140 / 185
chapter8
傾城1
【深夜から未明にかけて、大雨が予想されます_________】
たまたまつけていた、報道番組。
愛着が湧いた訳でもない
固執している訳でもなかった。
ただ、何となく見てみたくなった。
あの桜を_________。
明日には、散ってしまうだろうから、と。
けれど、その桜の下には、おもいもよらない先客がいた。
「誰__________?」
_________息を呑む。
自然と魅き込まれてしまうような
夜の闇に溶け込んでしまいそうなほどの
黒く美しい光を煌めかせた瞳を持った誰かがこちらを見据える。
「もしかして、僕と同じでこの桜、見に来たの?」
瞳の奥を煌めかせて、嬉々とした表情を浮かべる誰かは
花のような笑みを浮かべた。
「いや、そういうわけじゃ。」
「そうなんだ。ちょっと、残念………。桜は好き?」
「普通………です」
「残念………………好きじゃないより、遠いよね………僕は、好きだから残念。」
視線をあげて桜を見るその人物は
拗ねたように頬を膨らませていたが、直ぐに俺に向き直って言った。
「………僕_________宵って言うんだ。君は?」
「蒼と、言います。」
「______あお?………綺麗な名前だね!」
「………ありがとうございます。」
「あーぁ。この桜、満開の時に見たかったなぁ。」
宵(よい)と名乗った彼は、ひらひらと舞い落ちる花びらを必死になって取ろうと木の周りを花びらと同じようにくるりくるりと舞っていた。
「取れない……っ。」
花びらが捕まってくれず
木の前で頭を抱えるようにしゃがみこんだ宵(よい)は
膝小僧の上に顔を乗せて唸っていると
突然、立ち上がって靴と靴下を脱ぎ捨ててズボンを膝丈までまくった。
「これで、さっきより動けるよね。」
無邪気に笑った宵(よい)を見つめながら俺は、鮮烈に焼けつくような感情を感じていた。
「………い_________。」
無意識に溢れた吐露に自分自身が驚いて
掌でその言葉を覆い隠す。
幸いにも宵(よい)には聞こえてなかったようだったけれどその感情は燻り続ける。
彼は、綺麗だ。目を離せないほどの美しさを持っている。
なのに、それを上回るほどの別の感情に覆い尽くされそうになる。
「つかまえた。」
宵(よい)が手のひらの中に閉じ込めた花びらを手にとって、満足げに笑むと空に翳して放った。
「綺麗だよね。」
ひらひらと舞い落ちる花びらを目で追いながら宵(よい)が呟くように言った。
「いいんですか?せっかく捕まえたのに」
「だって、僕が持っちゃったら綺麗じゃなくなっちゃうでしょ?自由だから綺麗なのに。偽物を閉じ込めても本物じゃないから。」
今日は差し込まないと思っていた真っ白な月明かりが
宵(よい)の漆黒の髪を煌めかせる。
「ねぇ、何でこの学園にいるの?あおいくんは」
「あおいじゃなくて、あおです」
「へへ、あおよりあおいの方が可愛いかなーと思って。ねぇ、あおいって呼んでもいい?」
「どっちでも」
「やったぁ。嬉しいな」
魅入ってしまうような蕩けるような笑い方をしたかと思うと瞳をそらすことなく見つめ続けられて、質問の答えを催促されているのだと気づく。
「ただ、ここに入るものだと聞いていたので何でと言われても困ります。」
「そっか。あおいくんは、自分の意思で入ったのかと思ってたから。………そういう人が多いのかな?」
独り言とも質問ともとれる言い方をする宵(よい)の言葉に何かを返すことはせずにいると
「僕ね………探してる人がいるんだ」
唐突に、宵(よい)がそう言った。
「届かなくて、叶わなくて……………………そんな人。」
さっきまで飛び回っていた明るく活発な天真爛漫そのものだった印象は露ほど見受けられず
陶器のように真っ白な肌が困ったような笑みがその儚さをより際立たせる。
「この学園にいるはずのその人を見つけたいんだ。」
乾いた風に頬を撫でられ、静寂な夜の闇のような目の前の、彼の清廉した美しさを目の当たりにし、わけのわからない寂しさに呑み込まれていた。
あなたにおすすめの小説
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
平穏な日常の崩壊。
猫宮乾
BL
中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)