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chapter9
呪い1
しおりを挟む定期試験の3日前の日に_______。
変な噂が流れていた。
「幽霊………が出るって本当なのか?」
「幽霊?………ぁあ。寮に出るって噂のことね。新くん、もしかして怖いの?」
「………ぇ。いや、怖くないけど。怖くない怖くない怖くない。」
昼休みの屋上で、荒谷が唐突に切り出した話は俺の耳にも入ってくるほど大きめの噂にはなっていたけれど、この時期というのもあってこれ以上騒ぎになることもならなさそうだ。
「その幽霊。きっと、この時期にあのお墓の周りに気味が悪いほど華が咲くからそれ関連だと思うよ。」
「墓って、何。」
「えへへ、教えてあげようか。えっとね」
「聞かない、聞きたくない、やめてください」
耳を塞ぎながら首を横に振る荒谷とそれを楽しそうに揶揄っている矢井島は目の前に日本史の参考書を広げる。
「新くん、はい。幽霊の話、しない代わりにお勉強の時間だよ。」
「これも嫌だ」
嫌だという割には参考書を手に取ってぶつぶつと単語を呟き出した荒谷を見ていたらいつのまにか隣に座っていた、矢井島がじっと見つめてきた。
「蒼くんは、幽霊とか大丈夫なんだ。意外」
「何で。」
「だって、お祭りの日に僕の仮面に驚いてたから幽霊も苦手だと思ってたのに。つまんないのー」
「アレは、不可抗力だ。」
「そっか。じゃあ、蒼くんとはお化け屋敷巡りできそうだね!楽しみにしてるね。ねぇねぇ、蒼くんって、胸元握るの癖でしょ?」
「………いや。」
咄嗟についた嘘は、きっと図星をつかれてしまったからだからだろう。けど、矢井島はそんなことを気にしたそぶりもなくフェンスに背中をつけて寄りかかり太陽の光に眩しそうに目を細める。
「今日、あっついよ。死んじゃう………それで。何か聞きたいことあるでしょ?」
「よく、分かったな」
「質問が出るように、わざと話したんだもん。」
「じゃあ、率直に聞く。………あの墓の周りに気味が悪いほどに咲く華って何?後、何で春田叶多について何の情報もないんだ。」
「黒い華が必ずといっていいほどこの時期にあの墓の周りで大量に咲くの、それに、その華が事故現場に落ちていたから気味が悪いって言われてる。………それともう一つの質問に答えるなら、春田叶多に関する情報は一切ないよ。処分されたらしい、他でもない春田叶多の手によってね。」
自分で、処分をした。
何故______________。
「噂がいっぱいありすぎて何が本当か分からないけど。………とんでもなく嫌われてる、だけど、少数の人達にとんでもなく好かれているのも事実なんだよ。後、有名なんだけど天宮要さんと恋人同士だったとか何とかって、聞いたことあるな。」
…………予想だにしない内容に、一瞬、固まった。けれど、なんとなく納得した。春田叶多の名前は、天宮の屋敷で聞いた覚えがあったから。
「ぁ。でも、卒業写真とかなら残ってるかもね。」
顔くらいなら分かるのか………いや、違う。
知ってるだろう。春田叶多の顔は知っている。
資料室で見つけた卒業アルバムにその名前が確かに載っていたんだから。
けれど、その写真は擦れすぎたのかなんなのか、顔ははっきりとは分からなかった。
だとしたら、見つけたとしても無駄だ。
春田叶多のことなんて分からない。
「ねぇ、あのさ。………蒼くんに聞きたかったんだけどあの日以来、あの格好してない?」
あの格好と言われて、一瞬、何のことかと思ったけれどすぐに新歓の日の格好かと思いなおす。
「してないけど、何で?」
「いや、何でもない。ただ、ちょっとだけ気になって。ねぇ、それより………………見てるこっちが暑いんだけど。蒼くん、暑くないの?制服の上着もその長い髪もおまけに今日はマスクなんてしてるし。見てて暑いよ。風邪でも引いたの?」
矢井島の言う通り今日は、半袖とはいかないけれどワイシャツの袖を捲っている生徒が大半で、上着を着てる生徒なんてほぼいない。
「いや、そういうわけじゃないけど。………ただ、何となく花粉症のじきだから。」
「ふぅん。………じゃあさ、髪縛ってみてもいい?」
「いや」
「蒼くんさ、僕が写真持ってるの忘れてない?」
「分かった。後ろ髪だけなら、いいよ。」
最初っから提案をする気はなかったらしい矢井島がポケットから取り出したゴムと櫛を手にして髪を梳く。
「えっと。………ここをこうして。」
ぶつぶつと言いながら髪を束ねていく矢井島の拙い指先の動きに懐かしい思い出を重ねる。
『これが、こうだから。………えっと。』
『あやめ。できないなら俺があやめの髪やろうか?夏野に聞いてくるから』
『いいの。できるったら、できるもん!春の髪、可愛くするんだから。………………これをこうして、できた!』
夏野にしてもらった髪型がよっぽど気に入ったのか自分の髪じゃ見えないからとまずは俺の髪でと実験台にされた、そのおかげで髪が肩まで伸びっぱなしだった時期もあった。
「できた!」
嬉しそうにいう言葉まで同じだから、鼻から抜けるように笑うと矢井島がきょとんとした表情をする。
「よくできました。」
頭をポンポンと撫でると矢井島はむっとした表情をした。
「ちょっと!今、笑ったでしょ!………確かに、上手くないけど!!」
矢井島は、よっぽど恥ずかしかったのか肩をぐらぐらと揺さぶってくる。その振動のせいで眼鏡がかちゃんと音を立てて落ちた。
「矢井島。………やめ」
「………え?」
聞く耳を持つ気配はないと思ったけれど、直ぐにぐらぐらと揺さぶる手は止まった。けど、矢井島は何かに引き込まれたようにじっと見つめられる。
「何?」
「なぁ。矢井島。ここ、分かんない」
俺と矢井島の間に割って入るように、荒谷が参考書を矢井島に見せる。
「びっくりした。」
「ここの問題の答え、意味わかんないんだけど。頭、わきそう」
「ここ、さっきも間違えてたよ。しょうがないなぁ」
矢井島が参考書を見ながら答えと参考書を見比べながら
説明している最中、荒谷も矢井島と同じように俺を見つめてきた。
「何?」
「いや、白いなぁと思って。」
「ちょっと、新くん聞いてる?」
「………聞いてるよ、勿論。ただ、佐藤が白いなーと思って見てた、矢井島もそう思う?」
「………………ぇ、あ。うん。僕もそう思うよ」
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