クズαに囚われた2人の話

沙羅

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「はぁっ……はぁ、はぁ……」
 隣にいる幼馴染の呼吸が、どんどんと乱れていく。もはや1人で立っていることは出来ないようで、僕の肩には彼の全体重がのしかかっていた。
「淳、もうちょっと待っててくれ。もうすぐ家に着くから。もう少しだから」
なんとかこの幼馴染を家に帰さなくては。それが僕の使命だから。そう思いながら、重い足を一歩一歩と進める。どうか変なαに会いませんようにと祈りながら。

――人類に急に現れた第2の性。僕は人口の大半を占めるβで、この幼馴染は人類に数パーセントしかいないと言われるΩだ。昔はΩ……特に男性のΩに対しては風当たりが強かったそうだが、今ではむしろ庇護すべき対象として大切にされている。僕の母親からも、「アナタが淳くんを守るのよ」とよく言われていた。

 今の幼馴染の状況はというと、発情期(ヒート)が来ている状態だった。Ωに3か月に1度の頻度で現れる症状。本来はヒートが来そうな1週間前くらいから薬を飲み始め、症状を出ないようにするようだが、今回は予定よりもかなり早く来てしまったらしい。
この状態になると腕一本動かせないほど体が怠く、熱くなるらしく、こうして僕が引きずっている状態である。

「ねぇ、その子、Ωなの?」
 必死に歩いていたら、全く気付かなかった人の気配。斜め前からかけられた声に反応して顔をあげれば、そこには顔のすこぶる良い青年が立っていた。
「……あなたは?」
「そこの家に住んでる、高崎だよ。すごく辛そうだね。よかったら俺の家で休んでく?」
 普段ならこんな声のかけられ方をしても断っていただろう。当たり前だ、今日初めて会ったばかりの他人なんだから。でも、僕の体力ももう限界だった。ここからどれだけ急いでも、淳の家までは10分くらいかかる。
「いいんですか……?」
「嫌なら、こんな誘い方しないよ。家には俺以外誰もいないから、気にしないで」
 だから好意に甘えてしまった。それがどんな結果を招くかも知らずに。彼が淳をΩだと一発で当てたその時に、気付くべきだった。離れるべきだった。

 そうしたら、あんなことにはならなかったのに。
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