クズαに囚われた2人の話

沙羅

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「俺の母親もΩなんだ。だから緊急時の抑制剤がまだ残ってる。ちょっと待ってて」
 彼は見た目や言葉の感じのまま、とてもしっかりした人だった。淳を僕の代わりに運んでくれ、素早くベッドに寝かし、冷やしたタオルや飲み物の準備もしてくれる。その上、抑制剤まで渡してくれるという。こんな親切な人がいるのかと驚くほど、彼は出来た人だった。

「何から何までありがとうございます。ほんとに助かりました」
 淳の呼吸が落ち着きを取り戻したころ、僕と彼もソファに座りながら一息をついていた。
「いいよ、困った時はお互い様だからね。それより、君と彼はどういう関係なの?」
「彼……淳とは幼馴染なんです。小学校から高校までの」
「そうだったんだ。君からはαのにおいがしないから、変だと思ったんだよね」
「におい……? αにもあるんですか? Ωにはフェロモンがあるって聞くけど」
「α同士なら感じられるにおいがあるんだよ。といっても、Ωみたいな良い匂いじゃなくて、攻撃的なにおいだけどね。自分の強さを示すための匂い」

「ちょっと待ってください、ってことはあなたは……」
「αだよ」
 今まで生きてきた人生、淳以外にはβにしか出会ったことがなかった。αは何でも出来て、見目が良いという話は聞いたことがあったけれど……よくよく思い返してみれば、その評価は目の前の男にぴったりだと思った。
「でも、淳は? 発情期のΩだったら、αは襲ってしまうんじゃあ……」
「普通のαだったらそうかもね。でも俺は、まぁまぁ強いから。運命の番でもない限り、ヒートなりかけのΩのフェロモンくらいでは取り乱したりしないよ」
そういうもんなんだ、と納得する。αとΩの世界はその性を持つ本人しか分からないことはまだまだ多く、βの自分にとっては新しく知ることがたくさんあった。
「そういえば、お友達の名前は聞いているけど君の名前を聞いてなかったね」
「あ、そうでしたね。僕は真鍋透です。透明の透でトオル」
「透くんね。俺は高崎要。要約の要で、カナメだよ。よろしくね」
 αというと少しだけ怖いイメージを持っていたけれど、前の人はふわふわと笑う柔らかい印象の人だった。よろしくね、と差し伸べられた手も、あたたかい。

「ん……ここどこ……?」
 そうこうしている間に淳は少し回復したようで、目を開けてこの状況を不思議に思ったようだった。淳にこれまでの経緯を説明してやり、何度も要さんにお礼を言ってから帰路につく。要さんは本当に優しい人で、「いつでも来ていいからね」と言ってくれた。
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