月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第15章 4月の一斉試験

86 やっぱり油断ならない相手

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 3月28日第3曜日、13時過ぎ。
 私は数学Ⅱの最終確認試験2を、無事満点でクリアした。
 この日の午前中に、言語Ⅲ、魔法Ⅲも終わらせたので、今日で3科目終了させたことになる。

 なお昼食は魔法Ⅲ終了後の測定をやった後、ダッシュで食べた。
 だから本当ならここで、数学Ⅲの1単位時間コマ目をやって、特別科目の表計算を出したいところだ。
 しかし今日は、16時までに筋トレをする必要がある。

 ダンス等は現在、
 第1、第3、第5曜日は、17時から女子のダンスを
 第2、第4曜日の17時からは、男子のダンスや格闘技の学習を
室内運動場でやっている。

 そして今日は第3曜日。
 16時から17時は夕食の配給があるから、実質的に16時までしか室内運動場を使えない。

 今ならば夕食までの間に、運動のほか、もう2科目は進められる。
 けれどやるべきことは、先にやっておこう。
 ということで、私は基準3の服に着替えて、部屋を出る。
 
 正式公開後は女子の半分以上が、レベルは違うけれどダンスを取っているようだ。
 だから第2曜日や第4曜日は、筋トレをしている女子が多い。
 ただ混み合っている時間は夕食配給前の15時半ころ。
 この時間なら知り合いには会わないだろうなと思いつつ、室内運動場へ。
 
『本日も基本のストレッチからです。室内運動場のC区画にある台に、このタブレットを置いて下さい』

 中途半端な時間だからか、室内運動場は男女あわせて10人いるかいないか。
 しかもほとんどは器具を使う方にいる。

 マットが敷いてあるC区画は、私の他には男子1人だけ。
 その彼と離れた区画の端に陣取って、清掃魔法で私が使うマットを綺麗にして、収納からタブレットを出しておけば準備完了だ。

『それでは足を肩幅に開いてまっすぐ立って下さい。まずは腕を……』

 知識魔法と同様の方法で流れてくる指示にあわせ、準備運動を兼ねたストレッチを開始する。

 ◇◇◇ 

『……29、30。はい、終了です。お疲れ様でした』

 やっと終わった。
 思いきりこの場に伸びたいところだけれど、取りあえず回復魔法を起動。
 これだけで大分楽になる。

 さて、30分の間にそこそこ人が増えてきた。
 マットが並ぶC区画も、私の隣を含め、他に4人使っている。
 ならこのマットもさっさと明け渡して、部屋に戻るとしよう。

 そう思ってマットから出て、私の汗が落ちているマットに清掃魔法をかけたところで。

『あっ、ちょい待ってってば~!』

 伝達魔法で、そんな言葉が入ってきた。
 この癖強めなオーフ標準語、声でなくてもすぐわかる。
 ケイト、どこにいるのだろう。

『ちょ、となりとなり~! ケイトだし! この前ヒナリと一緒に水着チェックしたじゃん』

 見るとケイト、隣のマットでプランクの姿勢に耐えていた。
 でも何だろう。

『わかった。それじゃプランクが終わるまで待ってるから』

『あんがと。あと10秒……』

 伝達魔法でも、声をかけられるのは正直すごいと思う。
 少なくとも私なら、プランク30秒の途中で会話なんて考える余裕はない。
 もう身体のあちこちがぷるぷるして限界を訴えてきて、ちょっとでも気を抜いたらマットにばったりしそうだから。
 いやケイトも何気にぷるぷるしているような……
 
『……1、しゅうりょ~!』

 ばたっ、ケイトがマットに突っ伏した。
 こうやってみると、ケイトも私とそう変わらない位の体力に見える。
 ちょっとだけ共感したところで、また伝達魔法が入った。

『ねぇねぇ、ちょい聞きたいんだけどさ~。表計算って、も~出した?』

 相変わらずギャルっぽい感じの標準語で聞いてくる。
 そして話の内容、間近に迫った一斉到達度確認試験のことではなく、表計算のことらしい。
 あと1単位時間コマで出せるというところで、ちょうどその話になるとは。
 そう思いつつ、とりあえずは簡潔に返答する。

『まだ』

『実はさ~、今日『独自魔法作成Ⅲ』の課題出して終わらせたんよ。んで、その時に指導員にさ~、この後は新しい特別科目出るまで、数学やっといた方がイイよって言われて。数学進めたら出てきそうな特別科目って言ったら、やっぱ表計算じゃん。ちょうど数学ガチってそうなチアキちゃんいたから、聞いてみよ~ってなったワケ』

 ケイトは以前、ニナやヒナリと食堂にいた時、『独自魔法作成Ⅰ』でもやっとという話をしていたはずだ。
 やはり、思いきり猫を被っている。
 今のギャル語状態が地なのかは別として。

 ここで正直に言わない方がいいだろうか。
 しかしどうせ、ニナやヒナリ経由で情報は入るだろう。
 それに隠すというのは私の性に合わないし、ケイトからも何か情報が入る可能性もある。
 だからここは、正直に言っておこう。

『あと1時間。数学Ⅱまでは終わったから、この後数学Ⅲを1単位時間コマやれば出ると思う。何なら出たら掲示板に書いておこうか。『ケイトあて、出ました、チアキ』って感じで』

『サンキュ、マジ助かるわ。じゃあお礼でひとつ教えとく。『医療基礎Ⅰ』の履修条件なんだけど、去年と変わってなければ、言語Ⅲ、独自魔法作成Ⅰ、自然科学Ⅲの合計8単位時間の確認テストで、90点以上。将来ガチで医療魔法使い目指すか、ナルニーアレ連邦の開拓者Aとる気じゃなきゃ、ぶっちゃけ意味ない科目だけどさ。これ、他の人に話してもいーけど、出所はナイショでヨロ』

 いきなりとんでもない話が出てきた。
 予想外を通り越して、すぐには入手方法が思いつかない。

『それって、去年の施設の卒業生から聞いたの?』

 取り敢えず思いついた方法を確認してみる。

『方法はヒミツ。でも施設外活動なのはガチだよん。じゃ、もうちょい運動するわ』

 あ、その前に、ちょっと気になったことを聞いておこう。

『そういえばヒナリは一緒じゃ無いの?』

『ヒナリはガリ勉中。単位時間を稼がないとって、最近はだいたいそんな感じなんだよね』

 なるほど。

『わかった。ありがとう』

『書き込みヨロ』

 それにしても、施設外で情報を得るなんてことも出来るのか。
 私が思いつく方法は、施設の卒業生を探すくらいだ。

 でもその方法が思いつかない。
 卒業生そのものは、ポアノンの義務教育学校10年生を探せば、何人かはいるだろう。
 しかしそこから該当者を絞って接触するのは大変そうだ。
 それとも何か、別の方法があるのだろうか。

 あとやっぱりケイト、ただ者ではない気がする。
 カタリナといい、どうにも勝てそうな気がしない。
 別に蹴落とさなければならないわけじゃないとは、わかっている。
 それでも難易度最高のクラスを目指す身としては、自信喪失してしまうのだ。

 ◇◇◇

 ケイトのことは別としても、とりあえず『表計算』は出しておきたい。
 だから自室に戻ったら、気分転換に昨晩作ったういろうを食べ、そして『数学Ⅲ』の1単位時間コマ目を開始。

 終了後、予想通り通知が届き、『表計算』が履修可能になった。
 何気に履修終了で毎週200Cカルクフ入る、なかなかいい感じの科目の様だ。
 とりあえず約束だから、掲示板にちゃんと書いておく。

『ケイトヘ。やっぱり出た(記:チアキ)』
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