花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
158 / 185
chapter9

からっぽ

 

河井の元から離れて、広げていた勉強道具を鞄に仕舞い込むと図書室を出る。

「うわっ。びっくりした。………帰るのか?」

図書室の扉を開けると、荒谷が目の前にいた。

「あぁ、帰る。」

「ちょっ………。それじゃ、俺も帰るって。」

荒谷の言葉を無視して、さっさと昇降口へと向かおうとすると嗅ぎ慣れてしまった香りが鼻腔をくすぐった。


_______クロユリ様。


「………っ、ケホッ。」


_______一度も、話すところを見たことがないわ。それどころか、笑ったことなんてあるのかしら。

「………………っは_______。」

_______あの部屋はすごい臭いがするから。入りたくないわ。

_______不気味よね。能面みたいだし………。

_______化け物みたいだわ。


「ケホッ。………馬鹿なことは考える、な。_______っ、ゴホッ。」

「大丈夫か?」

誰かに肩を掴まれて驚いて振り返ると、風紀委員長の手が宙を彷徨ったようにこちらに伸びていた。

「何がですか。」

「ぁ。いや、咳をしてたみたいだったから」

「すいません。気をつけます」

「前から思っていたけど、君は_______。俺のことが嫌いそうだ。………………あたり?」

少し寂しそうに笑うから、顔を背けてしまった。
これじゃあ、肯定しているのと同義だ。

「………いいえ。」

「当たりか。まぁ、しょうがないか」

「違いますよ」

「じゃあ、少しは好き?」

同じ赤色でそんな顔をされるのは正直
どうすればいいのか分からなくなる。

「眠れないなら、眠る前の1時間は端末とかいじらないこと、後はクラシックを聞くとか。あったかい牛乳とかがいいと思います」

突然の話題変換についていけないのか、わけが分からないという顔をする。俺だって、こんな話題の変え方をされたら戸惑うだろう。

袖口で、咳を抑え込んで逸らしていた顔を風紀委員長に向ける。

「少しは………………好きですよ_______。」

風紀委員長、貴方は似ているから。
だから、そんな顔をされるのは困ってしまう。
俺が決して見たくない顔はして欲しくない。

「ぇ、。…………ぁあ、え?嫌いじゃなくて?」

「風紀委員長様から、仰ったんですよ。」

「え。………あぁ、うん。」

豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をする風紀委員長を置いて学園を出る。




【時を同じくし、天宮の屋敷にて】

「あやめ様。このお華、腐っているようなので処分しても宜しいですか?」

「え?」

「華の向きが下向きになってますし。それに、少し臭いが酷いかと思うのですが?」

あやめがそれを聞いて、可笑しそうに笑うと
読んでいた本を閉じる。

「それは、そういう華なの。………それに、その華は春の好きな華だから捨てないで。」

「承知いたしました。」

_______コンコン。

「どうぞ。」

あやめの部屋に響く来訪者の音に、あやめと新人メイドどちらも扉の方へと顔を向ける。

「失礼いたします。」

「鈴森、どうかしたの?」

「そろそろ、診療の時間ですので。ご準備をお願いします。」

「えぇ。」

あやめによって送り出された新人メイドは扉の外に出て入れ替わりで医者が入っていくのを見ながら、顔色ひとつ変えない鈴森の顔色を窺う。

「あの、鈴森さん。あやめ様のお兄様はどこにいるんですか?ご病気か何かなんですか。屋敷にはいらっしゃらないんでしょうか?」

「口を謹みなさい。」

「はい、申し訳ありません。………ただ、あやめ様が恋しそうにクロユリは春様の好きなものだと仰るものですから。」

鈴森が新人メイドの言葉に目を丸くすると、微動だに動こうとしなかった顔を新人メイドの方へと向ける。

「春様と_______この屋敷で決して呼ばないように。」

「どうしてです?」

「その名前は、綺麗すぎるので似合わないからです」

「綺麗すぎるとは………?では、何とお呼びすれば?」

鈴森は意味がわからないと困惑しあからさまに動揺している様子を眺めてから再び視線を前に戻した。

「お呼びする機会は来ないですから。」

「それは、どういう意味ですか?」

「ただ、そのままよ。………2度とあのクロユリ様はこの屋敷には戻ってこないの。」

目の前に、急に現れたメイドに鈴森は一瞬、表情を曇らせて新人メイドは目を瞬かせた。

「冬野。」

「鈴森さん。蘭様を見かけませんでしたか?かくれんぼだって言ってからどうしても見当たらないんです。」

「見ていませんが」

「あの、今のはどういう意味なんでしょうか?」

新人メイドは冬野と呼ばれたメイドに今の言葉の意味はなんなのか尋ねると冬野は冷たく笑って答えた。

「クロユリ様は、あやめ様を捨てて出ていったということよ。からっぽ人間らしく」

「冬野、口を慎みなさい。」

「じゃあ、なんと呼べばいいのでしょうね。クロユリ様が好きなものはこの扉の先にいる方だけ。あやめ様が好きなものは好きになり、例え嫌いだとしても好きだという。そんな人間のことをからっぽ人間以外に、なんと呼べば宜しいのですか?」

「冬野。暫く、頭を冷やしなさい。」

「落胤のクロユリと呼ばれ、毎日のように贈られるクロユリに苦しんでいる時でさえ誰かに頼るどころか、周りを拒絶するのを見た時は、流石に思いました。_______哀れな化け物だと。」

「………冬野っ!」

普段、温厚な鈴森が声を荒げたため新人のメイドはびくりと肩を震わせ冬野はそれを意に介した様子もなく、一礼をして立ち去る。

「私情を挟んだようです。頭を冷やしてきます。でも、一華さん。………………貴方も思うでしょう、哀れな化け物だって。あの顔に生まれてさえなければと思うでしょう?」

鈴森は振り向かずに冷めた調子で呟く冬野には答える気がないように、いつもと変わりなく前を向いていた。

「なんのことだか、計りかねるお話ですね。」



感想 0

あなたにおすすめの小説

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

平穏な日常の崩壊。

猫宮乾
BL
 中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

和を以て貴しと為す

雨宿り
BL
"山奥に閉ざされた男子校"に入学した平凡な高校生の蓮水和は、周囲の異質さと距離を保ちながらもそれなりの日々を送っていた。 しかし、ひとつの事件に巻き込まれたことを境にその環境は一変する。 問題児の"転校生"と同室になり、クラスの"学級委員"に世話を焼かれ、"生徒会役員"と関わりができ、挙句"風紀委員"に目をつけられてしまう。 乗り越えたい過去と、目まぐるしい今に向き合いながら、和は様々な愛情を向けられるようになり...? ・ 非王道学園を目指しながらも、数多の美形たちに振り回されたり振り回したりするひとりの平凡によってお送りするぐちゃぐちゃとした群像劇をお楽しみいただけたらな、という感じのお話。 長くなる予定ですがのんびり更新して行きますので、気に入って頂けたら嬉しいです。 初投稿の為、なにか不備がありましたら申し訳ございません。 2026.03.12▶12話を更新。ふ、ふ、ふ。ようやっと出せました。このキャラを。という気持ちですが、まだ名前しか出ていないではないかと気が付きました。次回はガッツリ出す予定ですので。あと、書いていて三廻部先輩が思ったより元気になってしまって個人的にウケています。貴重なミステリアスお耽美枠が…。