたんだろ?」
引き倒した男の上体に乗りあげて、片手を顔の横にもう片方を顎下に押さえ込むようにしてその瞳を覗き込むと、男は何が何だか分からない様に瞳を泳がせて一切の抵抗を見せなかった。
「写真を撮ってこいって命令されたんじゃないのか。じゃなきゃ、こんな遠い所で出くわす訳がないんだよ」
「な、何のことを……。言ってるのか」
「何も分からないって言いたいのか?会長に命じられたんだろ。“あやめ”と俺の写真を撮ってこいって。あの子と会えば、約束は全部無かったことになるんだから。」
「ちがっ!!お、俺は……。ただっ!」
「ただ……?何だよ。1年も時間をやる気はなかったって、そういうことなんですか。たったその時間すらも、与える気はなかったって」
「だから、えっと。………とにかく!!俺は、何もしらないんだよっ………!!!本当だって、信じてくれっ!!」
困ったように眉を寄せる挙動不審な態度の男に俺の考えは間違ってるのではないかという僅かな疑念が生まれる。
もしも、天宮の人間ならばこんなミスを犯す訳がない。
あの麦わら帽子の少女につけているのを気付かれて、こんな簡単に窮地に陥る様な真似をするのだろうか。
(……違うのか?約束を守られる保証はなかった。お婆様にとって、次期当主が確定していない、今。すぐにでも目の届かない場所へと追いやりたいのも分かっている。)
けれど____違うのか?
違うのなら、この男は一体何なんだ。
ぐちゃぐちゃの思考を纏めようと深い呼吸を落として
初めて男へときちんと視線を向けると、耳の後ろに隠れるようにしてつけられているピンク色のピン留を見つける。
「これ……。」
そのピン留に、指先を這わせようとして初めて
男は、触るなとでも言うように片手で俺の腕を掴んではっきりと拒絶を示した。
「“落胤のクロユリ”を知っていますか」
「だから、俺は知らない……!そうじゃなくて、俺は」
「じゃあ、矢井島、美音」
「な、な、な……んで。わかっ……て」
男に言葉を返すことなく
その男の上から退いて、立ち上がり掴まれたままだった腕もやんわりと外させる。
「美音には、言わないでくれっ……。これ以上、嫌われたら死にそう、なので。ていうか、絶対……傷つくし。だから………っ。お願いします」
矢井島の交友関係には興味はないが
傍目から見ても、明らかに怪しいこの男と関わっていて大丈夫なのだろうか。
矢井島と俺が、それなりに関係があるのも知っているような素振りだし。
同じピン留を身につけているのに、嫌われているなんて矛盾しているのも甚だしい言動。
「矢井島とどういう関係なんですか。」
明らかに、ストーカーとも取れる男を見下ろし
意外にも掴まれていた腕が軽く赤くなっている部分を摩り尋ねると、視線を泳がせながらもボソリと告げた。
「えっと………。怪しいものじゃなくて、えっと、つまり……。幼馴染だと思う、多分」
歯切れの悪い答えに、疑念を拭いきれないでいると
俺が信じてないと思ったのか焦ったように
地面に倒れたままだった身体をおこして懐から携帯型生徒手帳を取り出すと、写真を見せてきた。
「これ見て!ほら、一緒に映ってるよね!!ね?!」
見せられた写真を見ると、確かに矢井島らしい面影のある少年と一緒に目の前にいる男に似ている少年も映っていた。
「……そうですね」
「まだ、駄目かな……。確かに、似てない気もするような。えっと……じゃ、じゃあっ。」
そして、次に男が出してきた画面を覗き込むと
そこには生徒手帳が映し出されていて
『3年 一色 蓮治』
と、表記されていた。
河井颯斗の時と、似たようで違ったのは
役職という項目に、生徒会書記と書いてあったことぐらいだ。
「美音にだけは………言わないでくれ。お願いだから。」
俺より、図体の大きい男は泣きそうになりながら
頭を下げた。
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