月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
85 / 125
第14章 夏を迎える前に

85 あくまで安全のため

しおりを挟む
 まずは公設市場でお買い物から。
 今週は砂糖30Cカルクフ、卵10個で30Cカルクフと牛乳4リットル40Cカルクフを購入。
 在庫の小麦クネタン粉がぎりぎりという気がするけれど、ういろうの代わりにパンプディングやゼリーで凌げば大丈夫だろう。

 出費を何とか100Cカルクフに抑えたので、残金は手持ちと口座あわせて2,300Cカルクフ
 これだけあれば、来週の奨学金こづかい700Cカルクフで、3,000Cカルクフ

 服と水着がそれぞれ1,200Cカルクフだとしても、600Cカルクフ余る。
 スイーツ材料に200Cカルクフ使ったとしても、400Cカルクフは余る計算だ。

 なら、買いたいものがある。
 今週中でないと買えない、あれだ。

 一応会計で預金をおろして、所持金を500Cカルクフにしておく。
 多分これで買えるはずだ。
 まだ物があったら、だけれども。

 南出口から公設市場を出て、道を渡り、先を南へ向かう道へ。
 目指すのはもう見えている白い建物、ヌローラ商業施設カルテノの2階だ。
 ここでは3月いっぱいの間、冬・春物最終セールが実施中。
 そして社会見学実習の後に見た時には、400Cカルクフで買える服があった。

 もうセールも終盤だから、もっと安くなっているかもしれない。
 もちろん品物がだいぶ減っている可能性もある。
 それでも『多少ダサくてもいいから、施設の生徒だとわからない服』は残っているだろう。

 そう、今回購入しようと思っているのはそういう服だ。
 多少危うい場所に行っても、移民だとわかりにくい服。
 手頃な服はあるだろうか。

 今日も2階は混んでいる。
 ならまだ掘り出し物があるかな。
 期待しつつ、セール会場の中へ。

 さて、前にもここに来たので、予習はある程度済んでいる。
 買いたいのは、出来れば夏でもそこそこ着ることが出来る、3シーズン用としては薄手の服。
 それも出来れば地味で、目立ちにくい服がいい。
 色やデザイン的には周囲で服を漁っている皆さんを参考にすればいいだろう。

 商品のほとんどはハンガーにかかった布地と、その布についている大きめの紙札という形で展示されている。
 紙札には値段、仕上がり時のデザイン画、対応サイズ、材質、メーカー等が記載されている。

 そう、こういった服は、すぐ着用出来る完成品ではない。
 買った本人に合わせて此処で縫製し直す半製品の形だ。
 完成品も少しはある。
 けれど、全体の十分の一もない。

 これは地球ほど人口が多くないからだろうか。
 それとも縫製が魔法で裾直し以上に簡単に素早くできるからだろうか。
 地球ほどの大規模な工場が無いから布が高価なのだろうか。

 理由は色々ある気がする。
 でも今は考察するべき時ではない。
 獲物を探して狩るべき時だ。
  
 さて、前回の予習で狩るべき場所はわかっている。
 数が少ない完成品コーナーだ。
 完成見本だの注文キャンセルだので完成してしまった服は、サイズや出来上がりの変更がしにくいので安い。
 つまりサイズさえ合えば、他よりずっとお買い得。

 そしてオーフでは、知識魔法が使える。
 つまり『私にあうサイズの出来合いの服、500Cカルクフ以下』
と意識すれば、何処にどんな服があるか、すぐに分かる。

 うん、合計4点確認。
 具体的には、
  ① 基準1と同じ形の、グレーの長袖膝丈Tシャツみたいな服(300Cカルクフ
  ② 上が淡青色の長袖のトレーナー風、下が紺色のイージーパンツ風のセットアップ(380Cカルクフ
  ③ 基準2や4と似た形の、下が肘丈・膝下丈の白色Tシャツ風、上着が基準4よりやや薄い地の淡青色半袖のセットアップ(400Cカルクフ
  ④ 淡青色で膝丈長袖、腰をベルトで少しだけ締めるゆるめのワンピースといったデザインの服(480Cカルクフ

 青色系統が多いのはなぜだろう。
 そう思ったところで、例によって知識魔法が起動した。

『今冬の流行色が淡青色でした』

 なるほど、なら問題ない。
 そしてこの中では、③がデザイン的にもこれから着るにも無難な気がする。
 ①は下着か夏専用という感じで、かといって夏用にするには長袖というのがひっかかる。あと形がいまいち。
 ②は明らかにこれからの季節は暑い。あとだぼっとしていて好きじゃ無い。
 ④のデザインは、私が見た限りでは少数派だから。あとこういうデザインって往々にしてふと目に見える。

 ということで③をハンガーごと確保し、レジの方へ。
 あ、でも何か致命的な問題があるということはないよな。
 知識魔法で念の為確認。

『マネキンに着せて展示する為に仕立てた服なので、一般的な体型より細く出来ています。ですので普通の大人用に仕立て直しが出来ない分、安くなっています。ですがチアキは年相応で身体が小さいので、着用に問題はありません。また服そのものには瑕疵はありません』

 なら問題ないということで、レジの列に並ぶ。
 5人ほど並んでいるけれど、会計兼受付は5箇所。
 なのでそれほど待たないうちに、右から2番目の会計台に案内された。
 
「はい、400Cカルクフです。お客様ですと丈の微調整ができますが、どうしますか?」

『調整は無料です。この服の本来のサイズよりチアキさんの方が身長が低めなので、ちょうどいいサイズにするには5cmほど丈を縮めることになります』

 確か私の身長、もう少し伸びるよな。
 地球時代、17歳時の身長は160.2cm。

『現在の身長は、152.2cmです』

「このままでいいです」

 そう言って、400Cカルクフを小銀貨4枚で支払う。

「わかりました」

 服についている札に型押しスタンプで『会計済』を押して、服を渡してくれた。
 受け取って魔法収納に入れ、店を出る。

 これで施設の服以外でも外出出来るようになった。
 しかもかなり安く買うことが出来た。

 もちろん盛夏は、これでは少し暑いだろう。
 水浴場開きの際に着る服は、別に購入するつもりだ。

 この服は皆と同じ服が好きじゃないとか、もう少しおしゃれしたいという意味で購入したのではない。
 外出時に移民とわかると危険な場合があるかもしれない。
 だから安全の為に買ったのだ。

 第二施設の皆は一斉試験の勉強をしているのだろうか。
 そう思うとそこはかとない背徳感を感じる。
 掲示板の、あのケイトの書き込み以上に空気を読まない行動をしている自覚もある。
 あと新しい服を購入して、若干浮かれ気味というのも。

 それでも安全の為だから必要なのだ。
 そう自分に言い訳しつつ、私は施設への帰路をたどる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

(改定版)婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?

水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」 ここは裁判所。 今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。 さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう? 私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。 本当に裁かれるべき人達? 試してお待ちください…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

処理中です...