花は何時でも憂鬱で

青白

文字の大きさ
167 / 185
chapter9

秘密2






荒谷新side


「部屋まで送るよ。心配だし」

「え?そこまでしてもらわなくても………。これ以上のご迷惑はかけられませんし」



寮監室の前に置かれているタオルで頭を拭いていたら、少しして寮の中へと入ってきた風紀委員長と転校生の会話に聞き耳を立てていると、矢井島が小さな声で呟いた。

「珍しい」

「何が?」

「風紀委員長様って、見回り以外はいつも風紀室に篭ってるから、放課後に寮にいるなんて珍しいなって。それに、副風紀委員長様以外といるのなんてほぼ見たことないから。」

「ふぅん。………あの転校生、名前何だっけ。」

「西方宵くん、だよ。」


______________宵。
春にも前、教えてもらったのにすっかり忘れていた。



西方宵。



「新くんの知り合いとか?」

「いや。知り合いじゃない。でも、何でそんなこと聞くんだ?」

「………新くんが蒼くん以外にそんなに興味を示してることなんてないから」

「佐藤以外に興味示さないって、そんなことないだろ。」

「そんなことあるよ。………それより、蒼くんの所には行かないの?」

「話、終わってないだろ。それに、」


_______今は、行きたくない?


言い訳を重ねようとする自分に気づくと同時にある考えに至る。


俺はもしかしたら、春のところに行くのを躊躇ってるのかもしれない………。よぎった思考を頭から消そうと、矢井島からの視線から逃れようといんちょーと話している転校生を見る。


「飾られてる人形みたいに綺麗だな。」


転校生が噂されている理由も分かるぐらい、誰の目から見ても魅入ってしまうような可憐さ、精巧に作られた人形のような美しさ。



あの転校生を見てると、胸がざわつく。
争いようもないほどに引き寄せられるように向かう視線。



「確かに、そうかもね。でも、僕は蒼くんの方が綺麗だと思うけど。………綺麗だったよ。会長様があんなに必死になって探した理由もなんとなく分かる気がする。


………新くんも黒より蒼が好みなんでしょ?」

「え、何?どういう意味?」

「新くん、わざとだよね。ソレ。本当に何で執着してるのか分かってないの?………………それともまさかとは思うけど素なの?分かってないフリじゃなくて?」

矢井島の言っている意味が分からなくて、頭を捻っていると急に肩を叩かれて振り返る。

「会話中にごめんな。そこのタオル2枚ほど貰ってもいいかな?」

「どうぞ」

「ありがとう。」

この大雨のせいか寮監室の前に何十枚と重ねて置かれていたタオルの山から2枚をいんちょーに手渡すと転校生の方へと向かっていく。

「ごめん、濡れちゃったね」

「僕、そんなに濡れてないから大丈夫ですよ。風紀委員長さんの方が、濡れてますし。」

いんちょーは、自分が濡れているのはそっちのけで
俺が渡したタオルで転校生の濡れていた髪の毛を拭ったり
手慣れた手つきで甲斐甲斐しく転校生の世話を焼いていた。

「………ケホっ。」

「やっぱり、気持ち悪いみたいだな。部屋まで送るよ」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。変な臭いがしただけなので。それに、これ以上は申し訳ないです。」

急に、咳をしだした転校生を暫くの間、見つめ続ける。
身体中から鳴っているのではと思うほど、重く響き続ける心臓に手を当てる。


「おかしい………あの転校生」

「どうしたの。転校生って?………って、どこ行くの!新くん」


綺麗で護ってしまいたくなるような白くて小さい身体に華のように可憐な顔。



_______何だ………。これは、何?



「後は、俺たちが西方の面倒見るんで。いんちょーさん、急いでるんでしょ?」

いんちょーと転校生の側に寄ると、もともと白い肌のせいなのか具合が悪いからなのか青白い顔をした転校生の黒曜石のように濡れた瞳が俺を不安そうに見上げる。

「え?………あぁ、頼めるならお願いしたいが」

転校生へといんちょーは目配せをして、大丈夫なのか確認すると転校生は不安げな顔ではあったが、俺を見て頷く。

「分かった。君に頼むよ。………後、書類の不備のことで佐藤蒼くんに用事があるんだけど。彼、今、どこにいるのか分かる?」

「佐藤?佐藤なら………。いや、分からないです」

「そっか、分かった。じゃあ、悪いけど頼んだ。ありがとうな。荒谷くん。………最後まで送ってあげられなくてごめんね。西方くん」

「気にしないでください。ここまで、送って頂いてありがとうございます。」


お礼をいう転校生に返答するかわりに、頭を撫でて寮のエントランスから遠ざかり去っていく、いんちょーの後ろ姿を見ていたら矢井島が俺の顔を見て何か言いたげな顔をしていた。

「何か言いたいことでもあるのか?」

「何で嘘、言ったの?風紀委員長様、忙しいだろうし」


事務的な何かだとしても
春は、今、誰かに会いたいと思わないだろう………それに______________。



あのおーさまと違って
いんちょーが悪い奴じゃないのは分かってるけど。


「それに、蒼くんはいいの?新くんがこういうのほっとけない位、優しいのは分かるけど。」


「あのいんちょーには教えない。俺が行くから。」



自分が納得するような理由がない
部屋にいるだろうから、どんな様子なのか教えてほしい。
そういえばいいだけなのに、本能的に思う。


絶対に_______あの人と会わせたくない。



「転校生って、そういや、ケーセーチャンじゃなくて宵っていうんだな」

俺は転校生の方を向きながら話しかけると
転校生は、時折、咳をしながら俺を見て答える。

「ケーセーチャン?えっと………僕の名前は西方宵って言うんですよ。………荒谷新くん。」


俺の名前を知っていたことに驚いて
転校生の笑顔にまた、胸がざわつく。


「俺のこと知ってるんだな。」

「途中から入学するのは決まっていたので、覚えたんだ。荒谷くんの隣にいるのは矢井島美音くん、だよね?」

「うん。そうだよ。西方くんに覚えて貰えてるなんて嬉しい………………な。」

「矢井島?」

矢井島が不自然に言葉を詰まらせて、ワイシャツの裾をくいっと引っ張られるので、何かあったのかと思い矢井島の方を見る。


「新くん、二階見て。広場の二階」

広場の二階へと視線を這わせる。
エントランス近くにいた生徒たちも広場の二階を指差して矢井島も同じ場所を指さしていた。



俺もその注目の集まるところへ視線を注ぐと
広場の2階に色素を抜いたような髪に
真っ白な鬼の仮面を被る誰かが柵の上に座っていた。


「は_______っ。」

思わず言ってしまいそうになっていた名を直前で呑み込む。


だが______________その名は告げられた。


「__________________春。」




先日、来たばかりの転校生によって。



どうしてなのかと聞きたくなった。
春がその名前を会ったばかりの転校生に言うとは考えられないから。


だったら、何だ。何で知っている。
何より、何故。



あの普段とはかけ離れた格好をしている姿を見て
〝春〟だと言えるのか。



______________何故。


「今、なんていった?」

「え?」

困惑したような表情を浮かべる転校生は、数回、瞳を瞬かせる。

「僕、………っふ。何か言ってた?ケホ。僕、たまに独り言、言っちゃうから。それかもしれないね。………ごめんね。」



転校生は苦しそうに咳を無理やり抑えるようにして答える。



けれど_______確かに、発せられた。その名前を
間違いだとはどうしても思えない。




じゃあ、嘘をつく、その理由は何だ。




今日、初めて会った転校生。
その転校生に対する違和感がゆっくりと形作られていく。



たった一つの嘘が、肌が栗毛立つほどの危険信号を送ってくる。


「荒谷くん。どうかした?」



暗闇と同じ黒い目が俺を見つめる。



心臓が底冷えするほどの、重い鼓動がドクリと鳴った。





感想 0

あなたにおすすめの小説

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

平穏な日常の崩壊。

猫宮乾
BL
 中学三年生の冬。母の再婚と義父の勧めにより、私立澪標学園を受験する事になった俺。この頃は、そこが俗に言う『王道学園』だとは知らなかった。そんな俺が、鬼の風紀委員長と呼ばれるようになるまでと、その後の軌跡。※王道学園が舞台の、非王道作品です。俺様(風)生徒会長×(本人平凡だと思ってるけど非凡)風紀委員長。▼他サイトで完結済み、転載です。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)