花は何時でも憂鬱で

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chapter9

からっぽ

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河井の元から離れて、広げていた勉強道具を鞄に仕舞い込むと図書室を出る。

「うわっ。びっくりした。………帰るのか?」

図書室の扉を開けると、荒谷が目の前にいた。

「あぁ、帰る。」

「ちょっ………。それじゃ、俺も帰るって。」

荒谷の言葉を無視して、さっさと昇降口へと向かおうとすると嗅ぎ慣れてしまった香りが鼻腔をくすぐった。


_______クロユリ様。


「………っ、ケホッ。」


_______一度も、話すところを見たことがないわ。それどころか、笑ったことなんてあるのかしら。

「………………っは_______。」

_______あの部屋はすごい臭いがするから。入りたくないわ。

_______不気味よね。能面みたいだし………。

_______化け物みたいだわ。


「ケホッ。………馬鹿なことは考える、な。_______っ、ゴホッ。」

「大丈夫か?」

誰かに肩を掴まれて驚いて振り返ると、風紀委員長の手が宙を彷徨ったようにこちらに伸びていた。

「何がですか。」

「ぁ。いや、咳をしてたみたいだったから」

「すいません。気をつけます」

「前から思っていたけど、君は_______。俺のことが嫌いそうだ。………………あたり?」

少し寂しそうに笑うから、顔を背けてしまった。
これじゃあ、肯定しているのと同義だ。

「………いいえ。」

「当たりか。まぁ、しょうがないか」

「違いますよ」

「じゃあ、少しは好き?」

同じ赤色でそんな顔をされるのは正直
どうすればいいのか分からなくなる。

「眠れないなら、眠る前の1時間は端末とかいじらないこと、後はクラシックを聞くとか。あったかい牛乳とかがいいと思います」

突然の話題変換についていけないのか、わけが分からないという顔をする。俺だって、こんな話題の変え方をされたら戸惑うだろう。

袖口で、咳を抑え込んで逸らしていた顔を風紀委員長に向ける。

「少しは………………好きですよ_______。」

風紀委員長、貴方は似ているから。
だから、そんな顔をされるのは困ってしまう。
俺が決して見たくない顔はして欲しくない。

「ぇ、。…………ぁあ、え?嫌いじゃなくて?」

「風紀委員長様から、仰ったんですよ。」

「え。………あぁ、うん。」

豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をする風紀委員長を置いて学園を出る。




【時を同じくし、天宮の屋敷にて】

「あやめ様。このお華、腐っているようなので処分しても宜しいですか?」

「え?」

「華の向きが下向きになってますし。それに、少し臭いが酷いかと思うのですが?」

あやめがそれを聞いて、可笑しそうに笑うと
読んでいた本を閉じる。

「それは、そういう華なの。………それに、その華は春の好きな華だから捨てないで。」

「承知いたしました。」

_______コンコン。

「どうぞ。」

あやめの部屋に響く来訪者の音に、あやめと新人メイドどちらも扉の方へと顔を向ける。

「失礼いたします。」

「鈴森、どうかしたの?」

「そろそろ、診療の時間ですので。ご準備をお願いします。」

「えぇ。」

あやめによって送り出された新人メイドは扉の外に出て入れ替わりで医者が入っていくのを見ながら、顔色ひとつ変えない鈴森の顔色を窺う。

「あの、鈴森さん。あやめ様のお兄様はどこにいるんですか?ご病気か何かなんですか。屋敷にはいらっしゃらないんでしょうか?」

「口を謹みなさい。」

「はい、申し訳ありません。………ただ、あやめ様が恋しそうにクロユリは春様の好きなものだと仰るものですから。」

鈴森が新人メイドの言葉に目を丸くすると、微動だに動こうとしなかった顔を新人メイドの方へと向ける。

「春様と_______この屋敷で決して呼ばないように。」

「どうしてです?」

「その名前は、綺麗すぎるので似合わないからです」

「綺麗すぎるとは………?では、何とお呼びすれば?」

鈴森は意味がわからないと困惑しあからさまに動揺している様子を眺めてから再び視線を前に戻した。

「お呼びする機会は来ないですから。」

「それは、どういう意味ですか?」

「ただ、そのままよ。………2度とあのクロユリ様はこの屋敷には戻ってこないの。」

目の前に、急に現れたメイドに鈴森は一瞬、表情を曇らせて新人メイドは目を瞬かせた。

「冬野。」

「鈴森さん。蘭様を見かけませんでしたか?かくれんぼだって言ってからどうしても見当たらないんです。」

「見ていませんが」

「あの、今のはどういう意味なんでしょうか?」

新人メイドは冬野と呼ばれたメイドに今の言葉の意味はなんなのか尋ねると冬野は冷たく笑って答えた。

「クロユリ様は、あやめ様を捨てて出ていったということよ。からっぽ人間らしく」

「冬野、口を慎みなさい。」

「じゃあ、なんと呼べばいいのでしょうね。クロユリ様が好きなものはこの扉の先にいる方だけ。あやめ様が好きなものは好きになり、例え嫌いだとしても好きだという。そんな人間のことをからっぽ人間以外に、なんと呼べば宜しいのですか?」

「冬野。暫く、頭を冷やしなさい。」

「落胤のクロユリと呼ばれ、毎日のように贈られるクロユリに苦しんでいる時でさえ誰かに頼るどころか、周りを拒絶するのを見た時は、流石に思いました。_______哀れな化け物だと。」

「………冬野っ!」

普段、温厚な鈴森が声を荒げたため新人のメイドはびくりと肩を震わせ冬野はそれを意に介した様子もなく、一礼をして立ち去る。

「私情を挟んだようです。頭を冷やしてきます。でも、一華さん。………………貴方も思うでしょう、哀れな化け物だって。あの顔に生まれてさえなければと思うでしょう?」

鈴森は振り向かずに冷めた調子で呟く冬野には答える気がないように、いつもと変わりなく前を向いていた。

「なんのことだか、計りかねるお話ですね。」



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