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chapter9
秘密2
荒谷新side
「部屋まで送るよ。心配だし」
「え?そこまでしてもらわなくても………。これ以上のご迷惑はかけられませんし」
寮監室の前に置かれているタオルで頭を拭いていたら、少しして寮の中へと入ってきた風紀委員長と転校生の会話に聞き耳を立てていると、矢井島が小さな声で呟いた。
「珍しい」
「何が?」
「風紀委員長様って、見回り以外はいつも風紀室に篭ってるから、放課後に寮にいるなんて珍しいなって。それに、副風紀委員長様以外といるのなんてほぼ見たことないから。」
「ふぅん。………あの転校生、名前何だっけ。」
「西方宵くん、だよ。」
______________宵。
春にも前、教えてもらったのにすっかり忘れていた。
西方宵。
「新くんの知り合いとか?」
「いや。知り合いじゃない。でも、何でそんなこと聞くんだ?」
「………新くんが蒼くん以外にそんなに興味を示してることなんてないから」
「佐藤以外に興味示さないって、そんなことないだろ。」
「そんなことあるよ。………それより、蒼くんの所には行かないの?」
「話、終わってないだろ。それに、」
_______今は、行きたくない?
言い訳を重ねようとする自分に気づくと同時にある考えに至る。
俺はもしかしたら、春のところに行くのを躊躇ってるのかもしれない………。よぎった思考を頭から消そうと、矢井島からの視線から逃れようといんちょーと話している転校生を見る。
「飾られてる人形みたいに綺麗だな。」
転校生が噂されている理由も分かるぐらい、誰の目から見ても魅入ってしまうような可憐さ、精巧に作られた人形のような美しさ。
あの転校生を見てると、胸がざわつく。
争いようもないほどに引き寄せられるように向かう視線。
「確かに、そうかもね。でも、僕は蒼くんの方が綺麗だと思うけど。………綺麗だったよ。会長様があんなに必死になって探した理由もなんとなく分かる気がする。
………新くんも黒より蒼が好みなんでしょ?」
「え、何?どういう意味?」
「新くん、わざとだよね。ソレ。本当に何で執着してるのか分かってないの?………………それともまさかとは思うけど素なの?分かってないフリじゃなくて?」
矢井島の言っている意味が分からなくて、頭を捻っていると急に肩を叩かれて振り返る。
「会話中にごめんな。そこのタオル2枚ほど貰ってもいいかな?」
「どうぞ」
「ありがとう。」
この大雨のせいか寮監室の前に何十枚と重ねて置かれていたタオルの山から2枚をいんちょーに手渡すと転校生の方へと向かっていく。
「ごめん、濡れちゃったね」
「僕、そんなに濡れてないから大丈夫ですよ。風紀委員長さんの方が、濡れてますし。」
いんちょーは、自分が濡れているのはそっちのけで
俺が渡したタオルで転校生の濡れていた髪の毛を拭ったり
手慣れた手つきで甲斐甲斐しく転校生の世話を焼いていた。
「………ケホっ。」
「やっぱり、気持ち悪いみたいだな。部屋まで送るよ」
「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。変な臭いがしただけなので。それに、これ以上は申し訳ないです。」
急に、咳をしだした転校生を暫くの間、見つめ続ける。
身体中から鳴っているのではと思うほど、重く響き続ける心臓に手を当てる。
「おかしい………あの転校生」
「どうしたの。転校生って?………って、どこ行くの!新くん」
綺麗で護ってしまいたくなるような白くて小さい身体に華のように可憐な顔。
_______何だ………。これは、何?
「後は、俺たちが西方の面倒見るんで。いんちょーさん、急いでるんでしょ?」
いんちょーと転校生の側に寄ると、もともと白い肌のせいなのか具合が悪いからなのか青白い顔をした転校生の黒曜石のように濡れた瞳が俺を不安そうに見上げる。
「え?………あぁ、頼めるならお願いしたいが」
転校生へといんちょーは目配せをして、大丈夫なのか確認すると転校生は不安げな顔ではあったが、俺を見て頷く。
「分かった。君に頼むよ。………後、書類の不備のことで佐藤蒼くんに用事があるんだけど。彼、今、どこにいるのか分かる?」
「佐藤?佐藤なら………。いや、分からないです」
「そっか、分かった。じゃあ、悪いけど頼んだ。ありがとうな。荒谷くん。………最後まで送ってあげられなくてごめんね。西方くん」
「気にしないでください。ここまで、送って頂いてありがとうございます。」
お礼をいう転校生に返答するかわりに、頭を撫でて寮のエントランスから遠ざかり去っていく、いんちょーの後ろ姿を見ていたら矢井島が俺の顔を見て何か言いたげな顔をしていた。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「何で嘘、言ったの?風紀委員長様、忙しいだろうし」
事務的な何かだとしても
春は、今、誰かに会いたいと思わないだろう………それに______________。
あのおーさまと違って
いんちょーが悪い奴じゃないのは分かってるけど。
「それに、蒼くんはいいの?新くんがこういうのほっとけない位、優しいのは分かるけど。」
「あのいんちょーには教えない。俺が行くから。」
自分が納得するような理由がない
部屋にいるだろうから、どんな様子なのか教えてほしい。
そういえばいいだけなのに、本能的に思う。
絶対に_______あの人と会わせたくない。
「転校生って、そういや、ケーセーチャンじゃなくて宵っていうんだな」
俺は転校生の方を向きながら話しかけると
転校生は、時折、咳をしながら俺を見て答える。
「ケーセーチャン?えっと………僕の名前は西方宵って言うんですよ。………荒谷新くん。」
俺の名前を知っていたことに驚いて
転校生の笑顔にまた、胸がざわつく。
「俺のこと知ってるんだな。」
「途中から入学するのは決まっていたので、覚えたんだ。荒谷くんの隣にいるのは矢井島美音くん、だよね?」
「うん。そうだよ。西方くんに覚えて貰えてるなんて嬉しい………………な。」
「矢井島?」
矢井島が不自然に言葉を詰まらせて、ワイシャツの裾をくいっと引っ張られるので、何かあったのかと思い矢井島の方を見る。
「新くん、二階見て。広場の二階」
広場の二階へと視線を這わせる。
エントランス近くにいた生徒たちも広場の二階を指差して矢井島も同じ場所を指さしていた。
俺もその注目の集まるところへ視線を注ぐと
広場の2階に色素を抜いたような髪に
真っ白な鬼の仮面を被る誰かが柵の上に座っていた。
「は_______っ。」
思わず言ってしまいそうになっていた名を直前で呑み込む。
だが______________その名は告げられた。
「__________________春。」
先日、来たばかりの転校生によって。
どうしてなのかと聞きたくなった。
春がその名前を会ったばかりの転校生に言うとは考えられないから。
だったら、何だ。何で知っている。
何より、何故。
あの普段とはかけ離れた格好をしている姿を見て
〝春〟だと言えるのか。
______________何故。
「今、なんていった?」
「え?」
困惑したような表情を浮かべる転校生は、数回、瞳を瞬かせる。
「僕、………っふ。何か言ってた?ケホ。僕、たまに独り言、言っちゃうから。それかもしれないね。………ごめんね。」
転校生は苦しそうに咳を無理やり抑えるようにして答える。
けれど_______確かに、発せられた。その名前を
間違いだとはどうしても思えない。
じゃあ、嘘をつく、その理由は何だ。
今日、初めて会った転校生。
その転校生に対する違和感がゆっくりと形作られていく。
たった一つの嘘が、肌が栗毛立つほどの危険信号を送ってくる。
「荒谷くん。どうかした?」
暗闇と同じ黒い目が俺を見つめる。
心臓が底冷えするほどの、重い鼓動がドクリと鳴った。
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