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最終話「光と氷の果て ― 永遠の誓い」
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雪が降っていた。
白い粒が、燃えるような空を静かに覆い隠していく。
アークライト王国の王都は、もう面影すらなかった。
瓦礫と氷の塔、崩れた城壁。
それでも――まだ何かが生きている。
「気をつけろ。……ここにはまだ、“あの呪い”の残滓がある」
ユリウス陛下が低く告げる。
彼の黒い外套には雪が積もり、金の瞳が揺らめいていた。
「ええ。わたくしにも感じます」
胸の奥で、ざわめく声。
神の声ではない。
もっと近く、もっと悲しい響き――。
『……セレナ……』
聞き覚えのある声。
振り返ると、崩れた回廊の影に、獣がいた。
金の鬣、濁った青い瞳。
レオン――。
「セレナ……たすけて……」
その声は人のものだった。
だが、次の瞬間には喉が裂け、獣の咆哮に変わる。
「がおおおおお!!!」
ユリウス陛下が前へ出た。
氷の魔力が舞い、空気が凍る。
「セレナ、下がれ!」
けれど、わたくしはその背に手を伸ばした。
「お待ちください、陛下。……彼は、完全には呪いに飲まれていません!」
レオンの瞳に、かすかに涙が残っていた。
誰かを恨むのではなく、救いを求める光。
「神よ――どうすれば……」
問いかけると、風が答えた。
『救いとは、裁きの先にある』
わたくしは歩み出た。
凍りつく地面の上、恐れずに。
「レオン殿下。あなたの罪は、もう世界が見ています。
けれど――わたくしは、あなたを憎んではいません」
獣の呼吸が荒くなる。
爪が地を掴み、唸り声が漏れた。
「だから、もう――終わらせましょう」
手のひらをかざす。
光があふれる。
それは神の力ではない。
わたくし自身の祈り。
柔らかな金色の輝きが、獣を包みこむ。
レオンの体が崩れ落ち、静かに息を吐いた。
その顔には、少年のころの穏やかな笑みが戻っていた。
「……ありがとう、セレナ……」
光が消え、雪が静かに降り積もる。
その音だけが、彼の最期を見送った。
空は淡く、青く澄み渡っていた。
呪いは消え、王国の氷が溶け始めている。
「……終わりましたね」
「いや、始まりだ」
ユリウス陛下が隣に立つ。
冷たい風の中で、その手がわたくしの肩に触れた。
「セレナ。お前は神の声ではなく、自分の心で世界を動かした」
「そんな大それたことは……」
「いいや。お前がいたから、俺は生き、国が救われた」
彼の指が頬に触れ、額が寄せられる。
わたくしは目を閉じた。
「これからも――傍にいてくれるか?」
「……氷が溶けても、あなたがいる限り、わたくしはここにいます」
唇が触れた。
雪が舞い、光が差し込む。
氷の帝と、神に愛された声。
ふたつの運命が、ようやく一つになった瞬間だった。
* * *
その後――。
帝都には新しい季節が訪れた。
氷の塔には花が咲き、人々は“氷の庭の春”と呼んだ。
わたくし、セレナ・ヴァルシュタインは正式に皇妃として迎えられ、ユリウス・アウグスト陛下と共に、新しい帝国の礎を築いた。
わたくしの祈りは今もどこかで風に乗り、
誰かの胸にこう囁いている――。
『恐れるな。光は、氷の下でも生きている』
氷の帝国に春が満ち、永遠の愛が続いていく。
- 完 -
白い粒が、燃えるような空を静かに覆い隠していく。
アークライト王国の王都は、もう面影すらなかった。
瓦礫と氷の塔、崩れた城壁。
それでも――まだ何かが生きている。
「気をつけろ。……ここにはまだ、“あの呪い”の残滓がある」
ユリウス陛下が低く告げる。
彼の黒い外套には雪が積もり、金の瞳が揺らめいていた。
「ええ。わたくしにも感じます」
胸の奥で、ざわめく声。
神の声ではない。
もっと近く、もっと悲しい響き――。
『……セレナ……』
聞き覚えのある声。
振り返ると、崩れた回廊の影に、獣がいた。
金の鬣、濁った青い瞳。
レオン――。
「セレナ……たすけて……」
その声は人のものだった。
だが、次の瞬間には喉が裂け、獣の咆哮に変わる。
「がおおおおお!!!」
ユリウス陛下が前へ出た。
氷の魔力が舞い、空気が凍る。
「セレナ、下がれ!」
けれど、わたくしはその背に手を伸ばした。
「お待ちください、陛下。……彼は、完全には呪いに飲まれていません!」
レオンの瞳に、かすかに涙が残っていた。
誰かを恨むのではなく、救いを求める光。
「神よ――どうすれば……」
問いかけると、風が答えた。
『救いとは、裁きの先にある』
わたくしは歩み出た。
凍りつく地面の上、恐れずに。
「レオン殿下。あなたの罪は、もう世界が見ています。
けれど――わたくしは、あなたを憎んではいません」
獣の呼吸が荒くなる。
爪が地を掴み、唸り声が漏れた。
「だから、もう――終わらせましょう」
手のひらをかざす。
光があふれる。
それは神の力ではない。
わたくし自身の祈り。
柔らかな金色の輝きが、獣を包みこむ。
レオンの体が崩れ落ち、静かに息を吐いた。
その顔には、少年のころの穏やかな笑みが戻っていた。
「……ありがとう、セレナ……」
光が消え、雪が静かに降り積もる。
その音だけが、彼の最期を見送った。
空は淡く、青く澄み渡っていた。
呪いは消え、王国の氷が溶け始めている。
「……終わりましたね」
「いや、始まりだ」
ユリウス陛下が隣に立つ。
冷たい風の中で、その手がわたくしの肩に触れた。
「セレナ。お前は神の声ではなく、自分の心で世界を動かした」
「そんな大それたことは……」
「いいや。お前がいたから、俺は生き、国が救われた」
彼の指が頬に触れ、額が寄せられる。
わたくしは目を閉じた。
「これからも――傍にいてくれるか?」
「……氷が溶けても、あなたがいる限り、わたくしはここにいます」
唇が触れた。
雪が舞い、光が差し込む。
氷の帝と、神に愛された声。
ふたつの運命が、ようやく一つになった瞬間だった。
* * *
その後――。
帝都には新しい季節が訪れた。
氷の塔には花が咲き、人々は“氷の庭の春”と呼んだ。
わたくし、セレナ・ヴァルシュタインは正式に皇妃として迎えられ、ユリウス・アウグスト陛下と共に、新しい帝国の礎を築いた。
わたくしの祈りは今もどこかで風に乗り、
誰かの胸にこう囁いている――。
『恐れるな。光は、氷の下でも生きている』
氷の帝国に春が満ち、永遠の愛が続いていく。
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