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chapter8
傾城5
「………本当に行ったよ。」
保健室の扉がガチャリと閉まると
黒河先生の足音が遠ざかっていく。
投げ渡されたチョコレートは制服のズボンのポケットにしまいこんだ。
「そういえば、前も似たようなことがあったっけ」
黒河先生もいなくなり
別段これといってすることもないため
さっきの椅子に再び腰掛ける。
グラウンドから響く地面を蹴る足音に耳を傾けていたら、風紀委員長の貼り直した絆創膏のゴミがベッド付近の台の上に置いたままだったことに気づいてゴミ箱へとそれを捨てる。
「喧嘩なんてするんだな」
絆創膏の下は、ほとんど消えかかってはいるが
青い痣のようなものがあった。
正直、誰かに殴られるほど恨まれているとは思いがたい風紀委員長が喧嘩なんて想像の範囲外過ぎて黒河先生からその単語が出た時は、正直、驚いた。
そもそも、暴力行為を取り締まる側の人間を殴ろうとは到底思わない。だとするならば親交が全くない人物とは考えにくい。
ただの想像の域は出ないけれど
殴った相手は風紀委員長と親しい人。
友人かはたまた恋人か。
この前の風紀委員長を運んだ夜のように、この人はキス魔予備軍に当たるような事もしている。俺のように被害に遭っている生徒がいないとは考えがたい。
ともすると
「痴情のもつれが原因?」
この痣の原因はそれで納得いくといえば納得いく。
じゃあ、風紀委員長の暗い瞳の原因もその喧嘩なのだろうか。
いや__________違う。
『夏なんか、来なければいい』
痣は関係がないのかもしれないが
この言葉に全てがこめられている気がする。
率直に考えて、家族でなければ、友人ですらない赤の他人の俺ができることなんて高が知れているが黒河先生の言うとおり夏が終わるまでなら構わないだろうか。
俺にその時間くらいならあるだろうか。
「俺は甘いんですよ。あの子にだけは。だから__________貴方にも、甘くなりそうでほんの少し怖い」
せめて、あの暗さが薄れていけばいいと思う。
苦しげな姿を重ねてしまっているのは分かっているけれど
本物ではないからと、きっと放っておくこともできないだろうから。
駆け足とともにガチャリと保健室の扉が大きな音を立てて
開き黒河先生が戻って来たのかと思って
俺は扉の方へと向かうと
青ざめた顔で誰かを抱えた見知らぬ生徒が扉の前に立っていた。
「先生は………?」
「今は、出ていますが」
「君は、保健委員?」
「いえ」
「百樹くん。僕は、大丈夫だから」
その腕に抱えられている生徒が宥めるように
制服の袖を握る。
そこで、初めてその生徒へと視線を滑らせるとその生徒は見知った人だった。
白石先輩………………?
「黒河先生もすぐに戻ってくると思いますよ。僕は留守番を頼まれたので」
「そうなんだ。教えてくれてありがとうね。」
白石先輩を運んできた人は近くにあった椅子にゆっくりと白石先輩を座らせた。
「………痛む?」
「百樹くん。ここまで運んできてくれてありがとうね。でも、もう大丈夫だよ」
白石先輩が困ったように笑うが、百樹と呼ばれた生徒が
ほんの一瞬、苦虫を潰したように顔を歪めた。
「………何で。」
「え?」
「いや、何でもないよ。心配だから黒河先生が来るまで付き添ってる」
白石先輩から外した視線を戻して完璧な笑みを見せて、微笑んだ。
「ぁ………。百樹くん。あのね、」
白石先輩がこちらに視線を向けるので、百樹と呼ばれた生徒も同じように視線を向けてくる。
「大丈夫だよ。知り合いだから。………えっと、佐藤蒼くんって言って、いい子だから。だから、その。」
「………分かった、じゃあ、任せるよ。佐藤くん」
「分かりました」
何故なのか保健室を出て行く際
にこりと完璧な笑みを浮かべているはずの人から僅かながらに敵意を向けられた気がした。
「ごめんね。………迷惑だよね」
白石先輩が保健室からあの人が出ていったのを確認してから眉を寄せながら言った。
「良かったんですか。お知り合いですよね?」
「うん。いいんだ。僕_____百樹くんにあんまり好かれてないというか、どっちかっていうと嫌われてると思うし」
どうみたって嫌われるとは思えないので
白石先輩の言葉に思うところがなかった訳ではないけれど、痛みのせいか顔を歪ませている白石先輩の前にしゃがみこむ。
「右足ですか」
「うん………。」
「失礼しますね」
制服のズボンの裾を捲り上げると腫れ上がっている足首が露わになった。
「とりあえず、冷やします」
「え、あ、りがとうっ。佐藤くん」
冷やすためのものはないかと保健室にある棚を片っ端から開けていくと棚の中にあったビニール袋を手に取り、冷蔵庫で固められていた氷をいれ、水道水を流し込み袋の口を閉じる。
「少し冷たいかもしれません」
「わかった」
腫れている右足首に押し当てると、冷たかったためか
一瞬、びくりと肩を震わせた。
「あのさ、佐藤くん。」
「はい」
「佐藤くんなら、自分のせいで誰かに迷惑をかけてると分かってる時。そんな時、どうする?」
若干、震えがかった声と
白石先輩が手が白くなるほど握りこんでいるのを見て
この質問が白石先輩自身のことなのだろうということと。
恐らく、迷惑をかけている誰かというのも
なんとなく合点がいった。
「さぁ、その情報だけではなんとも言えません。白石先輩はどうするんですか?」
「………え?」
「白石先輩は、どうしたいんですか。もしそうなったなら」
「僕は__________ぼくは………?わ、からない」
顔をくしゃりと歪めて黙ってしまった白石先輩を見て
やはり、この人は俺には必要のない人だと再確認した。
生徒会役員ではないけれど生徒会補佐なのだから、何かしらの理由があって生徒会補佐に抜擢されたのだと思っていたが、違うのかもしれない。
この人は
変わる気もなければ、自分の意思を持ってもいない。
空っぽの人。
俺には、いらない人。
そんな人に、俺が時間を割いてまで何かをする理由は見当たらない。
ワイシャツの袖から覗く古めの包帯には気づかないふりをした。
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