野猿な悪役令嬢

ルナルオ

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番外編 ルシェール殿下の不満

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 私はこのランダード王国の第1王子で王太子となる、ルシェール・ランダードである。

 5歳下に弟がおり、名前をセリウスという。
 セリウスは非常に可愛く、そのうえ、とても賢かった。

 私が5歳の時に、生まれたばかりのセリウスに会わせてもらった時の感動は、いまだに忘れられない。

 なんと、可愛いくて、美しい!

 それがセリウスに初めて会った時に思ったことだった。
 キラキラとまぶしい金色の髪、瞳は澄み渡った空を溶かしたような水色で、顔立ちも整っており、赤ちゃんの頃から鼻筋も美しく通っており、肌も真珠のように白く輝いていた。

 赤ん坊というものを今まで見たことは何度かあり、サイズが小さいので庇護欲をそそられるが、ここまで感動するような赤ん坊はいなかった。
 おまけに、驚いて見つめる私にセリウスは何とも言えない無邪気な笑顔をみせた。

 にこっ

 初めて会った私には破壊力満点であった。

 ひゃー!なんだ、この史上最高に可愛い生き物は!!

 あまりの可愛さといとしさに、たまらなくなった私は周りの皆の驚く顔も気にせず、セリウスのベビーベッドに乗り上げて、セリウスへキスの雨を降らせた。

 ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅーっ

 さらにセリウスのおててやほっぺ、ぽんぽんなども、ぷにぷに、ムニムニとやさしく揉み続けていたら、一緒にセリウスに会いに来ていた父上に、後ろから抱き上げられて引き剥がされた。

「父上!お放しください!!私はセリウスをもっと愛でたいのです!」

「うん、その気持ちはよくわかるし、弟と仲良くしてくれるのはいいのだけど、やりすぎはダメだよ」

「やりすぎ?まだ全然足りませんよ!!もっとセリウスを……」

「でも、セリウスの方が限界だよ。ほら」
 と私を持ち上げていた父上がセリウスの様子をみせてくれると、セリウスの美しく透きとおるような瞳には、いつのまにか涙が溜まり、ついには決壊した。

「あう、あぶ、ふぇえええええええええん」

 泣いているセリウスも最高に可愛い!
 あの瞳から流れる涙はきっと甘いに違いない!!

「父上!セリウスが泣いております。慰めなければ!!」
 と私はセリウスの涙を舐めたい一心で父上の腕のなかで、激しくもがいて逃れようとした。

 はーなーせー

「うん、うん、ルシェール、わかったから、落ち着こうか」と言って父上はなかなか放してくださらない。

 泣いたセリウスは母上が抱き上げて、あやすと、すぐに泣き止んでいた。
 まだ私にはセリウスをそのように抱き上げることはできないから、その様子を見てちょっとしょんぼりした。


「ふふふ。ルシェールの生まれたばかりの時のことを思い出しましたわ。
 ルシェールに初めて会ったあなたと同じ反応でしたわね」と母上がなつかしそうに微笑む。

「そうだな。ルシェールがいなかったら、私がセリウスにもキスしまくって泣かせるところだったよ。
 まさかルシェールに先を越されるとはね」

「ふふっ。ルシェールは見た目以外もあなたに本当によく似ているわ」

「そうかな?確かに髪や目の色は私と同じだが、性格はここまで予想外で頑固ではないぞ」と父上は私を抱えたまま、母上に私と似ていると言われ、不満そうである。

 そう、私の見た目は、皆に父上の子供の頃にそっくりと言われている。
 性格は父上ほど、うざくはないので、あまり似ていないと思うが、予想外?頑固?などとは、失礼な父上である。
 私の方こそ、そんなふうに言われ大変不満である。
 しかも、なかなかセリウスのところに行かせてくれない!

 そういえば、セリウスは、母上に似た色彩であることに、気づいた。
 母上は、美しい金の髪と水色の瞳で白い肌をもち、国一番の美女とよく讃えられている。
 しかし、私には母上の美しさは何故かセリウスほどの感動はないし、母上の肌も、あの素晴らしい肌の輝きやきめ細かさ、弾力をもつセリウスの肌の足元にも及ばな……

「あら、ルシェール?今、何か私について失礼なことを考えておりませんか?」と微笑んでいるのに、目が笑っていない表情の母上。

 なぜわかるのですか、母上。
 正直、恐いです。人の心を読む魔法を使っているのでしょうか。
 ただ、ここで正直なことを言っても、全く良いことがないのは5歳にして既に学習済みの私はすぐに否定する。

「いえ、まさか!
 セリウスの可愛さは、母上の子ゆえと考えておりました」

「まあ、ルシェール、そう言ってくれるなんて良い子ね」
 と母上は、今度は普通に微笑み、抱っこしているセリウスを私の方に近づけてくれる。

 セーリーウース!

 私は精一杯、手をのばすが、あとちょっとのところでセリウスには届かない。

 泣き止んだ後で、まだちょっと涙目なセリウスは大変、可愛いくて、見るだけでも良いが、もっとキスしたい、もっと可愛いがりたい!!

「父上!もう少しセリウスのそばへ!!」
 となかなか放さない父上に要求するが、聞き入れてくださらない。

 ぷくっと頬をふくらませて不満を示し、何とかセリウスに近づこうとするが叶わず、そうしているうちにセリウスが寝てしまってので、おやすみのキスだけにして、そっと寝かせてあげることにした。

 それから、毎日、時間を見つけてはセリウスに会いに行き、存分に可愛いがった。
 何度かセリウスが泣きそうになったが、きちんと手加減をしたので、その後、セリウスに嫌がられることもなく、私たちは誰よりも仲良しな兄弟になった。

 セリウスが大きくなってからも、私は王太子の勤めで忙しくなったが、できる限りセリウスと一緒に過ごす時間を作り、大切にしてきた。
 下手すると自分の婚約者のパメラよりもセリウスとの時間を優先することもあったが、私の婚約者はとても理解があるため、問題なかった。
 ちなみに、私の婚約者は南側の隣国であるアルーテ王国の王女である。
 その国は、母上の従姉が嫁入りしている。その関係で、私が7歳の時に、同い年のはとこにあたる王女がランダード王国を訪れたことがあった。

 王女の名はパメラ・アルーテ  私の運命の人であった。

 初めて会ったパメラ王女は、まだ7歳なのに美しく可憐で、セリウスに次いで、二度目の感動を与えてくれたのだった。

 彼女の髪はセリウスに負けるとも劣らず眩しく輝く金色で、瞳はセリウスの空色に対して、美しい夕焼けのような橙色をしている。
 それが、セリウスが昼の晴れわたる空にたとえるなら、パメラ王女は夕暮れの暖かさを残した空で、二人が並ぶと対になるような輝きと美しさを持ち合わせていた。
 私はその二人が並んだ姿に、誰よりも悶えた。

 ずっとパメラ王女の美しさに悶えていたら、いつのまにか挨拶も終わり、パメラ王女はとりあえず、旅の疲れをとるため、部屋へ退出した。
 退出するパメラ王女の後ろ姿すら美しく、私はうっとりしていた。
 すると、両親とセリウスからとても心配された。

「……ルシェール、大丈夫か?どこか遠くにまともな意識がとんでいないか?」
「ほほ、ルシェールったらパメラのことがとても気に入ったのね~」
「あにうえ、め こわい……」

「はい!大丈夫です、父上。
 母上は本当によくおわかりですね。
 セリウス、私は怖くないよー!ただ、パメラ王女の美しさに感動していただけだよ!!」

 くっ、セリウスに目がこわいと言われて、ちょっとダメージを受けたが、パメラ王女に出会えたことで、つい目に感情がのって怖く見えてしまったのは本当に感動したからだから、しかたがない。

 彼女に一目ぼれしたと確信した私は、すぐにプロポーズを決意し、まずは両親とセリウスの許可をとることにした。

「父上、母上、セリウス。
 私はパメラ王女と結婚することを心から希望いたします。
 もちろん協力していただけますよね?
 パメラ王女の承諾を得られましたら、すぐに婚約をしたいです。
 セリウスもパメラ王女と仲良くしてくれるよね?
 もし私と彼女が結婚したら、あんな素敵なひとが『あねうえ』になってくれるのだよ!
 『あねうえ』だよ!!」

「……ほらね。ルシェールは相変わらず、予想外な性格をしている。
 おまけに協力するのが当然という言動に、自分の希望を何が何でも叶えるぞという頑固さが……」と相変わらず失礼な父上。

「あらあら、即行なのね。でも、私には予想通りでしたわよ」と何でもお見通しの母上。

「パメラなら大歓迎よ!
 もともとアルーテ王国からルシェールのお嫁さんをもらいたいと思っていたし、パメラには兄や弟もいるから、パメラがうちにお嫁にきても、アルーテ王国のお世継ぎ問題も今のところないですしね」と母上は応援してくださる。

 やった!母上の賛同が得られれば、決まったようなものだ。

「……あねうえ?」と首をちょっと傾けるセリウスは激、可愛い!

「そうだよ、セリウス!
 『あねうえ』というのは、やさしくてきれいで、セリウスのことをとても可愛がってくれる家族ってことだよ!!
 ほら言ってごらん『あねうえ』だよ!」

「……あねうえ!」とセリウスはさも、いいね!という感じで、嬉しそうに笑いながら言ってくれた。

 よし!セリウスの賛同も得られた!!あとは、父上……。

「……ルシェール、わかったよ。
 パメラ王女が滞在中にがんばってごらん。
 ランダード王国として君たちの結婚は応援するからね。
 ただし、無理強いだけはしてはいけないよ。
 もしパメラ王女の同意が得られたら、アルーテ王国にすぐに親書を送るからね」と何だかんだ言っても頼もしい父上。

 家族の了承と協力をえた私は、パメラ王女の滞在中のお相手役に正式に任命され、翌日からパメラ王女にプロポーズするために頑張り始めた。

 まずは城内を案内したり、夜会のエスコートをしたりと、お互いの距離を少しずつ縮めていった。
 幸い二人とも可愛い弟がいるという共通点があり、話が特に盛り上がり、すぐに打ち解けてくれたパメラ王女。
 私たちはパメラ、ルシェ様とお互い呼び合うほどの仲になった。
 そこで、私は、早速、彼女へプロポーズすることにした。
 プロポーズ場所はもちろん、母上おすすめの、城内の薔薇が咲き誇る庭園。

「パメラ、私たちはまだ出会って間もないが、あなたを一目見た時から、セリウスと並ぶ美しさと可憐さで、あなたに夢中になってしまった。
 さらに共に過ごしたら、セリウスと一緒のようにとても楽しく、ますますあなたの存在はセリウスのように大事な存在となった。それで……」とプロポーズをしだすルシェール。

「……あ、それらの基準もやはりセリウス様なのですね」と思わずつぶやくパメラ。

「え?」

「いえいえ。続きをどうぞ!」

「あなた以上の女性はいないと思うし、一生、あなたに私の傍にいて欲しい。
 だから、どうか私と結婚してください!」

「はい、喜んで!」

「よかった!早速、婚約の手続きをするね!!
 あと、私は側妃もおかず、生涯、あなただけを愛することを誓うよ!」

「まあ、とても嬉しいですわ!」

(なるほど。訪問前から、ランダート王国から婚約の打診があるだろうと言われていたけど、お母様がやけにルシェール殿下なら他の女と浮気することがないと強調していた意味が、よく分かりましたわ。
 重度のブラコンですものね……。
 マザコンよりはましかな?)と心の中で、7歳にして色々と達観していたパメラ王女であった。

 こうして、無事にパメラと婚約することができて、私は幸福感でいっぱいであった。

 しかし、あらたな問題が生じた。セリウスが8歳になった時に、セリウスに婚約者ができたのだ。

 私は全力で反対した。まだ早いと。

 しかし、父上をはじめ、周りの皆が話をすすめて、とうとう選ばれてしまった。
 セリウスの婚約者は、我が王国騎士団を統括する騎士団長であるメナード公爵の娘、リーリア・メナードに決まった。
 再考していただくため、私は父上にもう1度、嘆願した。

「父上!セリウスの婚約を今一度、考え直してくださいませ。まだセリウスは8歳ですよ」

「8歳でも問題はないぞ。
 ルシェールの時は7歳で婚約者が決定しただろ。
 セリウスは第2王子だし、早めにきちんとしたところに決めておかないと、外戚になりたがる野心家の貴族に狙われるし、後継者争いや権力闘争とかのつまらない争いが起きるばかりだよ。
 しかも、セリウスは賢くてあれだけの可愛さだよ?
 他国から婿に欲しいと言われる可能性も高いし、早めに国内に留めるようにしておかないとね。
 ルシェールが王になった時にセリウスが他国に行くことになると困るだろ?」

「セリウスを他国に婿!?とんでもない!!」

 困るどころか、絶対に許せない事態である。
 将来、セリウスと一緒に国を繁栄させていくつもりであった私には、セリウスが他国の王になることなど、絶対ありえない選択肢である。
 しかし、政治情勢によることもあるし、万が一、セリウスが他国の王女に恋して、婿に行くという可能性は否めない。
 自分自身が他国の王女パメラに7歳の時に恋して、婚約までとりつけたこともある。
 結局、渋々とであるが、セリウスの婚約を受け入れたのであった。

 ただ、セリウスの婚約者リーリア・メナードが問題であった。

 私のパメラは、美しくかつ聡明で包容力のある女性で、色々と頼りにもなる。
 しかも、セリウスには甘えられないが、パメラには甘えることができる。
 ああ、私にはなんて素晴らしい婚約者がいるのだろう!と、私はいつでもそう思えるほどの婚約者を得た。

 それなのに、セリウスの婚約者ときたら、公爵令嬢でありながら貴族の令嬢らしからぬ振る舞いをよくしていると聞く。
 何といっても、婚約者としてセリウスとの顔見せの際、木々を伝って逃亡しようとしたと報告で聞き、セリウスの婚約者という栄誉にもかかわらず、逃げようとするとは許せないと激怒した。
 メナード公爵は娘に一体、どういう教育をしておられるのか。
 しかも、木々を伝って部屋から逃亡とは、まるで野猿のようだとさらに怒りがわいてくる。

 ああ、そういえば、セリウスはよく野猿を欲しがっていたな。
 私もセリウスのために手をつくしたが、なかなか野猿は手に入らなかった。
 その野猿のことが書かれた本をセリウスへ贈ってくれたのは、パメラであったな。
 さすがは私のパメラ。セリウスの喜ぶものがよくわかっている。
 だから、セリウスにも野猿ではなく私のような素晴らしい婚約者をもらって欲しい。

 私が父上に婚約者を変えるように進言に行こうとすると、セリウスから私に会いに来てくれた。

「セリウス!今回の婚約の件は聞いたよ。
 父上たちも、セリウスに野猿みたいな令嬢をあてがうなんてひどすぎるよね。婚約者を変えたくて相談にきたのだよね?」

「いえ、違いますよ。
 兄上にはリーリアと正式に婚約したことをご報告にきました」

「王子だからと無理はしなくてもいいのだよ、セリウス。
 兄様がそんな野猿な婚約者からパメラのような素晴らしい婚約者へ変えられるように、力になるよ!」

「いえ、無理していません!
 僕はリーリアとしか婚約も結婚もしませんからね」

「野猿な婚約者なんてセリウスにはふさわしくないよ!
 ちゃんとした令嬢に婚約者を変えよう!!」

「変えません!兄上、落ち着いて聞いてください。
 僕はリーリアのことが、兄上にとっての婚約者と同じように大事なのです。
 わかってください」と真摯に訴えるセリウス。

「でも、セリウス!変えるなら早い方がスムーズにいくよ!!」

「だから、婚約者はリーリアで変えません!
 あー、あと、兄上と毎週4回していたお茶の時間も、リーリアに会いに行く時間が必要なため、週2回になりますが、よろしいですか?」

「ええー!!
 わ、私との時間を削るのかい?
 野猿のために?
 あんまりだ!!」と私は久しぶりに泣きそうになった。
 多少は覚悟していたことであったが、こんなにもあっさりとセリウスが私との時間を半分に減らすなんて……。

「あ、兄上!泣かないでください!!
 そうだ!兄上もその時間帯に婚約者に会いにいけばよいのですよ!」

 私は結局、泣いていた。セリウスがひどい。
 あ、もしかしてこれが兄離れ?でも早すぎる!
 やっぱり婚約自体が早過ぎたのだ!

「ぐすっ、やっぱり、ぐすん、婚約自体をなかったことに……」

「兄上、これ以上、僕とリーリアの婚約を反対するなら、兄上との時間を必要最低限にしてしまいますよ。
 もっともリーリアがメナード公爵家ではなく、王宮に僕と一緒に住んでくれれば兄上との時間も減らさないで済むのですがね。
 正式に婚約したから、そのままリーリアを王宮に連れて行こうとしたら、メナード公爵やアーサーに阻止されてしまったのです。
 できれば、リーリアには僕の傍にずっといて欲しいのですが」

「の、野猿を王宮になんて……」

「うーん、王宮だといつもリーリアが使う木がないから、ダメですか?
 リーリアをむかえる前にリーリア用の木をきちんと庭に植えて、整えてからが良いのでしょうか。
 そうすると、時間がかかるから、しばらくは一緒に暮らすのはダメですよね……」

「セリウス。さすがにそれは何か違うと思う……」

「やはり、そうですか。実は父上にも同じことを言われました。
 僕たちが一緒に暮らせるのは、最も早くてリーリアが学院を卒業する18歳になってからで、それまでは僕がメナード公爵家に通うか、リーリアが王宮に通うかをしてお互い会うようにと言われました。
 でも僕はあと12年も待てません!
 兄上、リーリアと少しでも早く一緒に暮らせる方法はないですか?
 リーリアのためなら木でも何でも植えますから、ご存じだったら教えてください!」

「セリウス。そこまでその野猿のことを……」

「はい!もしいい案がありましたらお願いしますね、兄上!それでは失礼します」

「待って、セリウス!本当に私との時間を減らす気なの!?待ってー!」

 呼び止めたが、セリウスは行ってしまった。

 後日、セリウスは私との時間を言った通り半分に減らしてきた。
 そのため、とにかく悲しさと腹立たしさの勢いで、アルーテ王国までパメラに会おうとはるばる来てしまった。私の突然の訪問を、心配してくれるパメラに早速、相談をした。

「というわけで、パメラ!セリウスの婚約者が野猿なうえに、セリウスが私にあんなひどいことを……」

「もう少し先になると思った事態が、予想より早く来た……」とつぶやくパメラ。

「パメラ?」

「いえ何でも。
 それよりルシェ様、この件に関してセリウス様のご希望通り、お二人の仲を反対したり、妨害したりは、一切なさらない方がいいですよ」

「パ、パメラまで!」

「彼から『兄上なんか、大っ嫌い!』と言われても良いですか?」

「ダメだ!絶対にそれはダメだ!!
 そんなことを言われたら辛すぎて食事も喉に通らない」

「そうならないためにも、お二人を祝福なさいませ。
 私からみれば、お似合いのお二人ですわよ」

「そんな、パメラ!
 あの賢くて美しいセリウスと粗野で低能な野猿とではきっと幸せになれないよ!?」

「では、しばらく何もせず見守ってさしあげて、彼自ら、婚約破棄したいとのご相談がでてから、ルシェ様が助力しても遅くはないですよ」

「いや、それからでは手遅れだよ!
 それに、それまでセリウスと私の過ごすはずの時間を野猿に奪われるんだよ!」

(でたな、ブラコンの本音。なんだかんだと言っても、要はセリウス様と過ごす時間が減るのが嫌なだけでしょう)とパメラは心の中で大きなため息をついた。

「ねえ、ルシェ様は自分の気持ちよりもセリウス様の気持ちを優先できるほど、セリウス様を大事になさっていますよね?」

「ああ、それはもちろんだ!だからこそ、大事なセリウスには幸せになって欲しい」

「それなら、たとえ野猿のようなご令嬢でも、セリウス様がご自分のものにしたいと強く思い、断ることもできたのに婚約者に決めたそのお気持ちを汲んで、静観するべきですよ。
 今の時点で、セリウス様はその方と婚約したので、早速、一緒に過ごしたい、それが幸せだというお気持ちでいっぱいなのでしょう?今だけでも、それを優先させてあげるべきですよ」

「でも、パメラ……」とまだ不満そうにしているルシェールの頭をパメラは優しくなでて、落ち着かせ、今はどうしようもないことだからと、最後には何とかルシェールも受け入れた様子であった。
 また、セリウスの兄離れの反動か、パメラに甘えたい病が発病したのか、いつも以上にパメラにべったりするルシェールであった。

 将来、ルシェールとパメラは、ランダート王国の王と王妃として、誰もがうらやむおしどり夫婦になり、国を繁栄させていくことになる。
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