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chapter7
若様8
「おっかえりー!待ってたよぉー!!」
よっぽど暇だったのか、潜り戸の前で
石で絵を描きながら暇を持て余している門川先輩に出迎えられて、荒谷に抱きついた後に俺に抱きつこうとするのを避けると分かりやすく泣き真似をするのを無視したら、年上とは思えないほどに愚図りだした。
「大丈夫どすか?」
「うんうん。……大丈夫だよぉー。君は、優しいね……って、君、だだだだだ誰?」
「初めまして!あたしは、葵と言います。これ、どうぞ」
門川先輩にハンカチを差し出しながらにこりと微笑む葵ちゃんを見て、その可愛さにか思いっきり抱きつこうとしたのをさっきまで愚図っていた門川先輩を見て、げんなりとしていた表情の速水先輩に襟首を思いっきり引っ張られて咳き込んだ。
「………な、にすんだっ!……馬鹿涼花っ!!」
「お前は、痴漢で捕まりたいのか。捕まりたかったなら、悪かったな。どうぞ、触れ。……変態が」
「そのゴキブリを見るような目で見ないでっ!!心、折れるから。お兄さんのハートは、硝子のハートだから!!」
速水先輩に言われたことが、よっぽどショックだったのか放心状態でボソボソと何かを呟き続ける門川先輩をガン無視して、速水先輩がこっちに向き直る。
「んで、どういうことか説明してもらえるか?」
俺と荒谷が目を見合わせていると、その間にいた葵ちゃんが手を挙げながら言った。
「あたしからお話しますね」
※
「えーっと。つまりは……矢井島家に来る客人の先生の付添人だけど、その先生と逸れたところに2人と会って偶々、向かう所が同じ場所だったから一緒に来た……って事でいいのか?」
「はい。大体、そないな感じどす」
「まぁ、偶然が過ぎる気がするがいいか。買い出しの物は?」
「あ……。これ、これ!!」
荒谷が袋を渡して速水先輩がその袋を覗き見ると
小首を傾げて尋ねる。
「何で、花火?」
「それは、このメモの最後の項目に書いてあったので買ってきました」
俺が、門川先輩から受け取った走り書きを見せると
速水先輩は深いため息をつきながら舌打ちを打った。
「どうりで遅いと思ったら……。アイツは、当分無視しろ。…………いいな?」
遅くなったのはそれだけではないのだが
黒い笑みを貼りつける速水先輩の言葉のままに
建物の中に入ると、買ってきた物を手早く仕上げていく速水先輩とそれを率先して手伝う葵ちゃんがいる台所から出て、速水先輩に言われた通り
最初に案内された大広間に人数分の食器を運ぼうと
荒谷と並んで廊下を歩きながら、荒谷の横顔を盗み見るが変わった様子はない。
さっきの街での荒谷の異様な様子を思い浮かべ
何時もと変わらない荒谷の姿に気のせいなのかと思い直しはじめていた。
「春、俺の顔に何かついてる?」
「……いや、別に。とゆうか、呼び方」
「はいはい。分かったよ。やめる、やめる。」
大広間までやって来て、机に食器を置くと
荒谷は盛大な欠伸をしながら寝転んだ。
「いやぁ、疲れた。眠い」
「もう、カレー出来ると思うけど」
「俺は、疲れたーっ!らしくないよなぁ。いつもならバッサリ、ズッパリ、聞きたいことは聞くのに、できないのは何でかなぁー。」
荒谷の言葉を何を意味しているのかはっきりとは汲み取れないけれど、ただ黙って聞きながらも
思い当たる節はないわけではなかった。
荒谷新は、何もかも知っているように振舞っているのに
俺の妹の存在は匂わすくせに
一度たりとも【あやめ】の名を出したことはないから。
俺は、それが不思議でならなかった。
「そういえば、キスする場所には、意味があるって知ってたか?俺は、つい、この間知ったんだよ」
唐突に話題を変えた荒谷が上体を起こして告げる言葉に
机に頬杖をつきながら答えた。
「聞いたことはあるけど」
「指先は、賞賛。おでこは、友情。まぶたなら憧憬、首なら執着、胸は所有で、腰は束縛。唇は勿論、愛情」
「それで?」
「よーするに、頑張ったなってこと!何せ、指先なんだから今までちょー頑張ったって、俺が褒めてんの!!」
荒谷のよく分からない言葉に小さく頷くことしか出来ずにいると、廊下を小走りで歩く音がして視線をそっちにやると矢井島が現れた。
「戻ってきたよ!」
きょろきょろと部屋を見回して、俺と荒谷だけしかいないのを確認すると
「もしかして、僕、お邪魔だったかな?」
「まったく」
「何で、邪魔になるんだよ?」
俺と荒谷の返しに、矢井島は何かを考え込む様にして小首を傾げながらも、少しすると何もなかったかのように
俺の横へと腰を下ろした。
「僕の勘違いなのかなぁ」
矢井島は、荒谷から俺に視線をゆっくりと這わせながら
含みをもたせたようにボソリと溢す。
それよりも、矢井島の髪に留められているピンクのピン留
が、さっきの生徒会書記の物と重なった。
「さっき、そのピン留をつけてる人に会ったよ」
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