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第7話 さらば元婚約者
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重く、規則正しい足音が屋敷の前庭に満ちた。
帝国騎士団。
銀色の鎧が陽光を反射し、逃げ場は完全に塞がれている。
その瞬間、ジョイは――ゆっくりと剣を鞘に戻した。
……終わった。
そう思った、次の瞬間だった。
びしゃり、と嫌な音が空気を裂いた。
「――がっ!?」
ディアベル――コルサ議員の身体から、突然、血しぶきが舞った。
誰もが状況を理解できなかった。
剣は、確かにもう鞘に戻っていたはずなのに。
――違う。
理解したのは、わたしだけだった。
ジョイは、鞘に戻す“直前”に。
目にも止まらぬ速さで、一撃を入れていた。
致命傷ではない。
でも、確実に――恐怖を刻み込む一太刀。
「……な、なにを……!」
ディアベルが膝をつき、血を吐く。
その姿を見た瞬間、胸に溜まっていた何かが、すうっと消えていくのを感じた。
――ああ。
わたしは、救われたんだ。
でも。
それだけじゃ、足りなかった。
「……ジョイ。ごめん」
誰にも聞こえない声でそう呟いて、わたしは二階のバルコニーに出た。
手の中には、小さなガラス瓶。
朝、作ったもの。
壊すためじゃない。
“痛みを返す”ための――激痛ポーション。
「……これは、あなたに返す分」
狙いを定め、瓶を投げる。
ぱしゃん、と乾いた音。
次の瞬間。
「ぎゃああああああああっ!!?」
ディアベルが絶叫した。
身体を引き裂くような激痛。
神経を直接焼かれるような苦しみ。
でも、死なない。
死なせない。
――あの日、わたしが味わった“恐怖”の、ほんの一部だけ。
帝国騎士団が一斉に動いた。
「ディアベル・コルサ! 殺人の容疑により、身柄を拘束する!!」
「ま、待て……! 私は……議員……!」
「元老院議員の地位は、ただいまをもって剥奪された」
冷たい宣告。
ディアベルは、地に引き倒され、手枷をかけられた。
――終わった。
わたしは、深く息を吐いた。
◆ ◆ ◆
三日後。
穏やかな陽光が、屋敷の庭を照らしていた。
わたしとジョイは、並んで立っている。
「……改めて言う。ルイン」
ジョイが、少しだけ緊張した声で言った。
「俺と、婚約してほしい」
胸が、きゅっと締め付けられる。
「……はい」
迷いはなかった。
「わたしも……ジョイと一緒にいたい」
ジョイの顔が、少しだけ崩れる。
その笑顔は、戦場の騎士じゃなく、ひとりの青年のものだった。
「よかった」
その様子を見て、父――トトカルチョ侯爵が、盛大に笑った。
「はっはっは! ようやくか! 遅いくらいだ!」
「父様……!」
「ルインが幸せなら、それでいい。いや、最高だ!」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
ジョイが、そっとわたしの手を取った。
「これから先も、守る。何があっても」
「……わたしも」
見つめ合って、自然と距離が縮まる。
そっと、唇が重なった。
あたたかくて、やさしくて、確かな――誓いのキス。
過去は、もうわたしを縛らない。
これからは、ジョイと共に。
新しい未来を、生きていく。
――幸せに。
帝国騎士団。
銀色の鎧が陽光を反射し、逃げ場は完全に塞がれている。
その瞬間、ジョイは――ゆっくりと剣を鞘に戻した。
……終わった。
そう思った、次の瞬間だった。
びしゃり、と嫌な音が空気を裂いた。
「――がっ!?」
ディアベル――コルサ議員の身体から、突然、血しぶきが舞った。
誰もが状況を理解できなかった。
剣は、確かにもう鞘に戻っていたはずなのに。
――違う。
理解したのは、わたしだけだった。
ジョイは、鞘に戻す“直前”に。
目にも止まらぬ速さで、一撃を入れていた。
致命傷ではない。
でも、確実に――恐怖を刻み込む一太刀。
「……な、なにを……!」
ディアベルが膝をつき、血を吐く。
その姿を見た瞬間、胸に溜まっていた何かが、すうっと消えていくのを感じた。
――ああ。
わたしは、救われたんだ。
でも。
それだけじゃ、足りなかった。
「……ジョイ。ごめん」
誰にも聞こえない声でそう呟いて、わたしは二階のバルコニーに出た。
手の中には、小さなガラス瓶。
朝、作ったもの。
壊すためじゃない。
“痛みを返す”ための――激痛ポーション。
「……これは、あなたに返す分」
狙いを定め、瓶を投げる。
ぱしゃん、と乾いた音。
次の瞬間。
「ぎゃああああああああっ!!?」
ディアベルが絶叫した。
身体を引き裂くような激痛。
神経を直接焼かれるような苦しみ。
でも、死なない。
死なせない。
――あの日、わたしが味わった“恐怖”の、ほんの一部だけ。
帝国騎士団が一斉に動いた。
「ディアベル・コルサ! 殺人の容疑により、身柄を拘束する!!」
「ま、待て……! 私は……議員……!」
「元老院議員の地位は、ただいまをもって剥奪された」
冷たい宣告。
ディアベルは、地に引き倒され、手枷をかけられた。
――終わった。
わたしは、深く息を吐いた。
◆ ◆ ◆
三日後。
穏やかな陽光が、屋敷の庭を照らしていた。
わたしとジョイは、並んで立っている。
「……改めて言う。ルイン」
ジョイが、少しだけ緊張した声で言った。
「俺と、婚約してほしい」
胸が、きゅっと締め付けられる。
「……はい」
迷いはなかった。
「わたしも……ジョイと一緒にいたい」
ジョイの顔が、少しだけ崩れる。
その笑顔は、戦場の騎士じゃなく、ひとりの青年のものだった。
「よかった」
その様子を見て、父――トトカルチョ侯爵が、盛大に笑った。
「はっはっは! ようやくか! 遅いくらいだ!」
「父様……!」
「ルインが幸せなら、それでいい。いや、最高だ!」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
ジョイが、そっとわたしの手を取った。
「これから先も、守る。何があっても」
「……わたしも」
見つめ合って、自然と距離が縮まる。
そっと、唇が重なった。
あたたかくて、やさしくて、確かな――誓いのキス。
過去は、もうわたしを縛らない。
これからは、ジョイと共に。
新しい未来を、生きていく。
――幸せに。
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