毒はすり替えておきました

夜桜

文字の大きさ
1 / 1

婚約破棄

 いつもの生活。
 いつもの豪華なお料理。

 ずっとずっとこんな幸せな毎日が続くと信じていた。

 けれど。
 伯爵様の様子がおかしかった。

 フォークをテーブルに置くと彼は真剣な眼差しでこう口にした。

「……モネ、悪いんだが婚約を破棄してくれないか」
「…………なぜ。なぜ、今そんなことをおっしゃるのですか。そんなの嫌に決まっているでしょう」

「そうか、残念だ。でもいい、モネ……君はもう死んでいるのだから」
「え……」

「あと三十秒もしない内に君は毒に侵され、もがき苦しみ、死を迎えるだろう」


 残酷に笑う伯爵様。
 ああ、やっぱりね。
 彼の雇っているメイドから全てを聞いていた。

 だから。


「残念でした」
「なんだと」
「伯爵様、本当に残念でなりません」
「どういうことだ」

「この料理、すり替えておいたんです」

「……!? な、なにを――がァ!?」


 首を抑え、もがき苦しむ伯爵。テーブルの上のお皿や料理を薙ぎ払い、こちらへ向かってくる。


「婚約破棄も毒を盛ることも全て知っていたのですよ」
「き、貴様……モネ……」

「伯爵、わたしは本当に幸せだった。ずっとあなたと一緒にいたかった。なのに、なぜ裏切ったのです」

「…………モネ」


 ガタンと床に伏せる伯爵は力尽きた。
 もう意識はない。
 彼の体は急速に冷たくなってしまった。
 酷い人。
 当然の報い。
 わたしを裏切り、殺そうとした罰だ。
 さようなら、伯爵様。
 その後、わたしは裁かれることなく無罪となった。伯爵のわたしに対する殺意が認められたからだ。正当防衛とみなされたのだ。


 数日後。


 オレステイア伯が現れた。


「久しぶりだね、モネ」
「オレステイア伯……どうなされたのです」
「今回のことさ。僕が君を無罪にするよう、あっちこっちに取り合ったのさ」
「そうだったのですか」

 それで正当防衛が認められたんだ。
 オレステイア伯のおかげね。

「これからどうするんだい?」
「……特に考えてはいないのですが、新しい出会いは欲しいです。ひとりぼっちで寂しいので」

「そうか。なら、僕と一緒に来ないか」
「……ですが」

「君のような美しい女性を放ってはおけない。それにね、今回の毒殺事件の影響で、貴族たちは疑心暗鬼に落ちっているんだ」

「え……」

「この国に危険な毒物が流通していると噂が広まってしまってね。食事をとるのにも一苦労さ。でも、他の領地なら影響はない。僕の屋敷なら安全だよ」

 彼なら守ってくれる。
 わたしを無罪にしてくれたのもオレステイア伯なのだから。

 彼についていく。


 ◆


 その後、オレステイア伯はわたしを幸せにしてくれた。
 毒のない、幸福な毎日。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

「そんなの聞いてない!」と元婚約者はゴネています。

音爽(ネソウ)
恋愛
「レイルア、許してくれ!俺は愛のある結婚をしたいんだ!父の……陛下にも許可は頂いている」 「はぁ」 婚約者のアシジオは流行りの恋愛歌劇に憧れて、この良縁を蹴った。 本当の身分を知らないで……。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

私の誕生日パーティーを台無しにしてくれて、ありがとう。喜んで婚約破棄されますから、どうぞ勝手に破滅して

珠宮さくら
恋愛
公爵令嬢のペルマは、10年近くも、王子妃となるべく教育を受けつつ、聖女としての勉強も欠かさなかった。両立できる者は、少ない。ペルマには、やり続ける選択肢しか両親に与えられず、辞退することも許されなかった。 特別な誕生日のパーティーで婚約破棄されたということが、両親にとって恥でしかない娘として勘当されることになり、叔母夫婦の養女となることになることで、一変する。 大事な節目のパーティーを台無しにされ、それを引き換えにペルマは、ようやく自由を手にすることになる。 ※全3話。

【完結】王女の婚約者をヒロインが狙ったので、ざまぁが始まりました

miniko
恋愛
ヒロイン気取りの令嬢が、王女の婚約者である他国の王太子を籠絡した。 婚約破棄の宣言に、王女は嬉々として応戦する。 お花畑馬鹿ップルに正論ぶちかます系王女のお話。 ※タイトルに「ヒロイン」とありますが、ヒロインポジの令嬢が登場するだけで、転生物ではありません。 ※恋愛カテゴリーですが、ざまぁ中心なので、恋愛要素は最後に少しだけです。

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。