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chapter7
花火2
「矢井島、みんなで花火やろう」
「いいよ」
駄目元で、言ってみれば矢井島はコクリと頷いたので
拍子抜けした。
「……でも、ダメだよ」
「………………何が?」
「矢井島じゃ………ダメ」
「あぁ、……っと。一緒に……花火」
昼の時の言葉を思い出し
その言葉の意図するものが何なのか察して
矢井島からの期待に満ちた瞳が一色と同じような瞳だと思いながらも、どうにも口がうまく動いてくれない。
「……花火、やろう。………み_______」
「え?あれ!烏が………って、あれ気のせいか?」
「もう!新くんのバカぁー!アホッ!!せっかく、呼んでくれると思ったのに」
「いやだって、デカイ烏がいたらビビるだろっ?!」
「何言ってるの?」
「絶対に、人型のデカイ烏が……」
「矢井島、荒谷。先に行ってるから」
矢井島が荒谷へと非難めいた視線を向けてから
再び、俺へと視線を戻す前にさっさと声をかけて先輩達のいる方へと踵を返した。
何でこんなに戸惑っているのか分からないまま
足早に追いかけてきた荒谷へと目を向けると
荒谷が耳をトントンと指して言った。
「耳真っ赤だけど、風邪でもひいたのか」
荒谷が心配そうに気遣った言葉に肌の温度が上昇していく気がして、耳を指先で確かめるように触ると
自分でもわかるほど熱いのが分かった。
「何で……。」
「おーい。佐藤、大丈夫か?」
「……名前くらいで。_____そんなの、ありえないだろ」
「もう!2人とも待ってよ!!置いてかないでっ!」
※
予想に反して矢井島は、こっちが驚くほどに普通だった。
まぁ、一度たりとも一色の方には見向きもしなかったけど。それが、一色のメンタルを抉っているのはいうまでもなかった。
荒谷が買ってきた季節外れの花火は
赤、青、緑と色鮮やかでとても綺麗だった。
俺は、最初の一本を終えると
縁側に腰を下ろして荒谷や矢井島、書記、先輩たちが
花火をしている様子を見つめる。
「新くん。火、ちょうだい」
「……あ。今、終わった!!」
「もうっ!……しょうがないなぁ、さとちゃん先輩!」
「おい。その馬鹿に近づくな。火傷する」
「はぁい。じゃあ、涼ちゃん先輩の下さい」
「へい!馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!!」
「……ま、まぁまぁ。お、落ち着いて」
ただ、その様子をながめていると
足元にロベリアの花びらが散らばり落ちているのに気づいて、一枚、拾い上げる。
「烏がいるのは、お前のせいか」
「……烏?」
横に離れて座っている会長が発した言葉に
意識を上へと向けると、さっきと同じように塀に留まっているもの、空を旋回しているもの、木にとまっているものと、烏が一羽から三羽になっていた。
「烏は月城家のシンボルだ。この前、お前の前に現れたのも月城だ。せいぜい、『烏』にだけは捕まらないようにするんだな」
会長と視線が交錯して瞬く間の一瞬で、目を逸らされる。
「は_____じゃなくて。……佐藤、線香花火しようっ!」
目の前に垂らされた線香花火を受け取って
立ち上がる。
「……もう、花火終わりなのか?」
「ん?そうなんだよ。これで、終わり」
荒谷がチャッカマンをつけると
灯った小さな赤は、小さく火花を散らし始めた。
「………あ、僕もやるーっ!」
3人で輪になるように線香花火をしていると
最初に、火が消えいった荒谷は落胆した声で喚いた。
「あぁっ?!……落ちたっ!!」
「ちょっと!新くん……落ちちゃったじゃんかぁ」
「あ、ごめん。ごめん!」
「もぅ……。しょうがないんだから」
荒谷の声で驚いて、びくりと肩を揺らした矢井島の線香花火も終わってしまって、ぷくりと頰を膨らませながらこっちに視線を向けた。
「蒼くんも、終わっちゃったかぁ」
矢井島が残念そうに頬杖をついて呟くのをきいて
荒谷が終わってしまった線香花火を目線の高さまで
持ちあげる。
「線香花火って、すぐ、終わるからイヤだよな。もっと、バーンとこう派手な方が好きだな」
「……僕も、もっと綺麗なのが好きかなぁ」
荒谷と矢井島が話しているのを聞き
線香花火を指先で弄びながら自分はどうだろうかと思う。
『好き』なのか『嫌い』なのか。
確かに、他の花火よりも派手さも鮮やかさも劣るけれど
その最後を艶やかに散らそうとする様な儚さは
どの花火にも負けないし、どの花火よりも綺麗だと思う、けれど__________。
「さ。……諸君。バケツ持ちジャンケンをするよぉー。」
「後輩に何をやらせようとしてるんだ、バケツくらいなら俺が持つ」
「うぐっ。いいから!!!平等にいかないとねっ!!ハイ、手を出してー!!」
門川先輩が全員、手を出してるかを確認していく。
「あ。そこの人も……って、っいたいっ!!」
縁側に座っている会長を指差する門川先輩の指先を
反対に折り曲げた速水先輩は、涙目で抗議する門川先輩に言う。
「お前って、ほんと___。怖いもの知らずだな。………会長は、花火してないだろうが。」
「……あ。それもそっか!でも、反対側に指、曲げる事ないじゃんかっ!折れるかと思ったし!!」
「……さとちゃん先輩。寒くなってきちゃった。その……。言いづらいんですけど……花火のゴミ、屋敷の外のゴミ箱に分別しといて貰えると嬉しいんですけど。」
「へ?そうなの?じゃあ、2人くらいにしますか……!」
「………あ。」
門川先輩と矢井島の言葉に反応して
思い出したかのような声をあげた一色にそれぞれが視線を向けると、それに気づいた一色がしどろもどろになりながら、なんでもない、と言葉を濁した。
けれど一色が何か嬉しいことでもあったのか
緩んでいる表情をなんとか隠そうと、手の甲を口元にあてていた。
「よっし!!帰って枕投げが待ってるしな!せーの、ジャンケンポンっ!!!」
強引に掛け声をかけた荒谷の声につられて
俺、荒谷、矢井島、先輩たちと一色の計7人全員が一斉に手を出した。
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