運命の糸を手繰り寄せる

沙羅

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05 ~誠司Side~

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最初に違和感を感じたのは、家の明かりがついていないことだった。
もしかしたらもう寝てしまっているのかもしれない。珍しく「帰るよ」の連絡に返信がなかったのも、きっと寝てしまったせいなのだろう。
昨日のこともあって妙な胸騒ぎはしたが、最悪な想像をなんとか否定して鍵を開ける。

「ただいま~」

いつもよりも少し大きな声を出すが、返事は返って来ない。リビングにも、充希はいなかった。次に寝室を見て、お風呂の方も見るが……どこにも充希はいない。

いや、もしかしたら、どこかに出かけているのかもしれない。出かける時に連絡をしてくれないなんて珍しいけれど、急に何かが食べたくなったとかですごく急いで出かけてしまったに違いない。……どうか、そうであってほしい。

そんな願いは、机の上に置かれた1枚の紙によって打ち砕かれた。

「……は?」

無言で紙を読んだ後に出てきたのは、そんな声だった。動揺や寂しいという感情よりも先に、強く認識できたのは怒りの感情だった。
書かれていた内容は、要約するとβの自分ではαの僕を幸せにできないから出ていくという、全く理解のできないものだったからだ。

「勝手に人の幸せ決めてんじゃねぇよ」
これまでも、充希が自分がβであることを負い目に感じている節はあった。特に僕の家が跡継ぎを欲しがっているのを知った時には、自分がΩでないことを酷く責めていた。その度に、第二の性なんか関係なく「充希だから」僕はここまで好きになれたのだと何度も説得してきたのに。尽くせるだけの言葉を尽くしてきたのに。

Ωでないことをそこまで気にしている充希のことだ。運命の番の話をすれば、また自分がβであることに負い目を感じてしまう予感はあった。実際、充希の様子が昨日からおかしくなったのは知っていた。
だから会社も行かないという選択をしようとしたのに、それを止めたのもまた充希自身だった。「俺のために仕事してくれてるんでしょ」なんて言われたら、断ることなんて出来なかった。断ってしまえば、彼を優先していないことになってしまうから。
……それなのに、彼を優先した結果なのに、帰ってきたらこんな仕打ちをされるなんてことがあるかよ。

『今は俺と過ごしてるからこれ以上の幸せを想像できないだけで、きっと運命の番と生きていけばそれ以上に幸せになれる。』
『大好きだから、幸せになってほしい。
いつかもっと幸せになった誠司に会えたらいいな。』

手紙の内容も最悪だった。僕は充希が他のやつと幸せになるなんて耐えられないし、自分以上に幸せにできる人間なんていないと思っている。なのに充希は、今でもそんな未来を思い描けるんだ。
僕はもう充希じゃないとダメなのに、充希は僕がいなくても生きていけると本気で思ってるんだ。

どうしたらよかった? どうしたら充希は僕といることを望んでくれた?
どうしたら、僕のことを「α」じゃなくて「誠司」として見てくれた?

充希を探し出すこと自体は、そんなに難しくはないだろう。
彼が1人で逃げていれば別だが、おそらく彼は友人に頼る。彼の親しい友人とは僕も連絡が取れるくらいには仲良くさせてもらっているから、そうであれば見つけることは出来るはずだ。充希が僕のことを悪く言っていれば友人が本当のことを言ってくれない可能性もあるが、この手紙の内容からして僕を責めるような発言をすることはないだろう。

だが、このまま彼を連れ帰ってきたところで何の解決にもならない。
彼はきっと、自分が僕の幸せを奪ってしまったと思い続けてしまうのだろう。
じゃあ、どうしたらいい?

まずは、充希にも僕と同じ気持ちになってもらわなきゃいけない。僕から離れるくらいなら死んでしまった方がいいとすら思えるような、ドロドロとした愛だ。
僕のためと言いながら離れられるような、そんな甘い献身的な愛は要らない。

やっぱり会社は辞めて、彼と一緒にいる時間を増やそう。本当は彼にも大学に行ってほしくはないけれど、送り迎えは僕がするという前提で授業に行くだけなら充希に選ばせてあげてもいいかもしれない。

……そう、そうだ。これまで僕らは外の世界と繋がりすぎた。
αとΩの自分の両親だって、Ωの母は買い物などの必要最低限しか外出はしていなかった。家から出たいと思わないのと聞いた自分に、母が「私たちはこれが幸せなのよ」と微笑んだのを覚えている。

そういうことだったのだ。
αとΩだから幸せになれるんじゃない。お互いがお互いの存在しか感じられないようになることを社会が赦すから幸せになれるのだ。

待ってて充希。居心地の良い2人だけの世界を作ってあげる。
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