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ひよこの幸せ
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今日は朝から荒れまくりの天気だった。
岸本 雛の決意はそれでもめげる事はない。
暴風の中近くのスーパーのタイムセールに行くためリュックを背負い、首もとにタオルを巻いてカッパを着込む。
ここでのポイントはコート型のカッパではなくウェアとパンツに別れている100均のカッパである。
勿論使い捨てにはしない。
もう3年は頑張ってくれているカッパへの愛着は半端ない。
忘れ物チェックをして風雨吹き荒れるなかいざ行かん!スーパー戦場に!
今日の目玉は鶏のモモ肉100g50円。
ブラジル産のモモ肉でも68円なのに今回は国産がこの値段は有り得ない。
お店の努力の結晶の安売りに敬意を表し、その戦いには是非とも勝利しなければならない。
お店に到着すると既に精肉コーナーには30分前だというのに人が集まり出していた。
ニコニコマートでは、毎日一品激安になるタイムセールがあり一週間の予定を月曜日に掲示板に貼り出してくれる。
なのでそのコーナーの近くで待っていたらセール品が出てきたときにゲットしやすい。
ニコマート様様である。
何時も勝利を納めてきた私は今日は油断していた。
負けたのだ!
なみ居る強敵を押し退けてきた私が!
その原因はなり続けるスマホを無視し続けた事と言えよう!!
一言!たった一言言って切るだけですんだのに!
私はそれを怠ってしまった結果。
私は敗北した。
そして、私は今元彼に拉致されている途中である。
私を車に押し込んだ元彼 田野倉 智之は無情のまま見慣れたマンションに車を滑り込ませた。
そこは、もう二度と訪れることはないと思っていた彼の住んでいるマンション。
ちょっと前まで私は此処に何度となく通っていた。
あれよあれよと言う間にソファに座らされた私に智之はミルクたっぷりのコーヒーを入れてくれる。
そして、当たり前の様に隣に座る。
「普通、こういう話し合いの場合横じゃなくて前に座るもんじゃない? 」
カフェモカに視線を落としながら眉間に皺を寄せて一言物申すと元彼はカフェモカを取り上げると言う暴挙に出た。
抗議の目を向けると、ニッコリと微笑み返された。
にこやかな笑みの筈なのに背筋に冷たいものが流れていく。
むっちゃ恐い!
私は本能的に逃げ出そうとした……が! お怒りの智之がそれを許す訳もなく引き寄せられた私はあっという間に彼の腕に閉じ込められてしまった。
普通女なら胸キュンするかもしれないが、はっきり言って体制がきつい。
立ち上がる寸前に引き寄せられた為上半身を捻る様に抱きしめられている。
なんとか脱出を試みるが拘束が強まっただけだった。
余計苦しくなった…。
無念……。
「逃げないから離して、苦しい。」
涙目になりながら智之を見上げると凝視された後、しぶしぶながら離してくれた。
「それで? あのメールはどういう意味ですか? 」
私が首を傾げると智之は私自分のスマホを差し出してきた。
そこには、私が今朝送ったメールが表示されていた。
『今まで楽しい時間をありがとう。さようならもう二度と会いません。』
考えて、考えて長くなった文章を消していっては書き直してを繰り返してようやくこの短い文章に落ち着いて意を決して送ることが出来たメール。
改めて見ると涙が込み上げてくるが何とか泣かずに堪えた。
「…… もっと説明が必要だった?」
どうして別れる決意をしたのかを書けば確実にうっとうしい重い女になる事はわかっていたし、何度書き直しても長くなればなる程未練たらしい文章になって説明どころではなくなってしまう。
だから、簡潔に意思が伝わる文章にしたつもりだった。
もう少し説明を加えたほうが良かっただろうか?
別れる事には変わりないけど。
ある人達からの忠告に私はよくよく考えた結果思ったのだ、この人を私の犠牲にしてはいけないと。
「そういう事ではないとわかっているでしょう。」
智之は眉間にしわを寄せて低い声でうなるようにいうとそのままキッチンに行ってしまった。
私は、渡されたスマホを気付かれないように操作する。
その中から私の連絡先を消去し終わると同時に彼は戻ってきて氷たっぷりの琥珀色の飲み物を持ってきた。
私はスマホをテーブルの上に置くと持って来てくれた飲み物に口を付ける。
これも私の好きなダージリンのアイスティー。
智之は私の事をよくわかってくれてる。
私は無言で紅茶の味わう。
智之は私が飲み終えるまでじっと私を見ていた。
「それで、別れようと思ったきっかけは何ですか?」
私が紅茶を飲んでる間に怒りが鎮まったのか智之は穏やかに私に話しかける。
「あのね。」
コップに残った氷をストローでつつきながら言葉を選んでいく。
「私は智之の邪魔になるんだ。」
「……なぜ?」
「智之はエリートでしょう、将来的には今の会社を任される事は決まってるし、そこに私みたいな引きこもり体質のコミュ障入っているような女が一緒にいたら智之は出世出来なくなるし、私も周りから色々言われるのはいや。」
智之が勤める双秦商社の社長は遠縁にあたる優秀な智之に将来会社を任せるとすでに決めているという。
その条件がある女性との結婚。
私が身を引いた方がいいのは考えなくてもわかる。
「成る程。」
横から呆れた様な声がした。
底冷えするような感じではなくて私はつい智之の方を見てしまった。
声の感じをそのまま表情にのせて見つめる智之に私はなんとなくほっとしてしまった。
もう怒ってない。
それが私にはすごく安心感を与えてくれる。
緊張で強張っていた体から力が抜けていくと私は智之に笑いかけて「わかってくれたんだ。」と呟いていた。
「ええ、改めてわかりました。貴女は何時も私には理解しがたい方向に結論を持っていって仕舞うと言う事が。」
「は?」
私が間抜けな声で聞き返すと智之は微笑んだ。
「まず、会社の跡取り候補には確かに私があげられています。ですが、あくまで候補。決定ではないですし、 ひよ と別れなければならなら受けるつもりありません。」
「う…ん?」
私は首を捻る。
「それと、ひよは引きこもりのコミュ障と言いますが会社勤めをして対人関係を円滑に進められる様に人一倍努力しているのを知っていますしその成果も多少なりとも出ているので全く問題ありません。」
「うん? ありがとう??」
私の頭の中は?マークで一杯になり始める。
元元残念な頭なので情報処理に時間がかかる。
「えっと、そう! 別れるんだった!智之別れてね。」
ひよこは考え込んだが途中で思考を放棄して当初の目的を再度智之に投げ掛けた。
「嫌です。」
にっこり微笑まれ、そして、瞬時に拒否られた。
「なんで!」
私が叫ぶと智之は私の頭をよしよしと撫でてくる。
その手がとても気持ちいいのでついついされるがままになっているとなっていると「一つづつ疑問を解決していきましょう。」と提案し来てたので私はこくんと頷いた。
「何が一番気になっていますか?」
「んー、何故に別れない?」
取り合えずそこからだ。
別れれば智之は出世して幸せになれる、私は寂しいけどまぁ何とかやっていける。
「別れる必要がないからです。」
「でも、出世が……。」
別れないと出世が出来ない。
当然の事に私は愛人になるつもりもない。
「ひよがいなくなるのに出世する必要はありません。」
「えっと、出世すると幸せになれるよ?」
《出世すると幸せ》というのははっきり言って私も理解できてない。
私が出世に幸せを見いだしてないから。
その為、ついつい語尾が疑問系になってしまった。
でも、智之が幸せなら私は嬉しい。
私は幸せ一杯ではないかもしれないけど智之が幸せになってくれれば私が嬉しいのは変わらない。
そして、親戚なだけあって智之にそっくりなあの人が言うのだから智之にとって出世は幸せなことなのだと思う。
だから出世してほしい。
「私にとって出世は幸せな事ではありません。」
智之のその言葉に私はびっくりして目を大きく見開き智之を凝視する。
「そ、そうなの?」
智之は頷く。
智之に幸せになってもらいたいと思っていたのに逆の事をやってた?
私は不安になって聞いてみた。
「智之の幸せって?」
「ひよと一緒に生きる事です。」
なんだかすっとんだ答えが返ってきた。
「私と生きる? それが幸せ? 特に面白みがないと思うけど。」
智之は心底可笑しいと言う風に笑う。
「ふふ、私にとっての幸せはひよと生きる事です。一緒にいる時間が長ければ長い程とても幸せになれますね。それに、私はひよが全くもって面白みにかけるなどと思っていませんしね。」
撫でられた手はいつの間にか雛の肩を抱いていた。
出世が幸せではないのなら一緒にいても良いかなと思う。
残念な頭でぐるぐる考えたせいか、段々と眠くなって来た。
私は智之の肩に頭をこてんとのっけるとそのまま睡魔に身をまかせる事にした。
そんな雛をベットに運び智之は置き手紙を残して元凶の元へと急いだ。
2時間後、雛は置き手紙に書き込みをして智之の部屋を後にした。
>>>>>>
仕事から帰っていると大家さんが声を掛けて来た。
「おお、雛ちゃん。智くんが浜の方にうちの淳と潮干狩りに行くって言ってたぞ。」
「え!そうなんですか、ありがとうございます。なんか、何時も何時もお世話になっちゃってすみません。」
「いやいや、良いって困った時は助けあわないと。それに家だって良くお裾分け貰ってるしなぁ。」
雛達がお世話になってるアパートの大家さんは雛の大恩人だった。
行くところのない雛をアパートに迎えてくれて、雛の4歳になる息子 智の面倒まで見てくれてる。
大家さんの一人息子の淳さんは37歳でバツイチの独身だが、我が子の様に智を可愛がってくれていた。
雛は5年前に智之と別れ話をし寝落ちしてしまった後リュックに簡単な荷物を詰めて東京を離れた。
別れなくて良いと結論を出したけど、そこにいてはいけないと本能的に思ったからだ。
勿論、ちょっとお出かけ程度のつもりだった。
取り合えず電車を何度も終電まで乗り継ぎ、たどり着いたのが今の海沿いの町だった。
終電を降りて取り合えず宿を探したけど見つからず。
仕方ないので駅で野宿しようと椅子で丸まってスマホを見てる時に声を掛けられた。
若い女が宿を探してうろうろしていたのが当時町内会長だった大家さんの耳に入り、しかも唯一ある宿が取れなかった事を聞いた敦さんが何かあったらいけないと探してくれていたらしい。
行くところがないと話すと敦さんは、今晩寝るだけならとアパートの空いてる部屋を提供してくれた。
その後、熱を出してしまた私を見捨てず、
敦さんは動けない見ず知らずの私の為に借りていたワンルームマンションまで諸々の物を取りに行ってくれた。
所が敦さんがもって帰ってきたのは明らかに新品の衣類だった。
そして、衝撃の事実を知ることになる。
なんと、雛の部屋は火事で悲惨な状態になっていたらしい。
出火は雛が家を出た日の夜。
しかも、原因は放火だった。
鍵が壊されて部屋には灯油が撒かれていたの警察は怨恨でも調べていると言う事だった。
幸いにも被害は雛の部屋と上下左右のみでそれは保険で何とかなるらしいので雛が弁償する必要はなかった。
雛は結果的に直感に従った事で難を逃れた形になった。
ぞっとしたと同時に智之との関係を終わらせる様に言ってきた時の3人の事を思い出して身震いした。
彼らは「別れられないと言うなら此方としても考えがある。」と言っていた。
もし今回の事がその考えの上での行動だったら?
雛は正直に敦さんと大家さんに事情を告白して、自分を狙った可能性があることを話した。
私としては迷惑はかけられないのでその日の内に出ていくつもりだったけど二人に引き留められた。
その上、敦さんはそのまま東京にとんぼ返りして様々な手続きをしてくれた。
お陰で病院にも掛かることが出来てその時に妊娠が発覚した。
大家さんは病院から帰ってきた雛に此処に住むようにさえ言ってくれた。
最初は迷惑が掛かると断ったが二人の説得に雛が折れた。
それからは、大家さんの家で居候させてもらいつつ家事をこなしていた。
といってもつわりが酷くてまともに動けない事も多く食事の用意さえままならない事も多かった。
それでもまるで本物の家族の様に接してくれた。
そして、なんと出産には敦さんが夫と間違われて立ち会ったり、大家さんは産声を聞いて雄叫びを上げて看護婦さんに怒られたりと色々あった。
智に3人で子育てを試行錯誤していってる内にあっという間に5年が過ぎていた。
私は今、敦さんから求婚されてる。
その時に離婚の原因も聞いた。
敦さんにはなんの非もない事だった。
敦さんの乏精子症に加えて事故による右足切断。
元奥さんは足のリハビリに掛かる費用が莫大になると聞いた途端に離婚届を突きつけてさっさと出ていったらしい。
その話を聞いたときに私は奥さんは馬鹿だと思った。
こんなに優しい人を。
こんなに頼りになる人を。
たったそれだけの理由で切り捨てた。
せっかく夫婦になれたのに。
でも、私はもっと大馬鹿者。
浜に着くと敦さんが此方に気がついて沢山採れたアサリをもって智の手を引いて帰って来てる途中だった。
浜の波打ち際で智を遊ばせて、私は話を切り出した。
「あの、この間の話何ですけど。」
「ああ。」
健康な筈の胃がキリキリと締め上げられる。
「……ごめんなさい。」
絞り出した言葉は波の音にかき消されてもおかしくない位の音量だったと思う。
そんな声を敦さんはちゃんと拾ってくれていた。
うつむいた頭をポンポンと叩くと「ありがとう。」と返してくれた。
その返しにびっくりして顔を上げると、そこには晴れやかに笑う敦さんがいた。
「一生懸命考えてくれて嬉しいよ。」
その言葉に救われた。
「雛には沢山幸せにして貰ったから今度は雛の番だな。」
敦さんのその言葉に敦さんがショックの余り壊れたと思った。
だって、私は敦さんに迷惑は掛けても幸せにしたことはないから。
分からなくて困っていると頭をグリグリと撫で回された。
「雛はやっぱり雛だなぁ。」
クスクス笑う敦さんにからかわれたと思っていると「雛が側に居てくれるだけで幸せだったんだ。」と何処かで聞いたことがある事を言い出した。
でも、なんだか胸のなかにストンとその言葉が落ちて空いていた穴にはまった気がした。
そっか、あれが幸せか。
大切な人達が穏やかに過ごしていく時間の積み重ねに自分がその一員としている事。
……うん、確かに幸せだ。
「だから、今度は雛が幸せになれ。」
敦さんがまたおかしな事を言い出した。
「幸せですよ?」
「じゃあ、もっと幸せになれ。」
「はぁ?」
敦さんは時々意味不明。
「物思いに耽ってる時間も幸せになれって言ってんだ。」
ああ、気付かれてましたか。
私は苦笑いを浮かべる。
片時も忘れたことがない人を想う時に私は例えようもない虚脱感に襲われる。
叫びたくて、でもそんな力もなくて只只 彼の事を思う。
そろそろ尋ねていってもいいかもしれない。
この気持ちにけりをつけて来ようかな。
そんな事を考えていると頭に衝撃が!
一瞬物思いに耽ったからって殴らなくても!
と抗議の視線を敦さんに向けた、つもりだった。
敦さんはいつの間にか智の所に行って一緒に遊んでいた。
私はどんだけ物思いに耽ってたんだ!
プチパニックを起こしてると背後から懐かしい声が聞こえた。
「貴女は相変わらず考えがあらぬの方向に向いているようですね。」
低くて耳に触りの良い声が丁寧な言葉を辛辣に紡ぐ。
そっと振り抜くと懐かしい顔がそこにはあった。
思わず上から下まで見てしまった。
「と…も、ゆき? なんで?」
「探したからですよ。」
私が次の言葉がでなくてぽかんしていると「ああ。」
と続けていく。
「そうではありませんね、まず先程の拳骨ですが勝手に終止符を、別れを告げる事で打とうとしている事への制裁です。」
「えっと、声に出て?」
「いいえ、ですが貴女の考えている事ぐらいお見通しです。それから私が此処にいる理由ですが……ひよ、貴女を迎えに来ました。」
「……でも……」
私は帰れない。
もしも、智之の所に帰ったら彼らが何をしてくるか分からないから。
「全て終わりました、ひよが心配することは何一つありません。」
「終わったって?」
「ええ、彼らが主張した権利と権限は全て剥奪しました。今後彼らが私や私のひよに手を出してくる事はありません。」
「そうなの?」
智之は自信満々な笑顔で頷く。
じゃぁ、良いのかな?
智之と一緒にいても。
私は智の方を見た。
「智は貴方の子じゃないよ?」
「ひよ。」
「私は智が大事なの。」
「ひよ。」
「智と離れたくないの。」
「例え我が子でもムカつきますね。」
違うって言ってるのに相変わらず言葉が通じない時があるなぁと、つい遠い目をすると
「ひよ、智は私の幼少期の頃にそっくりです。誰も他の男の子供とは思わないので安心しなさい。」
「うっ、嘘ついて、ごめんなさい。」
許してくれる事を信じて謝る。
智之は眩しい位の笑顔で答えてくれた。
「許しません。」
と……
ぐいっと腕を引かれて耳元で囁かれた赤面もののお仕置き方法に逃げ出したい衝動にかられながらも「お手柔らかにお願いします。」と智之の胸に顔を埋めた。
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岸本 雛の決意はそれでもめげる事はない。
暴風の中近くのスーパーのタイムセールに行くためリュックを背負い、首もとにタオルを巻いてカッパを着込む。
ここでのポイントはコート型のカッパではなくウェアとパンツに別れている100均のカッパである。
勿論使い捨てにはしない。
もう3年は頑張ってくれているカッパへの愛着は半端ない。
忘れ物チェックをして風雨吹き荒れるなかいざ行かん!スーパー戦場に!
今日の目玉は鶏のモモ肉100g50円。
ブラジル産のモモ肉でも68円なのに今回は国産がこの値段は有り得ない。
お店の努力の結晶の安売りに敬意を表し、その戦いには是非とも勝利しなければならない。
お店に到着すると既に精肉コーナーには30分前だというのに人が集まり出していた。
ニコニコマートでは、毎日一品激安になるタイムセールがあり一週間の予定を月曜日に掲示板に貼り出してくれる。
なのでそのコーナーの近くで待っていたらセール品が出てきたときにゲットしやすい。
ニコマート様様である。
何時も勝利を納めてきた私は今日は油断していた。
負けたのだ!
なみ居る強敵を押し退けてきた私が!
その原因はなり続けるスマホを無視し続けた事と言えよう!!
一言!たった一言言って切るだけですんだのに!
私はそれを怠ってしまった結果。
私は敗北した。
そして、私は今元彼に拉致されている途中である。
私を車に押し込んだ元彼 田野倉 智之は無情のまま見慣れたマンションに車を滑り込ませた。
そこは、もう二度と訪れることはないと思っていた彼の住んでいるマンション。
ちょっと前まで私は此処に何度となく通っていた。
あれよあれよと言う間にソファに座らされた私に智之はミルクたっぷりのコーヒーを入れてくれる。
そして、当たり前の様に隣に座る。
「普通、こういう話し合いの場合横じゃなくて前に座るもんじゃない? 」
カフェモカに視線を落としながら眉間に皺を寄せて一言物申すと元彼はカフェモカを取り上げると言う暴挙に出た。
抗議の目を向けると、ニッコリと微笑み返された。
にこやかな笑みの筈なのに背筋に冷たいものが流れていく。
むっちゃ恐い!
私は本能的に逃げ出そうとした……が! お怒りの智之がそれを許す訳もなく引き寄せられた私はあっという間に彼の腕に閉じ込められてしまった。
普通女なら胸キュンするかもしれないが、はっきり言って体制がきつい。
立ち上がる寸前に引き寄せられた為上半身を捻る様に抱きしめられている。
なんとか脱出を試みるが拘束が強まっただけだった。
余計苦しくなった…。
無念……。
「逃げないから離して、苦しい。」
涙目になりながら智之を見上げると凝視された後、しぶしぶながら離してくれた。
「それで? あのメールはどういう意味ですか? 」
私が首を傾げると智之は私自分のスマホを差し出してきた。
そこには、私が今朝送ったメールが表示されていた。
『今まで楽しい時間をありがとう。さようならもう二度と会いません。』
考えて、考えて長くなった文章を消していっては書き直してを繰り返してようやくこの短い文章に落ち着いて意を決して送ることが出来たメール。
改めて見ると涙が込み上げてくるが何とか泣かずに堪えた。
「…… もっと説明が必要だった?」
どうして別れる決意をしたのかを書けば確実にうっとうしい重い女になる事はわかっていたし、何度書き直しても長くなればなる程未練たらしい文章になって説明どころではなくなってしまう。
だから、簡潔に意思が伝わる文章にしたつもりだった。
もう少し説明を加えたほうが良かっただろうか?
別れる事には変わりないけど。
ある人達からの忠告に私はよくよく考えた結果思ったのだ、この人を私の犠牲にしてはいけないと。
「そういう事ではないとわかっているでしょう。」
智之は眉間にしわを寄せて低い声でうなるようにいうとそのままキッチンに行ってしまった。
私は、渡されたスマホを気付かれないように操作する。
その中から私の連絡先を消去し終わると同時に彼は戻ってきて氷たっぷりの琥珀色の飲み物を持ってきた。
私はスマホをテーブルの上に置くと持って来てくれた飲み物に口を付ける。
これも私の好きなダージリンのアイスティー。
智之は私の事をよくわかってくれてる。
私は無言で紅茶の味わう。
智之は私が飲み終えるまでじっと私を見ていた。
「それで、別れようと思ったきっかけは何ですか?」
私が紅茶を飲んでる間に怒りが鎮まったのか智之は穏やかに私に話しかける。
「あのね。」
コップに残った氷をストローでつつきながら言葉を選んでいく。
「私は智之の邪魔になるんだ。」
「……なぜ?」
「智之はエリートでしょう、将来的には今の会社を任される事は決まってるし、そこに私みたいな引きこもり体質のコミュ障入っているような女が一緒にいたら智之は出世出来なくなるし、私も周りから色々言われるのはいや。」
智之が勤める双秦商社の社長は遠縁にあたる優秀な智之に将来会社を任せるとすでに決めているという。
その条件がある女性との結婚。
私が身を引いた方がいいのは考えなくてもわかる。
「成る程。」
横から呆れた様な声がした。
底冷えするような感じではなくて私はつい智之の方を見てしまった。
声の感じをそのまま表情にのせて見つめる智之に私はなんとなくほっとしてしまった。
もう怒ってない。
それが私にはすごく安心感を与えてくれる。
緊張で強張っていた体から力が抜けていくと私は智之に笑いかけて「わかってくれたんだ。」と呟いていた。
「ええ、改めてわかりました。貴女は何時も私には理解しがたい方向に結論を持っていって仕舞うと言う事が。」
「は?」
私が間抜けな声で聞き返すと智之は微笑んだ。
「まず、会社の跡取り候補には確かに私があげられています。ですが、あくまで候補。決定ではないですし、 ひよ と別れなければならなら受けるつもりありません。」
「う…ん?」
私は首を捻る。
「それと、ひよは引きこもりのコミュ障と言いますが会社勤めをして対人関係を円滑に進められる様に人一倍努力しているのを知っていますしその成果も多少なりとも出ているので全く問題ありません。」
「うん? ありがとう??」
私の頭の中は?マークで一杯になり始める。
元元残念な頭なので情報処理に時間がかかる。
「えっと、そう! 別れるんだった!智之別れてね。」
ひよこは考え込んだが途中で思考を放棄して当初の目的を再度智之に投げ掛けた。
「嫌です。」
にっこり微笑まれ、そして、瞬時に拒否られた。
「なんで!」
私が叫ぶと智之は私の頭をよしよしと撫でてくる。
その手がとても気持ちいいのでついついされるがままになっているとなっていると「一つづつ疑問を解決していきましょう。」と提案し来てたので私はこくんと頷いた。
「何が一番気になっていますか?」
「んー、何故に別れない?」
取り合えずそこからだ。
別れれば智之は出世して幸せになれる、私は寂しいけどまぁ何とかやっていける。
「別れる必要がないからです。」
「でも、出世が……。」
別れないと出世が出来ない。
当然の事に私は愛人になるつもりもない。
「ひよがいなくなるのに出世する必要はありません。」
「えっと、出世すると幸せになれるよ?」
《出世すると幸せ》というのははっきり言って私も理解できてない。
私が出世に幸せを見いだしてないから。
その為、ついつい語尾が疑問系になってしまった。
でも、智之が幸せなら私は嬉しい。
私は幸せ一杯ではないかもしれないけど智之が幸せになってくれれば私が嬉しいのは変わらない。
そして、親戚なだけあって智之にそっくりなあの人が言うのだから智之にとって出世は幸せなことなのだと思う。
だから出世してほしい。
「私にとって出世は幸せな事ではありません。」
智之のその言葉に私はびっくりして目を大きく見開き智之を凝視する。
「そ、そうなの?」
智之は頷く。
智之に幸せになってもらいたいと思っていたのに逆の事をやってた?
私は不安になって聞いてみた。
「智之の幸せって?」
「ひよと一緒に生きる事です。」
なんだかすっとんだ答えが返ってきた。
「私と生きる? それが幸せ? 特に面白みがないと思うけど。」
智之は心底可笑しいと言う風に笑う。
「ふふ、私にとっての幸せはひよと生きる事です。一緒にいる時間が長ければ長い程とても幸せになれますね。それに、私はひよが全くもって面白みにかけるなどと思っていませんしね。」
撫でられた手はいつの間にか雛の肩を抱いていた。
出世が幸せではないのなら一緒にいても良いかなと思う。
残念な頭でぐるぐる考えたせいか、段々と眠くなって来た。
私は智之の肩に頭をこてんとのっけるとそのまま睡魔に身をまかせる事にした。
そんな雛をベットに運び智之は置き手紙を残して元凶の元へと急いだ。
2時間後、雛は置き手紙に書き込みをして智之の部屋を後にした。
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仕事から帰っていると大家さんが声を掛けて来た。
「おお、雛ちゃん。智くんが浜の方にうちの淳と潮干狩りに行くって言ってたぞ。」
「え!そうなんですか、ありがとうございます。なんか、何時も何時もお世話になっちゃってすみません。」
「いやいや、良いって困った時は助けあわないと。それに家だって良くお裾分け貰ってるしなぁ。」
雛達がお世話になってるアパートの大家さんは雛の大恩人だった。
行くところのない雛をアパートに迎えてくれて、雛の4歳になる息子 智の面倒まで見てくれてる。
大家さんの一人息子の淳さんは37歳でバツイチの独身だが、我が子の様に智を可愛がってくれていた。
雛は5年前に智之と別れ話をし寝落ちしてしまった後リュックに簡単な荷物を詰めて東京を離れた。
別れなくて良いと結論を出したけど、そこにいてはいけないと本能的に思ったからだ。
勿論、ちょっとお出かけ程度のつもりだった。
取り合えず電車を何度も終電まで乗り継ぎ、たどり着いたのが今の海沿いの町だった。
終電を降りて取り合えず宿を探したけど見つからず。
仕方ないので駅で野宿しようと椅子で丸まってスマホを見てる時に声を掛けられた。
若い女が宿を探してうろうろしていたのが当時町内会長だった大家さんの耳に入り、しかも唯一ある宿が取れなかった事を聞いた敦さんが何かあったらいけないと探してくれていたらしい。
行くところがないと話すと敦さんは、今晩寝るだけならとアパートの空いてる部屋を提供してくれた。
その後、熱を出してしまた私を見捨てず、
敦さんは動けない見ず知らずの私の為に借りていたワンルームマンションまで諸々の物を取りに行ってくれた。
所が敦さんがもって帰ってきたのは明らかに新品の衣類だった。
そして、衝撃の事実を知ることになる。
なんと、雛の部屋は火事で悲惨な状態になっていたらしい。
出火は雛が家を出た日の夜。
しかも、原因は放火だった。
鍵が壊されて部屋には灯油が撒かれていたの警察は怨恨でも調べていると言う事だった。
幸いにも被害は雛の部屋と上下左右のみでそれは保険で何とかなるらしいので雛が弁償する必要はなかった。
雛は結果的に直感に従った事で難を逃れた形になった。
ぞっとしたと同時に智之との関係を終わらせる様に言ってきた時の3人の事を思い出して身震いした。
彼らは「別れられないと言うなら此方としても考えがある。」と言っていた。
もし今回の事がその考えの上での行動だったら?
雛は正直に敦さんと大家さんに事情を告白して、自分を狙った可能性があることを話した。
私としては迷惑はかけられないのでその日の内に出ていくつもりだったけど二人に引き留められた。
その上、敦さんはそのまま東京にとんぼ返りして様々な手続きをしてくれた。
お陰で病院にも掛かることが出来てその時に妊娠が発覚した。
大家さんは病院から帰ってきた雛に此処に住むようにさえ言ってくれた。
最初は迷惑が掛かると断ったが二人の説得に雛が折れた。
それからは、大家さんの家で居候させてもらいつつ家事をこなしていた。
といってもつわりが酷くてまともに動けない事も多く食事の用意さえままならない事も多かった。
それでもまるで本物の家族の様に接してくれた。
そして、なんと出産には敦さんが夫と間違われて立ち会ったり、大家さんは産声を聞いて雄叫びを上げて看護婦さんに怒られたりと色々あった。
智に3人で子育てを試行錯誤していってる内にあっという間に5年が過ぎていた。
私は今、敦さんから求婚されてる。
その時に離婚の原因も聞いた。
敦さんにはなんの非もない事だった。
敦さんの乏精子症に加えて事故による右足切断。
元奥さんは足のリハビリに掛かる費用が莫大になると聞いた途端に離婚届を突きつけてさっさと出ていったらしい。
その話を聞いたときに私は奥さんは馬鹿だと思った。
こんなに優しい人を。
こんなに頼りになる人を。
たったそれだけの理由で切り捨てた。
せっかく夫婦になれたのに。
でも、私はもっと大馬鹿者。
浜に着くと敦さんが此方に気がついて沢山採れたアサリをもって智の手を引いて帰って来てる途中だった。
浜の波打ち際で智を遊ばせて、私は話を切り出した。
「あの、この間の話何ですけど。」
「ああ。」
健康な筈の胃がキリキリと締め上げられる。
「……ごめんなさい。」
絞り出した言葉は波の音にかき消されてもおかしくない位の音量だったと思う。
そんな声を敦さんはちゃんと拾ってくれていた。
うつむいた頭をポンポンと叩くと「ありがとう。」と返してくれた。
その返しにびっくりして顔を上げると、そこには晴れやかに笑う敦さんがいた。
「一生懸命考えてくれて嬉しいよ。」
その言葉に救われた。
「雛には沢山幸せにして貰ったから今度は雛の番だな。」
敦さんのその言葉に敦さんがショックの余り壊れたと思った。
だって、私は敦さんに迷惑は掛けても幸せにしたことはないから。
分からなくて困っていると頭をグリグリと撫で回された。
「雛はやっぱり雛だなぁ。」
クスクス笑う敦さんにからかわれたと思っていると「雛が側に居てくれるだけで幸せだったんだ。」と何処かで聞いたことがある事を言い出した。
でも、なんだか胸のなかにストンとその言葉が落ちて空いていた穴にはまった気がした。
そっか、あれが幸せか。
大切な人達が穏やかに過ごしていく時間の積み重ねに自分がその一員としている事。
……うん、確かに幸せだ。
「だから、今度は雛が幸せになれ。」
敦さんがまたおかしな事を言い出した。
「幸せですよ?」
「じゃあ、もっと幸せになれ。」
「はぁ?」
敦さんは時々意味不明。
「物思いに耽ってる時間も幸せになれって言ってんだ。」
ああ、気付かれてましたか。
私は苦笑いを浮かべる。
片時も忘れたことがない人を想う時に私は例えようもない虚脱感に襲われる。
叫びたくて、でもそんな力もなくて只只 彼の事を思う。
そろそろ尋ねていってもいいかもしれない。
この気持ちにけりをつけて来ようかな。
そんな事を考えていると頭に衝撃が!
一瞬物思いに耽ったからって殴らなくても!
と抗議の視線を敦さんに向けた、つもりだった。
敦さんはいつの間にか智の所に行って一緒に遊んでいた。
私はどんだけ物思いに耽ってたんだ!
プチパニックを起こしてると背後から懐かしい声が聞こえた。
「貴女は相変わらず考えがあらぬの方向に向いているようですね。」
低くて耳に触りの良い声が丁寧な言葉を辛辣に紡ぐ。
そっと振り抜くと懐かしい顔がそこにはあった。
思わず上から下まで見てしまった。
「と…も、ゆき? なんで?」
「探したからですよ。」
私が次の言葉がでなくてぽかんしていると「ああ。」
と続けていく。
「そうではありませんね、まず先程の拳骨ですが勝手に終止符を、別れを告げる事で打とうとしている事への制裁です。」
「えっと、声に出て?」
「いいえ、ですが貴女の考えている事ぐらいお見通しです。それから私が此処にいる理由ですが……ひよ、貴女を迎えに来ました。」
「……でも……」
私は帰れない。
もしも、智之の所に帰ったら彼らが何をしてくるか分からないから。
「全て終わりました、ひよが心配することは何一つありません。」
「終わったって?」
「ええ、彼らが主張した権利と権限は全て剥奪しました。今後彼らが私や私のひよに手を出してくる事はありません。」
「そうなの?」
智之は自信満々な笑顔で頷く。
じゃぁ、良いのかな?
智之と一緒にいても。
私は智の方を見た。
「智は貴方の子じゃないよ?」
「ひよ。」
「私は智が大事なの。」
「ひよ。」
「智と離れたくないの。」
「例え我が子でもムカつきますね。」
違うって言ってるのに相変わらず言葉が通じない時があるなぁと、つい遠い目をすると
「ひよ、智は私の幼少期の頃にそっくりです。誰も他の男の子供とは思わないので安心しなさい。」
「うっ、嘘ついて、ごめんなさい。」
許してくれる事を信じて謝る。
智之は眩しい位の笑顔で答えてくれた。
「許しません。」
と……
ぐいっと腕を引かれて耳元で囁かれた赤面もののお仕置き方法に逃げ出したい衝動にかられながらも「お手柔らかにお願いします。」と智之の胸に顔を埋めた。
»»»»»»»»
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