月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第7章 特別科目『ペルリア自然観察』

47 私の努力?

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 大きめの睡蓮が浮かぶ池とオーラン巨大シダの林の間に、赤煉瓦色のそこそこ大きな建物が建っている。
 今日の昼食場所『ヘーラニフト』だ。 

 中も赤煉瓦色の焼土の壁、同じ色だけれどもう少し艶のある床に、天井は明るい色の板張り。
 テーブルは明るい色の木製で、イスはクリーム色の革張り。
 人がいるテーブルは8割といったところで、窓際も3箇所ほど空いていた。

 なおカタリナやアキトなど、施設の皆さんの姿はない。
 一般的なお昼の時間に食べたのだろうか。
 それとも私達と別の時間に来るつもりなのだろうか。

 さて、知識魔法で事前に確認したところ、此処は先払いしてからテーブルにつく方式の様だ。
 なのでカウンターのレジがある場所に行って、申告する。

「昼食バイキングで2名です。チケットで支払います」

「はい、空いているテーブルへどうぞ」

 チケットを渡した後、窓際のテーブルを選んで空席札を倒してから、料理が並んでいる場所へ。
 肉料理からデザートまで結構な点数並んでいる。
 
 私は食事がスイーツだけでも大丈夫なタイプだ。
 でもここまであれこれ揃っているなら、美味しそうなものや、まだ食べた事がない料理は取ってみるのが正しいだろう。

 それにデザートが並ぶテーブルは混んでいるけれど、メインのおかずや主食系を取っている人はあまりいない。
 きっと時間的にメインを食べ終えて、デザートの時間に突入しているのだろう。
 なら私は今回はメインで、デザートは空いてから取る事にしよう。 

 ということで、お盆とお皿を取った後、
 ● エルアラフすね肉煮込み
 ● チキンフライ
 ● フィッシュフライ
 ● オムレツ
 ● 野菜サラダ
 ● 薄切り肉と緑の葉っぱが入ったスパゲティ
をキープする。
 
 これだけ取るとお盆は目一杯だし、私の腕力では片手で持つのが厳しい。
 なので一度テーブルに戻ってお盆を置く。
 今度はドリンク。乳酸菌飲料っぽく見える白い冷たい飲み物をグラスに注いで、第一弾終了。

 テーブルが割と目一杯なので、別腹分デザートは後で取ることにする。
 なおニナはまだ取っているようだ。
 なので戻ってくるまで、取ってきた料理を再確認。

 すね肉煮込みは、今日出ている中で一番肉が美味しそうだったから。

『本来はグノトム酒と岩塩で長時間煮込む、ペルリアの伝統料理です。ですが最近は更に糖蜜を入れるのが一般的になっていて、この煮込みも糖蜜入りの甘い味付けとなっています』

 色は薄いけれど、豚角煮みたいなものだろうか。

 フィッシュフライとチキンは、フィッシュ&チップスとかチキン&チップスの片割れ。
 昨日休憩所で見たのが美味しそうだったので、つい取ってしまった。
 この2つには他の人が濃い茶色で酸っぱい匂いがするドレッシング? をかけていたので、私も少しだけかけてある。

 チップスというか芋フライもあった。
 しかし芋は施設の食堂でも結構出てくる。ここでわざわざ食べる必要は無い。

 オムレツは具を卵焼きで包むタイプでは無く、卵液に具を入れて焼き固めたもの。
 具はサイコロ状にカットされた野菜や肉等。
 薄茶色のソースがかかっている。

 サラダの具材は緑の葉っぱ、ホワイトアスパラみたいなの、大根っぽいのを薄切りにしたもの、豆っぽいの。
 これらの上にさいの目切りの豆腐っぽいのが載っていて、更にその上からクリーム色のソースをかけて、茶色いカリカリっぽいのを載せた。
 前に取った人がこんな感じだったので、真似してみたのだ。

『葉はクネタンの若葉で、アスパラみたいなものはテクヒの新芽。大根に見えるのはヘイコというシダの芯を煮てやわらかくしたもので、豆はカハフイ。他にポリポタの若芽も入っています。
 さいの目の豆腐というのはエルアラフの脂肪で作った模造チーズです。茶色いカリカリは煎ったカハフイを砕いて揚げたものとなります』

 知識魔法があると材料がわかって大変便利だ。
 なおカハフイという豆はいわゆる地球の豆類ではなく、ソテツっぽい樹木の樹冠部に出来るものらしい。
 テクヒやポリポタはさっき見本植物園にあった。こんな感じに料理にして食べる様だ。

 他にもピザとかローストビーフ風の肉とか、取ってみたかった。
 でもデザートの分を考えると、私の限界はこんなものだ。

 ここまで確認したところで、ニナが戻ってきた。
 ただ見てみて、大丈夫かと思ってしまう。
 おかず類をとにかく全種類、きっちり取ってきたという感じだ。
 ひとつひとつは最小限だし、綺麗に並べてはいるのだけれど、全体としての量は私の倍近い。

「此処は豊かな国なのですね。あれこれ目移りして、つい取れるだけ取ってしまいました」

 ここで全部を食べられるかどうか聞くのは意味が無いだろう。
 取ってきたなら全部食べる。それがバイキングの鉄則だ。

「それじゃいただきましょうか」

「ええ」

 今回は角煮もどきからいただこう。
 口の中に入れてすぐ感じるのは甘さとほどよい塩加減、そして遠くに軽い苦み。
 肉は軟らかく、口の中で繊維になってほどける感じ。
 
 これはスパゲティやパンより、ご飯で食べる方が正しい気がする。
 此処のバイキングには米や米料理は無かったけれど、これは惑星オーフに無いという事なのだろうか。

『イネ科の植物にあたる存在は、惑星オーフにはありません。ですが米に似た味の食材として、アローカという樹木の種子が使われています。やや粒が米より大きいですが、短粒種の米と同じように使用出来て、白米にもパエリアにもなります。
 ただしアローカは比較的寒冷な地方に適した植物で、ペルリアではほとんど栽培されていません。主に北のリベルア共和国や南のヒラリア共和国、ヒラリアより更に南のフルリア国、ナルニーアレ連邦等で栽培され、食べられています』

 知識魔法で出てきたアローカの実とは、松ぼっくりみたいな形。
 この松ぼっくりのカサの隙間に、米のような形の種子が入っている様だ。
 やっぱり食用として使う植物が、地球とは大分異なる様だ。
 小麦もこの世界では蔓性の樹木にブドウの様になる実で代用している様だし。

 ◇◇◇

 デザートで、
  ● テッテレルパイ
  ● パンケーキクレフポ
  ● プリン
  ● チーズケーキ
  ● シュークリーム
  ● アイスクリーム(テッテレルジャム入り)
まできっちり食べると、動くのが辛くなる。

 動くのが辛いだけではない。
 実のところリバースしそうな状態だ。

 食べ過ぎだとはわかっている。
 しかしこれだけメニューが揃っている機会など滅多に無い。
 だから最善を尽くすのは当然だ。

 ニナも限界近そうな感じ。
 私の倍量の料理を食べて、私と同じ位デザートを食べたのだから仕方ない。

「ここで少し休んでから出ましょうか。席が足りなくなることは無さそうですから」

「そうする。ちょっと休まないと動けない気がするから」

 ニナの言葉に私も完全に同意だ。 
 重くて喉元まで何か詰まっている感じの身体をだましだまし動かして、冷たい紅茶を取ってきた。
 これをちびりちびり飲みながら、食べたものが消化されるのを待とう。
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