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45 可哀そうなレオンハルト様
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ずいぶんと前から、違和感はあった。
侍女が
『髪をお切りしますね』
と言って切るはさみの音が軽いことに。
『マッサージの時お休みでしたので、爪もお切りしておきました』
と言われた時、切られるほど伸びてたかな? と気づいた瞬間に。
すっかり小食になって、生理も止まって、紙で切った指先が一瞬で治ってしまって……
そういえば、昔家令だったクルトが言っていたな、
『旦那様が旅でいない50年間、あの女はこの屋敷を我が物顔で采配し、女王気取りだったんですぞ!! 私がどれほど苦労したと…』と。
20才後半にしか見えないレオンハルト様が、50年旅に出ていたって……
こっそり出かけた王都図書館で、調べた魔族の特徴。
魔法を使い、容姿端麗、そして……
「不老で長命…」
純血の魔族は数千年生きたという。
獣人とのハーフであるレオンハルト様の寿命は、どれくらいなんだろう。
鏡の前に座り、自分の顔を見る。
50才になっても変わらぬ、娘のような幼い顔。
抜けるような白い肌に、シミひとつ、シワ一筋ない肌。
「やられたな」
そうつぶやく。
「ほんとうに、さみしがりなんだから」
何となく、想像はできる。
長命不老のレオンハルト様の恐怖。
周りはどんどん老いていき死んでいく、自分だけ取り残される。
私の専属侍女だったベティもとっくに引退し、魔族の血をひく使用人の中でも一番血が濃かったクルトも隠居し、家令職は息子が引き継いだ。
番の私に置いて行かれることに、耐えられなかったんだろう。
何かしらの方法で、私を魔族にしたのだろうか?
「でも番なんて…」
獣人の番に対する愛は……
本能の呪いではないのか。
そこに本当の愛はあるのか?
本人の意志はあるのか?
「可哀想な、レオンハルト様」
番を失いたくない一心で、勝手に私を不老にした。
でも、それを言い出せない彼はその罪悪感で、ますます私に傾倒して……
最近人の気配にも機敏になった。
魔族の能力なんだろうか、感じる、近づいてくる気配。
「ただいま」
鏡台の椅子に座っている私を、レオンハルト様が背後から抱きしめる。
強く、強く、大きな身体で私を包み込むように、逃がさないように。
魔族になった私も、いずれ血を欲するようになるんだろうか。
鏡に写るのは、白く老いを知らない二つの顔。
私を心から愛おしそうに見つめる、レッドパープル・アメジストの瞳はとろけるよう。
この人は生い立ちからか、本当に寂しがりだ。
そして本能のせいで、番の私にすがってくる。
可哀そうな…可哀そうな……
「今日で王宮を辞したの?」
やさしくその瞳を見ながら、問いかける。
「うん。もう社交界にも出ないし、これからはアリーシアとずっと一緒だよ」
「嬉しいわ」
レオンハルト様の頬が、ピンク色に染まる。
可愛らしい。
「ねぇ、これからどうする? 屋敷にこもってずーっと抱き合うのもいいけど、旅に出るとかどうかな?」
「いいわね! 私外国に行ったことがないから行ってみたいわ。抱き合うのは旅先でもできるでしょ?」
そう答えると本当に、本当に、うれしそうに笑うレオンハルト様は……少年のよう。
私が喜ぶのが嬉しくて、私の笑顔を見るのが大好きなのだ。
ああ本当に可愛くて、可哀想な私の旦那様。
侍女が
『髪をお切りしますね』
と言って切るはさみの音が軽いことに。
『マッサージの時お休みでしたので、爪もお切りしておきました』
と言われた時、切られるほど伸びてたかな? と気づいた瞬間に。
すっかり小食になって、生理も止まって、紙で切った指先が一瞬で治ってしまって……
そういえば、昔家令だったクルトが言っていたな、
『旦那様が旅でいない50年間、あの女はこの屋敷を我が物顔で采配し、女王気取りだったんですぞ!! 私がどれほど苦労したと…』と。
20才後半にしか見えないレオンハルト様が、50年旅に出ていたって……
こっそり出かけた王都図書館で、調べた魔族の特徴。
魔法を使い、容姿端麗、そして……
「不老で長命…」
純血の魔族は数千年生きたという。
獣人とのハーフであるレオンハルト様の寿命は、どれくらいなんだろう。
鏡の前に座り、自分の顔を見る。
50才になっても変わらぬ、娘のような幼い顔。
抜けるような白い肌に、シミひとつ、シワ一筋ない肌。
「やられたな」
そうつぶやく。
「ほんとうに、さみしがりなんだから」
何となく、想像はできる。
長命不老のレオンハルト様の恐怖。
周りはどんどん老いていき死んでいく、自分だけ取り残される。
私の専属侍女だったベティもとっくに引退し、魔族の血をひく使用人の中でも一番血が濃かったクルトも隠居し、家令職は息子が引き継いだ。
番の私に置いて行かれることに、耐えられなかったんだろう。
何かしらの方法で、私を魔族にしたのだろうか?
「でも番なんて…」
獣人の番に対する愛は……
本能の呪いではないのか。
そこに本当の愛はあるのか?
本人の意志はあるのか?
「可哀想な、レオンハルト様」
番を失いたくない一心で、勝手に私を不老にした。
でも、それを言い出せない彼はその罪悪感で、ますます私に傾倒して……
最近人の気配にも機敏になった。
魔族の能力なんだろうか、感じる、近づいてくる気配。
「ただいま」
鏡台の椅子に座っている私を、レオンハルト様が背後から抱きしめる。
強く、強く、大きな身体で私を包み込むように、逃がさないように。
魔族になった私も、いずれ血を欲するようになるんだろうか。
鏡に写るのは、白く老いを知らない二つの顔。
私を心から愛おしそうに見つめる、レッドパープル・アメジストの瞳はとろけるよう。
この人は生い立ちからか、本当に寂しがりだ。
そして本能のせいで、番の私にすがってくる。
可哀そうな…可哀そうな……
「今日で王宮を辞したの?」
やさしくその瞳を見ながら、問いかける。
「うん。もう社交界にも出ないし、これからはアリーシアとずっと一緒だよ」
「嬉しいわ」
レオンハルト様の頬が、ピンク色に染まる。
可愛らしい。
「ねぇ、これからどうする? 屋敷にこもってずーっと抱き合うのもいいけど、旅に出るとかどうかな?」
「いいわね! 私外国に行ったことがないから行ってみたいわ。抱き合うのは旅先でもできるでしょ?」
そう答えると本当に、本当に、うれしそうに笑うレオンハルト様は……少年のよう。
私が喜ぶのが嬉しくて、私の笑顔を見るのが大好きなのだ。
ああ本当に可愛くて、可哀想な私の旦那様。
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