クズαに囚われた2人の話

沙羅

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 幼馴染の様子がおかしくなったのは、ちょうどその日が境だった。

 僕が話かけても返事が返ってこないことが増えて、学校に遅刻することも増えた。絶対に何かが変わっているというのに、「何かあったのか」と問いかけても、「何でもないよ」と返ってくるばかりだった。
 淳がそう言っているのだから気にしなければいいのに、淳にもしものことがあったらと心配になる。得体のしれない不安のようなものが、胸に渦巻いていた。

 体育を見学するようになり、もう夏も近づいてきた頃だというのに淳の服は長袖のまま。いよいよおかしいと思ったその時、淳は首に包帯を巻いて登校をしてきた。

「その首の包帯どうしたの!? 事故にでも会った?」
 僕は驚いて、淳が登校してきてすぐに質問を浴びせる。淳は何を言ってるか分からないというように、頭を傾げて僕の方を向いた。
「それ、その包帯。どうしたの……?」
 もう一度ゆっくりと問い直す。淳は場違いにうっそりと笑ってこう言った。
「ボクね、要さんと番になったんだ」

 淳に、番が出来た。幸せそうに笑う淳からは、きっと彼自身の意志で選んだ番なのだろうということがうかがえる。「おめでとう、良かったじゃん」。そういえば言いはずなのに、なぜか口からは言葉が出てこない。
 自分でも不思議だったけれど、なんとなく知識があったからだろう。僕の手は自然と、淳の袖口を掴み、まくり上げていた。そこには予想した通りの……赤と紫の痣。

「綺麗でしょ。要さんがつけてくれたんだ」

そう聞いた瞬間、僕は教室を飛び出していた。

要さん、カナメサン。Ωを番に出来るα。その2つがそろえば、僕の頭の中には1人しか浮かばない。あんなに優しかった人が淳にあんなことを? 冷静に考えればそう思えないこともないけれど、淳の言葉を疑うことは僕には出来なかった。
あいつが、僕の淳を、あんな風にしたの。

「やぁ、よく来たね」
 乱暴にインターホンを押すと、すぐに家主が出てくる。あの時と変わらない、優しそうな青年が、目の前に立っていた。
「あんたが……!」
 でも僕にとっては、敵でしかない。今すぐ殴りたい気持ちを抑え、全力で睨みつける。
「立ち話もなんだし入ってよ。ほら」
 敵の家に入りたくない気持ちは多少あったが、世間体を気にせず怒鳴れる環境に行けるのはこちらとしてもありがたかった。
 家主が扉を閉める前に、ずかずかと家の中へと入っていく。

「殺気立ってかわいいね。そんなにあのお友達が大事だった?」
「……どういう意味だよ」
 この人が淳を傷つけたと信じているのと同じくらい、本当は心の中では否定してほしい気持ちもあった。なんでこんな風に血相変えて家に来たのか、不思議に思ってほしかった。あの日の要さんは本当に良い人だと思ったし、僕の判断ミスで淳を危険な目に晒したと思いたくなかったから。
「あれ? 淳くんに話を聞いたから来たんじゃないの?」
 でも目の前の男の言葉が、疑いが真実だと肯定していた。はぐらかす気のない反省の色の見えない態度に、さらに怒りが湧く。

「そうだよ! なんだよあいつのあの腕! お前が全部やったのか!?」
 出来るだけ大きな声を張り上げながらそう言うが、彼は僕の怒りなど全く感じていないかのようにくすりと笑った。
「そんな暴力的な男の前にのこのこ丸腰で来て、何が出来ると思ったんだろうね? まぁ、そういうおバカなところも可愛いところの1つなのかな」
 男が、一瞬の間で距離を詰める。やばい、そう思った時にはもう男の拳はこちらに届いていて、意識を手放すことしかできなかった。
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