125 / 185
chapter7
若様5
「誰かに、頼まれたんだろ?」
引き倒した男の上体に乗りあげて、片手を顔の横にもう片方を顎下に押さえ込むようにしてその瞳を覗き込むと、男は何が何だか分からない様に瞳を泳がせて一切の抵抗を見せなかった。
「写真を撮ってこいって命令されたんじゃないのか。じゃなきゃ、こんな遠い所で出くわす訳がないんだよ」
「な、何のことを……。言ってるのか」
「何も分からないって言いたいのか?会長に命じられたんだろ。“あやめ”と俺の写真を撮ってこいって。あの子と会えば、約束は全部無かったことになるんだから。」
「ちがっ!!お、俺は……。ただっ!」
「ただ……?何だよ。1年も時間をやる気はなかったって、そういうことなんですか。たったその時間すらも、与える気はなかったって」
「だから、えっと。………とにかく!!俺は、何もしらないんだよっ………!!!本当だって、信じてくれっ!!」
困ったように眉を寄せる挙動不審な態度の男に俺の考えは間違ってるのではないかという僅かな疑念が生まれる。
もしも、天宮の人間ならばこんなミスを犯す訳がない。
あの麦わら帽子の少女につけているのを気付かれて、こんな簡単に窮地に陥る様な真似をするのだろうか。
(……違うのか?約束を守られる保証はなかった。お婆様にとって、次期当主が確定していない、今。すぐにでも目の届かない場所へと追いやりたいのも分かっている。)
けれど____違うのか?
違うのなら、この男は一体何なんだ。
ぐちゃぐちゃの思考を纏めようと深い呼吸を落として
初めて男へときちんと視線を向けると、耳の後ろに隠れるようにしてつけられているピンク色のピン留を見つける。
「これ……。」
そのピン留に、指先を這わせようとして初めて
男は、触るなとでも言うように片手で俺の腕を掴んではっきりと拒絶を示した。
「“落胤のクロユリ”を知っていますか」
「だから、俺は知らない……!そうじゃなくて、俺は」
「じゃあ、矢井島、美音」
「な、な、な……んで。わかっ……て」
男に言葉を返すことなく
その男の上から退いて、立ち上がり掴まれたままだった腕もやんわりと外させる。
「美音には、言わないでくれっ……。これ以上、嫌われたら死にそう、なので。ていうか、絶対……傷つくし。だから………っ。お願いします」
矢井島の交友関係には興味はないが
傍目から見ても、明らかに怪しいこの男と関わっていて大丈夫なのだろうか。
矢井島と俺が、それなりに関係があるのも知っているような素振りだし。
同じピン留を身につけているのに、嫌われているなんて矛盾しているのも甚だしい言動。
「矢井島とどういう関係なんですか。」
明らかに、ストーカーとも取れる男を見下ろし
意外にも掴まれていた腕が軽く赤くなっている部分を摩り尋ねると、視線を泳がせながらもボソリと告げた。
「えっと………。怪しいものじゃなくて、えっと、つまり……。幼馴染だと思う、多分」
歯切れの悪い答えに、疑念を拭いきれないでいると
俺が信じてないと思ったのか焦ったように
地面に倒れたままだった身体をおこして懐から携帯型生徒手帳を取り出すと、写真を見せてきた。
「これ見て!ほら、一緒に映ってるよね!!ね?!」
見せられた写真を見ると、確かに矢井島らしい面影のある少年と一緒に目の前にいる男に似ている少年も映っていた。
「……そうですね」
「まだ、駄目かな……。確かに、似てない気もするような。えっと……じゃ、じゃあっ。」
そして、次に男が出してきた画面を覗き込むと
そこには生徒手帳が映し出されていて
『3年 一色 蓮治』
と、表記されていた。
河井颯斗の時と、似たようで違ったのは
役職という項目に、生徒会書記と書いてあったことぐらいだ。
「美音にだけは………言わないでくれ。お願いだから。」
俺より、図体の大きい男は泣きそうになりながら
頭を下げた。
あなたにおすすめの小説
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
平穏な日常の崩壊。
猫宮乾
BL
中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)