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#03 奇跡の聖女
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ようやく地上へ出た。
ディレクのお屋敷の中は火災もなく、瓦礫にもなっていなかった。ここまで綺麗に残っているなんて……不思議に思う。
「ここはまだ、ゾンビに襲われていないんですか?」
「言っただろう、僕は共和国を守る為の研究をしていたって。この家くらいは守れる程度に魔法を完成させたのさ」
「そうだったのですね、凄いです。ええ、ディレクは凄い人です」
そう褒めると、彼は少し照れていた。
そんな中、部屋の奥から人の気配が……。
まさか、ゾンビが?
「大丈夫だよ、ローザ。彼らは生存者で、僕が救出した人達だよ。総勢三十名はいるはずだから宜しくやって欲しい」
煤で汚れた子供、若い男女、お爺さんやお婆さんの姿があった。みんなこの状況に気が滅入っている様子だった。けれど、わたしの存在を認識すると、少し表情を変えていた。
「お、おぉ。白の聖女様じゃありませんか」「ローザ様ですよね、あの王子の婚約者の」「聖女様がいれば、あのアンデッドも何とかしてくれますよね!?」「お願い、もう辛いのはイヤ」「俺は家族を喰われてしまった……」「みんなゾンビになってしまった。なんとか戻せないのか!」
そう救いを求められる。
もちろん、僅かだけど希望はある。
「皆さん、ゾンビに変えられた人は、わたしの『マグナエクソシズム』で三十分以内なら戻せます。それ以上を超えると肉体が完全にゾンビ化してしまうので無理なんです。だから不死属性であるゾンビは浄化されるのです」
みんな落胆した。
そうよね、もうあれから三十分以上は経っている。もう間に合わないし、浄化するしか方法はない。せめて魂だけでも安らかに。
「ローザ、君はこのまま誰かを助けに行くのかい?」
「ええ、ディレク。わたしは白の聖女としての務めを果たさなければなりません。この国を守るんです」
「分かった、僕も手を貸そう」
「え……ディレクも?」
「ああ、君一人にはしない。この国を守りたいという気持ちは一緒だよ。みんな、悪いが僕はローザと共に生存者を探しに行く!」
一瞬ざわつくけれど、直ぐにみんな納得した。ディレクは信頼されているのね。ちょっと見直した。
それから直ぐにわたしとディレクは外へ向かう。お屋敷の外は共和国の南の方だった。お城からかなり離れていた。
「バリアを解除して、すぐに施す。いいね?」
「お願いします」
彼は右につけている腕輪を翳す。
すると、屋敷に包まれていた魔法が解けた。これがモンスターの侵入を阻むバリアなのね。
「さあ、行こう」
――その日、わたしは共和国に侵入した全てのゾンビを浄化した。その甲斐もあって生存者百二十名を救出。残念ながら多くの人たちがゾンビになってしまったけれど……聖女としての使命を全うした。
お屋敷に帰る際、お城の方に火の手が上がっていたような気がするけれど、もう憔悴しきっていたわたしは、お屋敷に帰るので精一杯だった。
「大丈夫かい、ローザ」
ずっと生存者をお屋敷に導いていたディレクは、わたしの体も気遣ってくれていた。背中を支えてくれて、時にはゾンビを腰に携えている剣で倒していた。
「ありがとうございます。おかげ様でやっと平和を取り戻しました。ゾンビの気配はもうひとつもありません」
「ご苦労様。本当にありがとうローザ。君は、百名を超える人達を救い出した……奇跡の聖女だよ。共に行動できて誇らしいし、聖女に対する認識も大きく変わった。だからと言ってはアレだけど、僕と一緒にいて欲しいな」
「本当ですか、嬉しいです。わたし一人では、この平和は成しえなかったですし、わたしもディレクが…………あぅ」
ずっと歩きっぱなしだったから、足を痛めていた。わたしは地面にしゃがみ込む。すると、ディレクはわたしの目の前で腰を下ろした。
「どうぞ、ローザ。君の体は世界一大切だからね、無理はしないでね」
ずっとゾンビ討伐を共にして、ディレクの優しさに触れた。彼は頼りなって、細かい配慮も出来る本当に良い人だった。……この人なら、きっと。
「ありがとう、よろしくお願いします」
体を彼に預けた。誰かに背負って貰うとか人生で初めてだった。あのテオバルドにもここまで優しくされた事はなかったのに。
……そっか、わたし、ディレクの事が。
ディレクのお屋敷の中は火災もなく、瓦礫にもなっていなかった。ここまで綺麗に残っているなんて……不思議に思う。
「ここはまだ、ゾンビに襲われていないんですか?」
「言っただろう、僕は共和国を守る為の研究をしていたって。この家くらいは守れる程度に魔法を完成させたのさ」
「そうだったのですね、凄いです。ええ、ディレクは凄い人です」
そう褒めると、彼は少し照れていた。
そんな中、部屋の奥から人の気配が……。
まさか、ゾンビが?
「大丈夫だよ、ローザ。彼らは生存者で、僕が救出した人達だよ。総勢三十名はいるはずだから宜しくやって欲しい」
煤で汚れた子供、若い男女、お爺さんやお婆さんの姿があった。みんなこの状況に気が滅入っている様子だった。けれど、わたしの存在を認識すると、少し表情を変えていた。
「お、おぉ。白の聖女様じゃありませんか」「ローザ様ですよね、あの王子の婚約者の」「聖女様がいれば、あのアンデッドも何とかしてくれますよね!?」「お願い、もう辛いのはイヤ」「俺は家族を喰われてしまった……」「みんなゾンビになってしまった。なんとか戻せないのか!」
そう救いを求められる。
もちろん、僅かだけど希望はある。
「皆さん、ゾンビに変えられた人は、わたしの『マグナエクソシズム』で三十分以内なら戻せます。それ以上を超えると肉体が完全にゾンビ化してしまうので無理なんです。だから不死属性であるゾンビは浄化されるのです」
みんな落胆した。
そうよね、もうあれから三十分以上は経っている。もう間に合わないし、浄化するしか方法はない。せめて魂だけでも安らかに。
「ローザ、君はこのまま誰かを助けに行くのかい?」
「ええ、ディレク。わたしは白の聖女としての務めを果たさなければなりません。この国を守るんです」
「分かった、僕も手を貸そう」
「え……ディレクも?」
「ああ、君一人にはしない。この国を守りたいという気持ちは一緒だよ。みんな、悪いが僕はローザと共に生存者を探しに行く!」
一瞬ざわつくけれど、直ぐにみんな納得した。ディレクは信頼されているのね。ちょっと見直した。
それから直ぐにわたしとディレクは外へ向かう。お屋敷の外は共和国の南の方だった。お城からかなり離れていた。
「バリアを解除して、すぐに施す。いいね?」
「お願いします」
彼は右につけている腕輪を翳す。
すると、屋敷に包まれていた魔法が解けた。これがモンスターの侵入を阻むバリアなのね。
「さあ、行こう」
――その日、わたしは共和国に侵入した全てのゾンビを浄化した。その甲斐もあって生存者百二十名を救出。残念ながら多くの人たちがゾンビになってしまったけれど……聖女としての使命を全うした。
お屋敷に帰る際、お城の方に火の手が上がっていたような気がするけれど、もう憔悴しきっていたわたしは、お屋敷に帰るので精一杯だった。
「大丈夫かい、ローザ」
ずっと生存者をお屋敷に導いていたディレクは、わたしの体も気遣ってくれていた。背中を支えてくれて、時にはゾンビを腰に携えている剣で倒していた。
「ありがとうございます。おかげ様でやっと平和を取り戻しました。ゾンビの気配はもうひとつもありません」
「ご苦労様。本当にありがとうローザ。君は、百名を超える人達を救い出した……奇跡の聖女だよ。共に行動できて誇らしいし、聖女に対する認識も大きく変わった。だからと言ってはアレだけど、僕と一緒にいて欲しいな」
「本当ですか、嬉しいです。わたし一人では、この平和は成しえなかったですし、わたしもディレクが…………あぅ」
ずっと歩きっぱなしだったから、足を痛めていた。わたしは地面にしゃがみ込む。すると、ディレクはわたしの目の前で腰を下ろした。
「どうぞ、ローザ。君の体は世界一大切だからね、無理はしないでね」
ずっとゾンビ討伐を共にして、ディレクの優しさに触れた。彼は頼りなって、細かい配慮も出来る本当に良い人だった。……この人なら、きっと。
「ありがとう、よろしくお願いします」
体を彼に預けた。誰かに背負って貰うとか人生で初めてだった。あのテオバルドにもここまで優しくされた事はなかったのに。
……そっか、わたし、ディレクの事が。
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