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chapter9
化け物1
荒谷新side
「荒谷くん。無事?」
「………雪さん?」
暗闇の中で光った突然の白い光の眩しさに目を細めながら
聞き覚えのある声を頼りに答える。
「ぁ………。ごめんね、眩しかった?端末のライト」
徐々に目が慣れてきたら端末を持った目の前の雪さんの姿を目に留める。周りの生徒も雪さんと同様に端末のライトを使って辺りを照らしていた。
「大丈夫です。………それより、矢井島達を見てませんか?」
「さっきまで一緒にいた子達だよね。見てないけど、はぐれたの?」
「はい。さっきまで一緒にいたんですけど。矢井島と西方と。」
「雪。………不味いことになったみたいや。最上階に早ういかなあかん。」
雪さんの肩を叩いて話しかけた人は、さっきの関西弁を使ってた人だった。
「分かった。話は聞くけど。ここじゃ人が多すぎる。荒谷くん、この事は今度話すから。お願いね」
俺が関西弁の生徒に何で偽物の白鬼に扮させていたのか、今にも聞き出そうとしていた気配を察知してか、雪さんはしっと唇に人差し指を置くと関西弁の生徒を連れてどこかへと行ってしまった。
「今のって、広報様?」
「びっ……くりした。いつからいた?」
「ついさっき。新くんって色んな人と知り合いみたいだね。………ねぇ、それより西方くんがいなくなっちゃった」
「どういう意味だ?」
「分かんない。途中ではぐれちゃったみたいで………具合悪そうな上に、西方くんによくない考え持つ人もいるだろうし」
この停電と生徒会の役員がいることで人が減ることはなく増える一方で興奮と動揺を増していく集団が、これ以上同じところに居続ければ統率が取れなくなってしまうのも想像できる。
未だに、通信障害が起こっているためインターネットも端末で誰かと連絡を取ることもできないストレスがある上に、テスト期間だから何かが起こってしまう場合も充分考えられる。
「いんちょーさんにも、頼まれたし。はやく探さないとな。矢井島、端末持ってるか。俺、端末を失くしてさ」
「蒼くんも失くしたって聞いたけど新くんまで、失くしてたの?………わっ。」
矢井島が制服のポケットから端末を取り出そうとしていたら、誰かにぶつかられたようで俺の方へとよろける。ぶつかった拍子に落ちた端末なんかどうでもよさそうに、矢井島が俺から勢いよく離れて辺りを見回す。
「矢井島?」
「今の人、どこ?」
「さぁ?分かんないけど、怪我とかしてないか?」
「どっちに行ったか分かる?」
何で今そんなことを気にするのかとは思っていたら
矢井島が切羽詰まった様子で早口に捲し立てる。
「蒼くんがいる。………白い仮面持って、蒼い目に白髪だった。今。ぶつかってきたの絶対に蒼くんだよっ………!」
「どこだ。」
顔をあげて辺りを見回すが、こんな暗闇じゃ探し出すことなんてできやしない。
今の春はきっといつもみたいに取り繕えない。
昔から何があろうと隠すのが上手で、例え小さな違和感に気づいたとしても簡単に誤魔化されてしまっていた。
でも今は矢井島も気づくほどに、変だ。嫌な予感が脳裏をよぎる。
『あそこにいるのって、例の幽霊かな?』
『あの真っ白な幽霊だよね。でも、さっき会計様が幽霊が自分達だって言ってたよ?』
『ぇ。………………てゆうか、アレって噂通りなら会長様が探してた、ほら、佐藤なんちゃらっていう地味な人が間違えられてた。………………なんだっけ、白鬼?』
『まさか。そんなわけないよ』
そんな時、近くの生徒達がしている会話が耳に入ってくる。俺もその会話をしている生徒達が見る先____フロアにあるエレベーターのある開けた空間____に視線を向ける。
「新くん、エレベーターの前。」
エレベーターの扉の上方につけられている仄かに灯る灯りは電気で繋がっていないものなのだろう、エレベーターの前にいる人物の顔を僅か浮かび上がらせる。
………………………………………はる?
頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われる。
引き寄せられるように、一歩、一歩とエレベーターの方へ歩いていく。暗闇の中、顔がやっと見えるくらいの距離になって確信する。
片手に白い鬼の仮面を持って
同じ蒼色の瞳を携えて、記憶と何一つ変わらず真っ白で綺麗なままの春がそこにいるのだと。
『白い髪に蒼い瞳って、白鬼?』
『ぇ、何でっ?』
『暗くてよく見えない。どこ?』
『何の話?』
ちらほらと聞こえてくる声が、段々と多くなるが
はっきりと見えてる人数は多くないだろう。今ならまだ、気づいている人数も少ない。………まだ、隠せる。
「………新くん、急に何でとまっ………た。」
俺の後ろをついて来ていたらしい矢井島が急に立ち止まった俺へと向けてくる視線を感じつつも、エレベーター前の人物に視線を奪われる。昔、初めて会った時に魅入った蕩けるような笑顔を向けてくるから、意識ごと刈り取ってしまうような甘い笑顔を。
『………うわっ。』
『__________ぇ。』
この暗闇の中だ、まず春の存在にも気づかない奴も、例えその存在に気づいたとしてもこの暗闇じゃ見えない奴もいる。けれど、あの笑みに魅入られてしまった奴がいるのも事実だった。
________トクリ、トクリ。
煩く音を立てる心臓も止まってくれることなく、初めて会ったあの時のようにとくりとくりと早鐘を打ち続ける。
………………戻ってきたのか。_____ほんとうに?
そして、消えた照明がぱちっと点きその明るさに目を閉じたその一瞬で、目の前の春は魔法でもかかったかのように消えてみせた。
「どこだ。」
「新くん、エレベーターの近く人だかりができてる。」
明るくなった寮の中、エレベーターの近く誰かを取り囲むみたいに円を描いている集団の方を矢井島が指をさす。
_______ドクリ。
集団の中の無数の手がその真ん中にいる誰かへと手を伸ばす。身体全体に染み渡るような心音が低く響く。
「………はるっ。」
その人だかりを掻き分けるように入っていくと
真ん中に誰かが倒れていた。
____________白じゃない………。なら、違う………か。
その事実に胸を撫で下ろすが、その中心に倒れていた人物の顔を見るとさっきの転校生が苦しそうに顔を真っ青にして倒れ込んでいた。
『宵くん?………ぇ、倒れて。』
『とりあえず、運ぶか。保険医のとこに』
『保険医って普通、学園にいるだろう。どこに運ぶんだよ。この大雨の中。それに何でお前が運ぶことになってんだよ。』
『今、そんなのどうでもいいだろっ。』
『そーやって。点数稼ぎするつもりかよ!』
どこもかしこもそんな会話だらけで、倒れている転校生を抱き起こすこともせずに口論を続けているだけだった。停電と偽物騒ぎ、度重なる動揺のためか正常な判断が誰一人できていない。
「邪魔だ。」
転校生の周りにいた生徒を退けて抱き上げると
周りの生徒が何か言っていたが無視して矢井島の所へと向かう。
「俺の部屋、あの花が大量にあるから。部屋、貸してくれるか。転校生運ぶから」
「うん、分かった。」
『おい!荒谷、何で勝手に宵くんに触って』
文句を言う連中の中から、誰かが声をかけてきた。
振り返ることはなく、視線だけをそいつに向ける。
「勝手って………まるで物みたいだな。人をおもちゃみたいに扱うなんておかしいだろ。この転校生はアンタのもの?」
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