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さようなら天界④
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「天界には戻らない? なぜです? あれだけ証拠を集めてでも戻りたいという執念があったにもかかわらず?」
「あぁ、もういいんだ。お前からも一通り事情を聞いたしな。お前だって、今さら凪沙ちゃんと会うのはちょっと気まずいだろ? お前のことは俺がそれとなく、話しておいてやるよ。「立派にやってるよ」って」
凪沙ちゃんは、今回の事件を起こしたのが俺が指導した「神楽」という神様の仕業だということは知っている。しかし、その神楽という神様が、実はその昔、自分が絵を教えたあの時の「孤立していた少年」だということは知らない。
神山や神楽といった神名は、区域担当神の学校を卒業した時に初めて貰う。
凪沙ちゃんが神楽と出会ったのは、神楽が神楽という神名を貰う前である。そして、卒業して神楽という神名を貰った後の神楽を凪沙ちゃんは知らない。
凪沙ちゃんは、神楽の顔は覚えていても、その時の少年が現在では神楽という神名で区域担当神をやっているということは知らないのである。
「立派にやっている、ですか。皮肉なものですね。その立派にやっている神様は、自分の指導を担当してくれた神様を下界へ落としたというのに……」
「全く酷いことをしてくれたもんだ。でもまぁ、お前も上から見てたんだから薄々気付いていると思うが、正直俺は下界を、とりわけこの街を気に入り始めていた。自分でも不思議に思うくらいに。これもたぶん、凪沙ちゃんの影響が大きいんだろうな」
「はははっ、さすが凪沙さんだ。あの情に流されないで有名な神山さんの気持ちを動かしたんですからね」
「情に流されない、か……。まぁ、以前までの俺だったらそうだったのかもしれないな」
「以前まで?」
「あ、いや、なんでもない。気にしないでくれ。とにかく、凪沙ちゃんのおかげで下界での生活も悪くないなと思ったのは紛れもない事実だ。それに、今回はお前を下界に引きずり下ろさないという結論に至った。お前が俺にやったことは決して許されるものではないが、しかしお前の事情を汲みとった上での結論だ。これはもう完全に情に流されているといってもいいだろう。頭の良いお前なら、これで俺が何を言わんとしているか分かるよな?」
「……こんなに情に流されていては、仮に区域担当神に復帰した所でまともに業務を遂行できないだろう、ということですか?」
「その通りだ。さすがは俺が指導した後輩だな。だから俺はもう、天界には戻らない。いや、戻るべきではないんだ」
「神山さん……。本当にそれでいいんですか?」
「おいおい、お前まで凪沙ちゃんみたいなこと言うなよ。お前は天界で凪沙ちゃんを見守りたいんだろう? 俺や凪沙ちゃんみたいに情に流されてると、お前まで下界に落とされるぞ? お前はお前で、天界から凪沙ちゃんが画家になる夢を叶える過程を見守っていれば良い。もちろん、手を貸したくなっても決して情に流されるんじゃないぞ?」
「分かりました。では、神山さんはこれまで通り下界で、凪沙さんのサポートをしてあげてください。私は引き続き、天界から見守っていますので」
あれ?急に……? 急にそんな冷たくなる? ま、まぁ、これが神楽らしいか。神楽のこのドライな感じというか、情に流されない感じが、区域担当神に向いてるんだろうな。
「じゃ、そろそろ通信を終わろうか。今度は本当に話すことも無くなったしな。今後はもう連絡することはないと思う。神谷チーフにもよろしく伝えておいてくれ」
「神山さん」
「ん? なんだ?」
「ありがとうございました」
「どうした? 急にかしこまって。お前らしくないぞ?」
「私のせいでこんな別れ方になってしまいますが、神山さんから区域担当神の指導をしていただいた事実は変わることはありません。私はこれからも神山さんの後輩です。私に初めから普通に接してくれたのは、凪沙さんと、そして神山さんだけです。本当にありがとうございました。凪沙さんをよろしくお願い致します」
「最後の最後に気持ち悪いな。俺はお前に礼をされるほどのことはしてないぞ。まぁ、元気でやってくれや。そして凪沙ちゃんは大丈夫だ。凪沙ちゃんはきっと、良い画家になるよ」
これ以上話を伸ばすと、目から何か光るものがこぼれ落ちてしまう気がしたので、俺は顔からスマホを離し、通話終了の表示をタップした。
「やっぱ普通に悲しいな! おい!」
「あぁ、もういいんだ。お前からも一通り事情を聞いたしな。お前だって、今さら凪沙ちゃんと会うのはちょっと気まずいだろ? お前のことは俺がそれとなく、話しておいてやるよ。「立派にやってるよ」って」
凪沙ちゃんは、今回の事件を起こしたのが俺が指導した「神楽」という神様の仕業だということは知っている。しかし、その神楽という神様が、実はその昔、自分が絵を教えたあの時の「孤立していた少年」だということは知らない。
神山や神楽といった神名は、区域担当神の学校を卒業した時に初めて貰う。
凪沙ちゃんが神楽と出会ったのは、神楽が神楽という神名を貰う前である。そして、卒業して神楽という神名を貰った後の神楽を凪沙ちゃんは知らない。
凪沙ちゃんは、神楽の顔は覚えていても、その時の少年が現在では神楽という神名で区域担当神をやっているということは知らないのである。
「立派にやっている、ですか。皮肉なものですね。その立派にやっている神様は、自分の指導を担当してくれた神様を下界へ落としたというのに……」
「全く酷いことをしてくれたもんだ。でもまぁ、お前も上から見てたんだから薄々気付いていると思うが、正直俺は下界を、とりわけこの街を気に入り始めていた。自分でも不思議に思うくらいに。これもたぶん、凪沙ちゃんの影響が大きいんだろうな」
「はははっ、さすが凪沙さんだ。あの情に流されないで有名な神山さんの気持ちを動かしたんですからね」
「情に流されない、か……。まぁ、以前までの俺だったらそうだったのかもしれないな」
「以前まで?」
「あ、いや、なんでもない。気にしないでくれ。とにかく、凪沙ちゃんのおかげで下界での生活も悪くないなと思ったのは紛れもない事実だ。それに、今回はお前を下界に引きずり下ろさないという結論に至った。お前が俺にやったことは決して許されるものではないが、しかしお前の事情を汲みとった上での結論だ。これはもう完全に情に流されているといってもいいだろう。頭の良いお前なら、これで俺が何を言わんとしているか分かるよな?」
「……こんなに情に流されていては、仮に区域担当神に復帰した所でまともに業務を遂行できないだろう、ということですか?」
「その通りだ。さすがは俺が指導した後輩だな。だから俺はもう、天界には戻らない。いや、戻るべきではないんだ」
「神山さん……。本当にそれでいいんですか?」
「おいおい、お前まで凪沙ちゃんみたいなこと言うなよ。お前は天界で凪沙ちゃんを見守りたいんだろう? 俺や凪沙ちゃんみたいに情に流されてると、お前まで下界に落とされるぞ? お前はお前で、天界から凪沙ちゃんが画家になる夢を叶える過程を見守っていれば良い。もちろん、手を貸したくなっても決して情に流されるんじゃないぞ?」
「分かりました。では、神山さんはこれまで通り下界で、凪沙さんのサポートをしてあげてください。私は引き続き、天界から見守っていますので」
あれ?急に……? 急にそんな冷たくなる? ま、まぁ、これが神楽らしいか。神楽のこのドライな感じというか、情に流されない感じが、区域担当神に向いてるんだろうな。
「じゃ、そろそろ通信を終わろうか。今度は本当に話すことも無くなったしな。今後はもう連絡することはないと思う。神谷チーフにもよろしく伝えておいてくれ」
「神山さん」
「ん? なんだ?」
「ありがとうございました」
「どうした? 急にかしこまって。お前らしくないぞ?」
「私のせいでこんな別れ方になってしまいますが、神山さんから区域担当神の指導をしていただいた事実は変わることはありません。私はこれからも神山さんの後輩です。私に初めから普通に接してくれたのは、凪沙さんと、そして神山さんだけです。本当にありがとうございました。凪沙さんをよろしくお願い致します」
「最後の最後に気持ち悪いな。俺はお前に礼をされるほどのことはしてないぞ。まぁ、元気でやってくれや。そして凪沙ちゃんは大丈夫だ。凪沙ちゃんはきっと、良い画家になるよ」
これ以上話を伸ばすと、目から何か光るものがこぼれ落ちてしまう気がしたので、俺は顔からスマホを離し、通話終了の表示をタップした。
「やっぱ普通に悲しいな! おい!」
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