時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた

文字の大きさ
2 / 13

1.やり直し、そして分岐(1)

しおりを挟む

目を開けるとそこは地獄…ではなく、見慣れた部屋にいた。
体の痛みも全くなく、鏡で確認しても傷一つないの姿が写っているだけだった。

「嘘…でしょ。」

時間を巻き戻す、と言っていたが時系列的に学園の寮にいる時点でお母様はもう死んでいる。
結局、僕はお母様を救うことはできなかった…。

不治の病に侵されたお母様が亡くなってあの義母娘がエルレルト家に来てから、お母様付きの使用人はすべて解雇された。
新しい使用人が雇用され、義母の言うままに僕を家の隅に追いやったのだ。
父もリリアに夢中になって僕のことはリリアの影武者として育てた。
もうその頃には誰も味方は家にいなくて…人生を諦めていて、唯一血のつながりがある父の言いなりになるしかないと思っていた。
よく考えなくても前の人生の不幸はあの人たちのせいだと思う。

まずは冷静になって、学園での出来事を振り返ろう。
入学前、僕は父に薬を飲まされた。
それはリリアと瓜二つになる薬、通称『似薬』で、学園ではリリアのふりをするように頼まれた。
一方でリリアはエリスと偽名を名乗り、姉リリアに虐められる可憐な少女を演じるのだ。
皇太子をはじめとしたエリスの取り巻きはリリアの嫌がらせに負けない姿を見て、彼女に魅了されていき、最終的に皆で協力して僕の悪事の証拠を掴み僕を……思い出したくもない。

あぁ、全部思い出した。
『貴方が元気に生きていることがお母様の幸せですよ。』
お母様と最後に会った時に遺した言葉。
僕は愚かだ、『連れて行ってほしい』なんて願い、お母様を悲しませるだけなのに。
エルレルト家を浄化するほどの力はなくとも、新しい居場所を見つけることはきっと僕にでもできる。
生きるんだ、何があっても。
それがお母様やチャンスをくれた自称魔女への恩返しなのだから。

僕は中のパニエを整え、早めに自室を出た。





いつもより静かな学園。
職員室の明かりはついている。
迷わず扉を開ける。

「おはようございます。」

たまたま出勤していた歴史の先生は突然の来訪者に驚いたようだ。

「エリスさん、おはよう。どうしたの?」

エリスは真面目で先生からも評価が高い。
一方でリリアは自堕落で意地悪、という設定で演じているので当然周りからの評価は低い。

「リリアです…。今日は何日ですか?」
「あら、リリアさん?珍しいですね、貴方が早く来るなんて。今日は○○日ですよ、それがどうかしましたか?」

リリアが学園に一番乗りで来るとは想定していなかっただろう…ん?○○日?つまり…ということ⁉
まずい、更生するにはあまりに時間がなさすぎる…。
僕は不審そうにこちらを見つめる先生を後にして教室に向かった。


当たり前のように教室には誰もいない。
先程も紹介したようにリリアは怠惰なため早起きできない設定になっている。
なりきるため普段は学園に行くまでの4時間くらいは外を見て虚無な時間を過ごしていた。
今思えば無駄な時間に感じるが、あの時の僕には自立して生きる気力なんて残っていなかった。
毎日、何かしらエリスにいたずらを仕掛け、その度に周囲から孤立する生活。
それでも僕には頼れる人もいなかったし、ひたすらに演じ続けることしかできなかった。

そうだ、2か月前ということはもうこの学園の人間からの好感度は底辺を舐めている。
ならば刑罰は免れまい…。
僕がすることはまず極刑を避ける方策、つまりことを徹底せねばならない。
加えて、1人で生きていけるようにに励まなくては。
やれるだけ頑張ってみるか!











目覚めてから学園では極力空気で暮らしている。
学園の人たちは基本的に僕を避けているのでありがたい。
だが逆に皇太子達は急に息を潜めた僕を警戒しているのをひしひしと感じている。
未来を知っているからだろうか、そういう勘が鋭くなった気がするし、運動能力も高くなった気がする。
彼らに尾行されていてもすぐに巻けるようになった。
気の持ちようかもしれない。

次の時間はB組(リリア)とA組(エリス、その他諸々)の合同授業だからかなり緊張する。
普段は関わらない、または僕がエリスにちょっかいを出して取り巻きが騎士るまもる的な展開が多かった。
A組の人達が教室に入ってくる。
エリスは今日も人気者だ。
彼女はこちらを見つけるなり魔獣のように目を血走らせて直進してくる。

「エリス様!近づくと危ないですわよ!」
「大丈夫!少しお姉様とお話があるの…。」

エリスは取り巻きの女子の静止を振り切って、澄んだ顔を作り僕の隣に座る。
幼いころからこの謎の圧が苦手だった。
手に汗がじんわり滲んでくる。
彼女は小声だがドスの効いた声で言う。

「あんた、今更何のつもり?」
「…さぁ。」

…なんとか飄々と?返事することに成功した。
エリスは舌打ちをして取り巻きのもとへと帰っていった。
何だか全員がこちらを見ている気がするが、またエリスが作り話をしたのだろう。
僕が動かないなら自分が動いて僕の罪を重くするつもりだな。
やはり母親譲りの妄言上手といったところか。

その日の学園生活は特記することなく終わり、寮に帰るとポストに手紙が入っていた。
家紋を見るとスーリアコフ公爵…リリアの婚約者がいる家だ。
今は留学しており過去一度しか会ったことがないが、結構横暴な人だった覚えがある。
明日の昼、14時と書いてあるが…授業を休めという嫌がらせの意味だろうか…。
それともこの人は留学先の常識をこちらの日常に当てはめてしまう天然残念系男子なのか…。
とりあえず届を出して行くしかない。
前の人生ではこんな出来事なかったからどう転ぶのか怖いけれど、この際、公爵家との繋がりも切っておいたほうが余生が楽になりそうだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...