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5.新しい妻(ユーリス視点)
___場所は打って変わりセントヘレナ領にて。
「父上…。」
ユーリス・セントヘレナは病床につく父を見舞う。
かつて剛健だった父は精神の病に侵され女遊びに明け狂った。
そしてそれらが祟り体も壊れ、今は愛妾と自室で籠る日々が続いていた。
「ユーリス、あぁ!俺を笑いに来たのか‼」
悲嘆するその目に息子の姿は写っていなった。
そう自分を慰めずにはいられなかった。
「ユーリス様、バルト様は心が安定していませんの…!」
この女性の名前を俺は知らない。
父上に蔓延る女性たちの顔は総じて似ていて名前を覚えていても見分けがつかない。
何も考えず、ただ報告をすればいい。
そうある一通の手紙を開いた。始め手紙の家紋を見たときには驚いた。
なにせ、あのエルレルト家からのものだったからだ。
公爵家との関わりなどなかった我が家に何用かと思えば、あるよくない噂の娘を一人、父上の婚約者として押し付けてきたのだった。
父上の状態も知らずにぬけぬけと。
「明日、父上の新しい妻が来ると連絡が来ました。」
父は何も言わなかった。
対して女は眉を少し顰めたのを見逃さなかった。
その表情からわかる。最後まで献身的に世話をするのには何か思惑があるに違いない。
「バルト様、少しでも元気になって新妻をお迎えしましょうね。」
そう言って父の額の汗を拭う。
父はおもむろにゆっくりと起き上がってドア傍にいる俺を手招きした。
「すまない、息子と2人きりにしてもらえるか…。」
「ですが…」
間違いなくこの女は自分の知らない話があるのを嫌がっている。
「言うことを聞かんか!」
「申し訳ございません…。」
父がこれ程までに激昂しているのを見るのは幼少期ぶりだ。
女は剣幕に負けそろそろと部屋を出た。
そして父は懐から何やら鍵のついたペンダントを取り出す。
「そこの…引き出しだ…。中に入っているものを読みなさい…。」
嫌な予感がする。
父が妙に昔の父な気がして、いや、発狂していないことは喜ばしいことなのに…。
震える手で引き出しを開けると二枚の紙が入っていた。
一枚目は俺の名前が書いた『継承証』。二枚目は…『婚約証』。
「父上!これは…。」
継承証を渡すということは…考えたくもない。
それに加えて、あの悪女との婚約…?うちで引き取らなくてもいい。放っておけば父の負担が一気になくなるではないか。
「明日来る女子はお前より1つ下の少女だ…。私はもう長くない。そんな早くから未亡人にさせるのはあまりにもむごい。」
思い出した。
父は優しい人だった。
幼くして母を亡くした俺を当時の激務と並行して愛情深く育ててくれた。
それは今も変わらないのだ、例えどんな悪女に対しても。
「それと彼女を実家に戻してやってくれ。最後まで看病してくれた恩人だ。」
最後、なんて言わないでほしい。
まだ生きて…稽古をつけてほしい。
「長い間苦しい思いをさせて…申し訳なかった。」
父は久しく俺の手を包む。
それは思っているよりも皺だらけの手で、これまでの苦境を語っている。
発狂してから俺は何もできなかった。
父は孤独に自分を責め続けていたに違いない。
「苦しい時もありました。理解できない時も。でも俺は父上を憎んだことはありません。」
「それでいい…ユーリス、立派な貴族たれ。そして新しい妻をよろしく頼む。」
そしてその夜、バルト・セントヘレナは静かに永い眠りについた。
「大丈夫なんですかね?」
紅茶を差し出しながら聞いてくるこの男は執事のテオ。
小さい頃、家から抜け出してこっそりと遊んでいた旧友だ。
「あまり、その人のことは考えられない。」
「だって皇太子直々に追放命令を下された人ですよ?しかも噂によると、皇太子妃になりたいが故に実の妹に嫌がらせをしていたそうじゃないですか!きっととんでもない悪女なんですよ。そんな人が来ちゃったらセントヘレナの一大事です…!」
分かっている。
どうせ噂通り卑劣で浪費家なのだろうが、嫁いできたからには好きにさせるわけにはいかない。
妻の管理は夫の役目…だが、昨日父を亡くした俺にはそんな化け物と戦う気力がない。
それにこの婚約だって父が遺したものだから全うする義務があるだけで、俺自身リリアとかいう悪女に興味のかけらもない。所謂「白い結婚」だ。
「父のことが落ち着くまでその女のことはお前たちに任せる。大変だとは思うが、俺の胸中も察してくれ…。」
「そうですよね…、先代が亡くなられて次の日に婚約なんて…。」
できればこういう時に支えてくれる淑女が来てくれればよかったのに。
「父上…。」
ユーリス・セントヘレナは病床につく父を見舞う。
かつて剛健だった父は精神の病に侵され女遊びに明け狂った。
そしてそれらが祟り体も壊れ、今は愛妾と自室で籠る日々が続いていた。
「ユーリス、あぁ!俺を笑いに来たのか‼」
悲嘆するその目に息子の姿は写っていなった。
そう自分を慰めずにはいられなかった。
「ユーリス様、バルト様は心が安定していませんの…!」
この女性の名前を俺は知らない。
父上に蔓延る女性たちの顔は総じて似ていて名前を覚えていても見分けがつかない。
何も考えず、ただ報告をすればいい。
そうある一通の手紙を開いた。始め手紙の家紋を見たときには驚いた。
なにせ、あのエルレルト家からのものだったからだ。
公爵家との関わりなどなかった我が家に何用かと思えば、あるよくない噂の娘を一人、父上の婚約者として押し付けてきたのだった。
父上の状態も知らずにぬけぬけと。
「明日、父上の新しい妻が来ると連絡が来ました。」
父は何も言わなかった。
対して女は眉を少し顰めたのを見逃さなかった。
その表情からわかる。最後まで献身的に世話をするのには何か思惑があるに違いない。
「バルト様、少しでも元気になって新妻をお迎えしましょうね。」
そう言って父の額の汗を拭う。
父はおもむろにゆっくりと起き上がってドア傍にいる俺を手招きした。
「すまない、息子と2人きりにしてもらえるか…。」
「ですが…」
間違いなくこの女は自分の知らない話があるのを嫌がっている。
「言うことを聞かんか!」
「申し訳ございません…。」
父がこれ程までに激昂しているのを見るのは幼少期ぶりだ。
女は剣幕に負けそろそろと部屋を出た。
そして父は懐から何やら鍵のついたペンダントを取り出す。
「そこの…引き出しだ…。中に入っているものを読みなさい…。」
嫌な予感がする。
父が妙に昔の父な気がして、いや、発狂していないことは喜ばしいことなのに…。
震える手で引き出しを開けると二枚の紙が入っていた。
一枚目は俺の名前が書いた『継承証』。二枚目は…『婚約証』。
「父上!これは…。」
継承証を渡すということは…考えたくもない。
それに加えて、あの悪女との婚約…?うちで引き取らなくてもいい。放っておけば父の負担が一気になくなるではないか。
「明日来る女子はお前より1つ下の少女だ…。私はもう長くない。そんな早くから未亡人にさせるのはあまりにもむごい。」
思い出した。
父は優しい人だった。
幼くして母を亡くした俺を当時の激務と並行して愛情深く育ててくれた。
それは今も変わらないのだ、例えどんな悪女に対しても。
「それと彼女を実家に戻してやってくれ。最後まで看病してくれた恩人だ。」
最後、なんて言わないでほしい。
まだ生きて…稽古をつけてほしい。
「長い間苦しい思いをさせて…申し訳なかった。」
父は久しく俺の手を包む。
それは思っているよりも皺だらけの手で、これまでの苦境を語っている。
発狂してから俺は何もできなかった。
父は孤独に自分を責め続けていたに違いない。
「苦しい時もありました。理解できない時も。でも俺は父上を憎んだことはありません。」
「それでいい…ユーリス、立派な貴族たれ。そして新しい妻をよろしく頼む。」
そしてその夜、バルト・セントヘレナは静かに永い眠りについた。
「大丈夫なんですかね?」
紅茶を差し出しながら聞いてくるこの男は執事のテオ。
小さい頃、家から抜け出してこっそりと遊んでいた旧友だ。
「あまり、その人のことは考えられない。」
「だって皇太子直々に追放命令を下された人ですよ?しかも噂によると、皇太子妃になりたいが故に実の妹に嫌がらせをしていたそうじゃないですか!きっととんでもない悪女なんですよ。そんな人が来ちゃったらセントヘレナの一大事です…!」
分かっている。
どうせ噂通り卑劣で浪費家なのだろうが、嫁いできたからには好きにさせるわけにはいかない。
妻の管理は夫の役目…だが、昨日父を亡くした俺にはそんな化け物と戦う気力がない。
それにこの婚約だって父が遺したものだから全うする義務があるだけで、俺自身リリアとかいう悪女に興味のかけらもない。所謂「白い結婚」だ。
「父のことが落ち着くまでその女のことはお前たちに任せる。大変だとは思うが、俺の胸中も察してくれ…。」
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できればこういう時に支えてくれる淑女が来てくれればよかったのに。
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