月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第7章 特別科目『ペルリア自然観察』

48 よろしくない魔法

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 悪いというか、倫理観的にも見た目にもよろしくない独自魔法を作成してしまった。
 名付けて『食べ過ぎ時の緊急措置魔法』。
 大雑把に言えば胃や腸の中身を魔法収納に移動させるという魔法だ。

 そんな中身なんて見たいとは思えないし、食べた食料を無駄にする行為でもある。
 大食いしてトイレで吐くというのと同じだ。

 それはわかっているのだけれど、今回は本当に食べ過ぎて苦しかった。
 しかも施設に16時までに戻らなければならない。
 だから今回は許して欲しい。過ちは繰り返さないから。

 私以上に厳しそうなニナに小声で魔法を教えて、同意を得る。
 物を収納する魔法は『ヘーラニフト』では使えない様なので、店を出てから魔法を起動。

 誰に謝っているのかわからないけれど、とにかく頭の中でごめんなさいと唱えつつ、動ける状態まで胃や腸を整理する。
 近くのトイレに入って危険な収納物を出して流せば事態収拾だ。

「次があればもっと分量を考えることにします」

「私も。ちょっと欲張りすぎた」

 でもバイキングなんてこんな物という気がしないでもない。
 我ながら反省してないなとも思うけれど。

「それでは私は、見本植物園を回ってきます。チアキはどうしますか」

「私は本園の方をざっと回ってくる。まだほとんど見ていないから」

 ニナと別れ、私は自然公園の本園散策路へ。
 余裕を見て15時に此処を出るとすると、残り時間は1時間ちょっと。
 だからじっくり見るのではなく、散策路をさっと歩いてどんな場所なのかを確認するだけのつもりだ。

 この自然公園には公式お勧めの散策コースが幾つかある。
 そのうちの1つ『谷戸と台地を巡るコース』が2kmとちょうどいい距離だ。
 お勧め散策コースは看板が出ているので、それさえ見て歩けば迷うこともない。
 知識魔法があるから迷っても困らないとは思うけれど。

 という事で『ヘーラニフト』前から西側へ進む。
 ここは基本的に池や川沿いで、日当たりがよく風通しもいい場所。
 基本的には樹木系シダのペルナの林で、下草はゼンマイっぽいポリポタ。

 ただ林の切れ目で日当たりがいい場所は、ポリポタではなくテクヒが主体。
 これは日陰に強い弱いとかがあるのだろう。 
 基本的にはさっきの見本植物園と同じだ。
 見本植物園の方がこういった植生を真似しているのだけれど。
 
 100m程度歩いたところで林が切れて、小さな川を渡る橋があった。
 そのすぐ先に右への分岐。『谷戸と台地を巡るコース』は、此処を曲がるようだ。
 
 橋を渡り右折し、ポリポタとはまた違う、1枚ずつの葉が大きいシダが生えた川沿いを歩いて行く。
 道は50m位でペルナの林から谷間っぽい場所へ入った。
 この谷間の斜面に生えているのはシダではなく、クロウラという背の低い樹木。
 葉の形が私の知っている一般的な植物に近い感じだ。
 
 そして歩道が舗装道路ではなく木道となった。
 下は泥っぽい湿地帯となり、蕗の様な柄がある睡蓮という感じの植物が、葉が重なるか重ならないか位の間隔で生えている。

『ニネホと呼ばれる植物で、地球的に分類すれば被子植物です。カハンハに近い種で、時々水を完全にかぶる湿地に多く見られます。水中にある地下茎で増えます』

 更にその先へ進むと小さな池。水面は睡蓮っぽい水草で覆われている。
 そして池の縁に、説明の看板が出ていた。

『こういった台地と谷との段差部分からは、往々にして水が湧き出しています。水が湧き時に冠水する谷間では、冠水に強く湿気た場所に対応するカハンハやニネホが多く見られます』

 湿気た暗い場所なんてまさにシダ植物が多そうに感じる。
 しかしペルリアでは違う様だ。
 
 そこからは階段で、一気に上の台地へ。
 ここも林だが、樹種が違う。
 基本的には杉や檜っぽい樹木で、所々にソテツっぽいのや樹木系のシダが生えているという状態だ。
 
『アラエイの森:アラエイはアルカイカやアローカと近い、種子や倒木更新で増える樹木。樹高は最大で60m程度。水を得にくい乾いた台地でも育ちやすい。しかし森が形成され地表付近が湿度を保てるようになると、次第にペルナが増え始め、アラエイは減少する。
 ただしアラエイは燃えやすく、森林火災を起こしやすい。森林火災が起きると樹木が減り、土地が乾きやすくなり、ペルナはほぼ全滅する。
 天然林でアラエイが主となっている場所は、200年以内に森林火災が起きた結果である事が多い』

 森林火災を起こしやすいとは、なかなか物騒な樹木だ。
 でも200年以内なんて書いてあるといういう事は、そこまでしょっちゅう森林火災が起きている訳でもないのか。

『アラエイは材木や紙としても有用なので、ほぼ全土で植林されています。そういったアラエイの森林は、防火水路や防火樹林帯を設ける等して対策しています』

 杉みたいな存在なのだろうか。なら花粉とかの問題は大丈夫だろうか。
 あと下草の種類がよく見ると結構豊富だ。
 シダ類もいかにもシダっぽいものの他、葉が大きい物、一見普通の草とか灌木っぽいものもある。

 惑星オーフではシダ類、多種多様に分化している様だ。
 というか地球でも多種多様に繁栄していたけれど、時代とともに被子植物に追われた結果、少ない種類しか残っていなかったのかもしれない。

 なんて事を考えながら、再び赤い舗装に戻った歩道を歩いて行く。
 季節的には冬だけれど、ペルリアは温暖だから日本の4月くらいの気温。
 だから歩くのにはちょうどいい。
 そして植物の種類こそ違うけれど、緑の中での森林浴状態。

 なので所々にある解説の看板を読みつつ、快調にお散歩していく。
 台地の外れまで来て木製の階段で下りると、あとは入口前広場までまっすぐだ。
 広場に入って時計を見ると14時30分。30分程歩いていた計算になる。

 今の調子なら走って帰れるから、時間的な余裕は充分ある。
 なら此処の売店で何を売っているのか、実際に見て確認してみよう。
 そう思って出入口横にある売店へ入ってみたら、知っている顔がいた。
 アキトと、あとテニフだったかな、今回初参加の欧米系男子だ。

「昼食を食べそびれたんですか?」

 2人がいたのは軽食販売コーナーだ。
 この売店はコンビニ程度の広さがあって、日用品的なものや記念品等は別コーナー。
 2人がいる場所にあるのは、サンドイッチとかおかずパンとかドリンク等しか無い。

「朝昼はバイキング1回で済ませて、もう一枚のチケットで持ち帰れる食事を買うことにしました。ですので何にしようか、選んでいるところです」

 アキトがそう返答。

「2人ともですか?」

「はい。僕とテニフがバイキング1回で弁当持ち帰り、ハトヒとホアンがバイキングを最初に1回、帰り間際に1回という作戦です。
 それぞれ別行動ですが計画が似ているので、レストランで会いましたし、此処でもテニフと一緒になりました」

 と、いうことはだ。

「男子は計画を話し合ったんだ」

「カタリナやチアキが出た後、残った皆で少しだけ情報交換しました。今日これからの予定の他、帰りに教室へ向かう際に隠蔽魔法を使う等の注意です」

 確かに帰るときの注意は必要だ。

「隠蔽魔法を使う事を知っていれば安心だね」

「ええ。実はこれは僕のミスをカバーする為です。昨日掲示板で、今日外出する特別実習がある事を書いてしまいました。ですので問題ある生徒が門を見張っているかもしれません。その為の注意です。
 今朝偵察魔法で教室を監視したり、隠蔽魔法で教室に隠れていたりする生徒が出てしまったのも、僕が書き込んだせいかもしれません。そこは反省しています」

 なるほど。確かにそういう可能性もある訳か。

「それでも事情を知らない生徒が、偽の情報交換に巻き込まれるのを防ぐ為には、仕方なかったんじゃない」

 エトは自尊心の為に考えなしで行動し、その結果特にニナが大被害を受けた。
 アキトは被害に遭う生徒を出さない為の書き込みで、かつ今回から参加の生徒に隠蔽魔法を使う事を教えて被害防止を図った。
 その辺りが大分違うと思うのだ。
 
「そう言ってくれるとありがたいです。では指示終了後の情報交換の話に戻ります。
 エトは朝食、昼食ともカヘイで取ると言っていました。
 あと女子はニナ、ヒナリ、フインが公設市場まで一緒に行った後、別れると言っていました」

 なるほど。なら私ももう少しゆっくり出た方が良かったかもしれない。
 次回があればそうしよう。

 あとエトは、バイキングよりカヘイを選んだのか。
 私としては色々食べられる方が絶対いいと思うのだけれど。
 もう一つ疑問に思った事があるので聞いてみる。

「朝食が11時では、お腹が空かなかった?」
 
「今まで蓄えた食事を食べました。三食だけではお腹が空く時があるので、施設の食事を常に大盛りで頼んで、料理の一部を収納に入れて保存しています」

「僕もそうしました。今日一緒だったホアンやハトヒもパンを持っていたので、割と皆備蓄をしているようです」

 アキトだけでなくテニフも、あと他の男子2人も食事の一部をストックしていた訳か。
 私もそうしようかと考えた事がある。
 今やっていないのは、デザートを作るようになった以外にも理由がある。

「食事保存用のお皿か保存容器を買ったの?」

「保存だけなら容器がなくても出来ます。出すときは皿があった方がいいですけれど、パン等はそのまま出しても大丈夫です。汁物も深めの容器がひとつあれば、順番に少しずつ出せば大丈夫です」

 そうか。水だって収納できるのだ。
 それに先程は吐瀉物に近い物を胃袋から移動させたりもした。
 だから出す際に皿があれば問題ない。

「確かにそうだね。私も今度からそうしてみる」

 私はデザートがあるから、お腹が空いた時でも食べ物がないという事はない。
 それでも食事のストックがあれば、行動の幅は広がる可能性がある。

 取りあえず今日の夕食は大盛りで頼むことにしよう。
 そう私は心に決めたのだった。
 
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