花は何時でも憂鬱で

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chapter7

若様7




「うわあっ!蒼はん見てください!
あそこにいる人、王子様みたいどすよ」


荒谷の様子は気になるものの
葵が荒谷を指差して興奮気味に言う
その様があまりにも無邪気で薄く笑うと
荒谷の方へと足を進めた。

「………え?え?どうしてそっちに」

困惑する葵に視線を向けてから
再び歩き出すと、葵は止めていた足を運ぶ。

「荒谷………。起きてるか」

荒谷の顔の前で手を振ると、意識を取り戻したようにパチパチと瞼を開閉させると弾けるように笑った。

「あ!探してたんだ………って、そっちの子は?」

「色々とあって、知り合った。」

葵はキラキラと輝くような瞳で見つめるのに
荒谷は葵と目線を合わせるために腰をかがめて手を差し出す。

「初めまして。荒谷新っていうんだ。よろしく。」

「は、はい!あの、葵といいます。」

「へぇ、そっか。その麦わら帽子_____。」

荒谷と葵が話をしているのを聞き流していると
ふと、広場の噴水の近くにこじんまりと開かれている
お店になんとなく歩み寄る。

「おやおや、客とは珍しいのぅ」

布のようなもので顔全体をぐるぐる巻きにした店主は
頬杖をつきながら呟いた。

そのお店は、どうやら安価なジュエリーを売っている
ようだった。
ただ、なんとなく足を運んだものの
手持ちも持っていないこともあり引き返そうと踵を返す。


「_____大切なものほど、傷つけて手放す運命だ。もしくは、そうだな………他のものは救えても絶対に自分だけは救えない」

意味深な事を言う店主に視線を投げかけると
考え込むように唸る仕草をした店主は、急に何かをひょいっと投げてきたので、咄嗟にそれを受け取る。

「あの…………。コレは、なんですか」

「大切な人にあげるといい_____。」

会話になっていないと頭の片隅で思いながらも
手のひらを開いて、手の中に収まる小さな何かを見る。

「指輪…………?」

「………はん!蒼はんっ!」

「………なに?」

少し目線を下げると葵がひらひらと目の前で手を振っていた。

「佐藤、どうかしたのか。ぼーっとして」

「いや、…………なんでもな_____い」

指輪から目の前にあった筈の店へと視線を向けるが
どこにもその店の姿はなくて、困惑した。


掌にあるビーズのようなもので作った指輪へと
視線をゆっくりと戻す。




午後3時を知らせる鐘が鳴り響いて、どこかで聞いたことのあるような柔らかい音色が広場を包んだ。





「_____一ヶ月」


噂ではあったのだ。一ヶ月後に、あの学園に入った生徒と連絡が取れなくなると_____。


そしてその噂を裏付けるかのように
学園から届いた手紙にはこう記載されていた。


『貴校の生徒との連絡を禁止する』

_____と。


ただ、全く会えないわけではない長期休みや学祭などのイベントごととなると話は別だ。だが、つまりは学園にいる生徒と接触の機会がグンと減る。


奥様が最近、慌ただしかった理由はコレなのかもしれない。


「鈴森さん_____!た、大変ですっ!」

道路に停めていた車の助手席の扉を開けられて
あやめ様付きの使用人が
堰を切ったように告げる。

「落ち着いてください。」

「あの、っ、…………大変なんですっ!!」

「ゆっくりと何があったのかを教えてください。」

青ざめた唇を震わせながら告げた。

「いなくなりました。」

「いなくなった………とは、」

「あやめ様がいなくなりました」

その事実に
息を詰めたような呼吸音を洩らしたものの
嗜めるように語りかけた。

「どういうことか、教えてもらえますか」

「あやめ様が、お手洗いに行くと言われたので外で待ってたのですが、一向に出てくる気配がなく、中に入ってみたら誰もいませんでした。一階のお手洗い場に窓があったので_____恐らく。」

「そんな事をするような方ではない筈ですが。お手洗いにいく前に何かおかしなことはありませんでしたか。」

「そういわれましても、特には………。あっ!ショッピングモールに入る前に、年頃の女の子とすれ違ってから様子が可笑しくはありました」

「年頃の女の子ですか。どんな方でしたか」

「えっと…………確か。麦わら帽子に、黒い髪で。あっ。後は、近くに男の子がいました。黒髪の。顔は、見えませんでしたけど」

男の子_____?
黒髪の男の子。


それは、つまり、1人しかいない。
春様は入学と同時にあの色を真っ黒に塗りつぶした。


要様と雫様の強い希望で。
眼鏡をかけるように提案したのもそうだ_____。


守るためとはいえ、夢のようであっただろう。
やり直しができるかもしれないという浅はかな夢をみただろう。


彼を愛しすぎて盲目なのかもしれない。
だから、気づけないのだ入学(コレ)が終わりの物語だということに。


結局、彼らは__________。




「_______ぁ、の。」


新人の使用人がか細い声で話しかけるのに
飛びかけていた意識を目の前の新人に向ける。



「その男の子は、どんな様子でしたか」

「…………男の子は_____。」

「その男の子は、あやめ様をみて固まった。違いますか」

「…………たしかに、あやめ様を見て固まった後にすぐに何処かに行かれました」

思考をまとめようと、額に手を置いて何かを考え込むように長く細い息を吐いた。

「………気づいてしまったか………。」

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