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第三は試験と謎解き

手伝いをさせてください

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私は、誰もいない教室の自分の机の上で
今集まっている情報を全て紙に書き出しました。

今ある情報はこんな感じね

・カリズ・ルネの絵画が昨年盗まれた(既に戻ってきている)
・容疑者は現場の手紙から、怪盗ジャックとされている
・卒業生からの贈与されたもの、カリズ・ルネのをもらうつもりだった
・実際にはカリズ・ルネの作品ではない。
・絵画は大きすぎる、複数犯の可能性あり
・ルネ家には過去陶芸品をジャックが盗みに入っている、予告状あり。
・怪盗ジャックは現場には単独できていると予想されている
・この課題は既に問題解決している事件


素直に見れば、怪盗ジャックが犯人で「カリズ・ルネ」の作品を欲した。
おそらくそれを売ってお金にするのが目的なのだろう。

でも、ジャックほどの名前の知れた怪盗なら目利きで当然、
だとしたら、あれがカリズ・ルネの作品でないのはすぐにわかったはずよ。
それでも、ルネ家ならそれなりの値段がつくでしょうけど。

だから返却されて玄関ホールにまた飾られている…矛盾は何もない。

…これが答え?これをハロルドのところに持っていって回答をしてもいいの?
でも…違和感が残るわ。


「それならなぜ従業員はあの絵画を『カリズ・ルネ』だと言ったのでしょう…」


勘違いが訂正されなかった…?
違う作者の名前を伝えるなんてご法度でしょうに。

それに、複数犯の可能性も捨てきれない。
でもジャックは事件時、単独で行動してる可能性が高い。

何より、課題は解決された事件が出題されているはずなのに、犯人が捕まっていない。
しかも皇太子殿下は真相を知っている、なのに犯人が捕まっていないのはおかしいわ。

何かが足りない、最後のピースが一つだけ足りない。
後少し、彼から話を聞かないと…それが何かすらわからない。

もう少し、ダレンツ・ルネと話をしないと、真実には辿り着けなさそう。
でも、あの様子だとこれ以上私とは話をしてくれそうにもないわ。

どうする…





「ローズ様、お困りですか?」


頭を抱えながら紙と睨めっこしていると、
どこからともなく微笑んだリリー様が現れて私に声をかけました。
この教室には誰もいないはずだったのに、いつの間に入ってきたのだろう。

いえ、気づかないくらい考えることに夢中だったと言うことなのでしょうか。
どちらにしても、困ってることを悟られるのは困りますわ。


「困ってなどおりません」

「痩せ我慢は良くないですよ。」

「もうほとんど答えは出ております。」


私は席を立ちあがろうとすると、リリー様がガバッと私に抱きついてきました。
それに驚いた私は、身動きできずにおりました。


「り…リリー様?」


そして、ようやく状況が飲み込めたその時、
リリー様はそのまま耳元で小声で私に言いました。


「ひどい方ですわね、無礼な物言いをしてローズ様の言葉にろくに返事をしないなんて」

「…!」


なんのことかなんて、聞かなくてもわかる。
さっきのダレンツ・ルネとの話のことですわ。

また、後をつけて話を聞いていたのですね…いいかげんストーカー行為はやめろと忠告しないといけませんわね。


「リリー様、人の後をつけるのはいい加減に…」


しかし、その時私はそれ以上言葉を続けることができませんでした。
ヒックヒックといった嗚咽のような声がリリー様の方から聞こえてきたからです。


「何を泣いておりますの?」
「少なくとも、未来の国母候補に対する言葉ではありませんわ…
仮にも芸術家の家系の一族の末裔が使うべき言葉ではありません」


理由を聞いて唖然としてしまいました。
今まで彼女の行動感情に理解できないことが多かったのですが…
この顔が、今までで一番理解できない感情かもしれませんわ。

でも、泣いてくれてる理由が私なのよね…
なんかそういうのも、たまには悪くないわね。


「ありがとう、あなたがそこまで言ってくれるなんて。」

「いいえ…あんなに一生懸命話をローズ様が聞こうとしているのに、
あんな、見下すような…小馬鹿にするような態度…ローズ様が許せても、私が許せません」

「今に始まったことではありませんわ、気にしてなど…」


私のような立場になれば、むかつきますが、このような対応されることはありますわ。
それに、このような仕打ちを受ける心当たりがないわけでもありませんし。

普段からそのような扱いを受けてもおかしくない言動をしておりますし。


「でも…まだあの人に話を聞かないといけないんですよね…」


それを聞いて私は眉を顰める
結局はそう、いつもなら気に入らない人とは話さないで済ませられますけれど、
謎を解き、ちゃんとした解答を試験官のハロルドに話すためには…やはり

でも気まずくて話したくないのは事実ですわ。


「ローズ様が、あのような口汚い言葉遣いをする人と話す必要はございません。
私が代わりにお話を聞いて参ります。」


正直な話、その申し出は本当にありがたいものでした。
しかし、


「あ、あなたに借りを作るつもりはありませんわ」


ライバルに協力を頼むなど、そんな情けない話はないわ。
ただでさえ難易度は一番易しいのに。
でも、リリー様は引かない。


「課題を手伝えなんて申すつもりはありませんわ。
その代わり、お願いがございますの」

「お願い?あなたの課題を手伝えとでも…」

「ローズ様が回答を終えましたら、一緒に町まで遊びに行ってくださいませんか?」

「え?」


課題友試験ともなのも関係ない。
ただそれだけの、平凡なお願いでした。


「そんなことが…望なのですか…?」

「もちろんです、一度でいいので、ローズ様と二人っきりで遊んでみたいのです。」

「なぜこのタイミングでそのような?」


そんなお願い、今でなくでも叶えようと思えばいつでもいけますわ。
お手伝いとの割合が合いません。

普通にお願いしてくださってもいいことを、どうしてわざわざ?


「すべての試験が終われば…どのような結果になったとしても、気軽には会えなくなってしまうでしょ?
皇宮に輿入れすれば…時間だってなくなってしまいます。
試験だって、もっと忙しくなるに決まってますわ。
この試験が終わった後が、最後のチャンスだと思うのです。」


リリー様は真剣に、そして頬を赤らめながら言いました。
なんかそれはまるで、恋する少女がデートの誘いをしているような…そんな感じ…


「…そんな告白するみたいにいわないで、普通にお誘いいただけませんか?」


私はリリー様を押し退けてそう言いますが、リリー様の表情は変わりませんでした。
そも真っ直ぐさ…逆にこっちが小っ恥ずかしくなってしまいますわ。

…お手伝い自体断るつもりでしたのに、こんなに真剣な表情を見せられますと…
もう、これは断ったほうが気分悪くなってしまいますわ。


「わかりましたわ、約束いたします。」

「…」


その時、リリー様は裏表のない、本当に嬉しそうな笑顔を私に向けたのでした。

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