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04 再会
しおりを挟む「っ。どうしてあなたがここに?」
レオンハルトは予想外の来客に困惑した。
もっと話がしたいと思っていたが、もうそれは叶わないと思っていた。
当の本人がいま、目の前に客として椅子に腰かけている。
ダーナ・フォン・アルブレヒトその人は、
レオンハルトの当惑もそしらぬ顔で優雅にティーカップを傾けている。
あの夜とはちがい、今日の彼女は栗色のまっすぐな髪に純朴な白い花飾りをつけて、愛らしい緋色のドレスをまとっていた。
舞踏会で身につけていた藍色のドレスは肩を出していて、少し大人びて見えたが、今は十三歳の少女相応に見えた。
「お座りになってはどうです? 王太子殿下」
晴れやかな笑みを浮かべたダーナに着席を勧められる。
「ああ、そうだな……」
今日は近衛隊長がむかし世話になった人物が、自分との茶会を求めていると聞いていた。
(まさか彼女だったとは――)
近衛隊長も事前に言ってくれれば良いものを、とかたわらに立つ青年をにらむ。
クスクスと笑う声が聞こえた。
「近衛隊長どのを責めないでやってください。私が無理を聞いて頂いたのです。
きっと――私だと知ったら殿下はお会いになってくださらないでしょう?」
ぐうの音も出なかった。
「すまない」
「ふふっ。あのような事があった後では、私に会うのも気まずいでしょう。だからです」
年齢に比して大人びた物言いが懐かしい。
彼女とデートしたのがずいぶん前のように思えてきてしまう。
レオンハルトは勧められるまま、椅子に腰かけた。
近衛隊長に部屋から下がるよう命じる。
このティーサロンは自分の寝室とつながっている。
プライベートな空間の近くに他人を招くということ、すなわち心を許しているという証だった。
そうやって今までの王族も親しくなる相手を選び、獲得してきたのだ。
(私は苦手だが……)
他人をえり好みしているようでどうにも好かない。
そのため相手の地位にかかわらず、近しい相手と話す時は必ずこのティーサロンを使ってきた。
ダーナが訪れるのも初めてではない。
「君はあいかわらずイタズラ好きだな」
苦笑して、すでに用意されていたティーカップを口に運ぶ。
(少し苦いな……)
渋みを感じたのは彼女への負い目からか。
レオンハルトには分からない。
「それで今日来たのは、どういった用向きかな?」
白いカーテンから西日がこぼれ、彼女の栗毛を赤く照らす。
緋色のドレスが深みを増した。
(怒っているのだろうな……)
自分の身勝手な考えから婚約破棄したのだ。
こんな男にかける言葉など決まっている。
苦しげに眉根を寄せて、彼女が怒りを発するのをじっと待つ。
だがいくら待てども、彼女がなじる声は聞こえてこなかった。
「はぁ。またその顔。婚約破棄を宣言した夜も、そんな顔をしてらっしゃいましたね。
まるでそう――ぜんぶ自分が悪いと思い込んでるお顔」
ダーナの声にぎくりとした。
テーブルの下で握っていた手のひらが汗をかく。
(なぜ……どうして?)
顔をあげると、彼女は悠然とした表情で頬杖をついている。
「私も馬鹿じゃありません。今回の婚約破棄が何者かの意向がはたらいている。その程度のことは察しがつきます」
「―そんなことはない! あれは私の意思で……っ」
彼女を守るために行ったことだ。
それだけは決して悟られてはならない。
知られれば彼女の身に危険が及ぶ。
叔父の毒牙にかかった彼女の姿を見たくはない。
「殿下ご自身がお決めになられたことなら、どうしてあの夜あんなにも暗いお顔で婚約破棄を宣言されたのです?」
「それは……」
「曲がりなりにも殿下と一年はつきあった身。あれが殿下ご自身の意思で行ったようには到底見えませんが?」
彼女は追撃の手をゆるめない。
「私がそうだと決めたのだ。まだ幼い君には分からないだろうが!」
むんずと襟首をつかまれた。
少女の力とは思えない強さに驚く。
「その年下扱いされるの、ぼく、死ぬほど嫌いなんですよね」
「え……? ぁ……、ぼく……?」
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