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しおりを挟む誠司と離れてから1週間。
友達に飲みに付き合ってもらったり、普段は行かないサークルに行って体を思い切り動かしたり。無理やりに活動をすることによって、気持ちを麻痺させていた。それでも頭の片隅で、ずっと誠司のことが浮かぶ。
もう運命の番と仲良くなったんだろうか。俺のことなんか忘れて、ちゃんと楽しく生活してくれているだろうか。
「夏樹ってたしか、誠司さんの連絡先持ってたよね」
あんまりにも気になりすぎて、でもスマホは置いてきてしまって。友達づてに誠司さんの様子を知れたらいいななんて思う。
「持ってるけど……ほとんど連絡したことないからお前の差し金だって秒でバレるぞ」
「あーーー……、そうだよな」
そんな初歩的なことに気付けないほどに鈍くなった頭。知りたいのに、知りたくない。俺の存在を忘れてほしいのに、忘れてほしくない。誠司のことになると、両価的な気持ちが溢れてきて自分でもどうしたらいいのか分からない。
身動きが取れなくなっていた俺の時間を進めたのは、彼の方だった。
「え……なんで……?」
「お邪魔してるよ」
サークルが終わって友達の家に帰ると、そこには友達の他にもう1人男がいた。それはよく知った人物で、今の自分が一番会いたくて会いたくない相手。
「セイ、ジ……?」
「迎えに来たよ」
ハグをされて、頭が混乱する。もう二度と嗅げないと思っていた彼の安心する匂いが、ふわふわと漂ってくる。
「お友達が僕に連絡をくれてね。充希が見てられないくらいに元気をなくしてるから迎えに来てやってくれって。ちょうど僕も充希を連れ戻そうと考えてたから、内緒で迎えに来させてもらったんだよ」
「ろくに休みもしないでずっと活動しやがって。顔色悪くなってってるの気付いてないとでも思ったか? 誠司さん居なくてもう限界なんだろ」
自分では、気持ちを麻痺させられていたつもりだった。めまいがしたり頭がくらくらしたりすることは増えたけれど、時間が解決してくれると思っていた。でもやっぱり、心は限界をむかえていたみたいで。
「なんで、来ちゃったの」
彼の腕の中で、気付いたら涙が溢れていた。来てくれて嬉しいのに、素直にそれを言葉に乗せることができない。だって、こんなのは間違ってる。
運命の番を諦めてβを追いかけてくるαなんて、そんなの居るはずがないのだ。
「なんで、出ていったの。全然理解できなかった」
腕の力を少しだけ強くして彼が問う。俺にとっては、書置きに残した理由が全てだった。俺では誠司を幸せにできないから、身を引こうと決めたまで。
「なんで僕の幸せを充希が勝手に決めれると思ったの? 充希と居るのが一番幸せだって、僕何度も何度も伝え続けてきたよね」
「……そんなの、分かんないじゃん」
「分かるよ。この1週間ずっと、充希のことだけを考えてた。ほんとは嫌われてたらどうしよう、僕の手が届かないところまで行ってたらどうしようって毎日考えて、食事すらまともにとれなかった。僕はね、充希が欠けたら幸せになれないの。ずっと充希を探しちゃうの。充希はこの1週間、そうじゃなかった……?」
そう問いかける彼の声が、わずかに奮えていることに気付く。彼は基本的に自信満々なタイプで、いつも俺が不安になった時も「大丈夫だよ」って安心させてくれた。そんな彼が、俺が離れただけでこんなにも弱い人になっている。
自分の考えだけで大切な人を傷つけてしまった罪悪感と、こんなに素敵な人が自分なんかを選んでくれることへの嬉しさ。
βの自分は、αから離れるべき。そんな「べき論」で心を閉じ込めていたのが、するすると解けていく。次に口から出てきたのは、自分でも驚くほどに素直な気持ちだった。
「俺……俺も、ほんとは誠司さんと居たい。ほんとは離れたくなんかない」
「よかった……」
腕が解かれたかと思えば、わずかにうるんだ彼の瞳と目が合う。
「一緒に帰ろう?」
そう言って伸びてきた彼の手を握り返す。まだ完全に不安が消えたわけではないけれど、俺のせいでこの人を悲しませることはもうしたくないなと、そう思った。
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