月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第一部おまけ 女子会

60 昼食にいい場所

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 昼食を食べる場所は、自然公園本園の、前回私が回っていない高台の西北端部分。
 前回私が通った『谷戸と台地を巡るコース』よりさらに西側まで行った後、崖に付いた階段を上った先にある広場だ。
 ここがいいと提案して案内してくれたのは、カタリナだ。

「こんなところまで回ったんだ」

 南側と西側が開けていて、ポアノンの街がよく見える。
 ベンチとテーブルのほか、四阿のような場所もあり、お皿を出してご飯を食べるのにちょうどいい。
 しかも人が少なく、テーブルのほとんどが空いていた。
 多少賑やかにしても全く問題なさそうだ。

 人が少ないのは、公式のおすすめ散策コースから外れているからだろう。
 でもそれなら、カタリナはどうしてここを知っているのだろうと思ってしまう。

「せっかく来たのですから、ほぼ全部を回ろうと思いました。ですから、できるだけ外周に近い散策路を選んで回った結果、ここを知りました。
 ただし、自然公園の台地中央部分は回りきれなかったので、25日に来た時に、他の見ていない部分と合わせて回り直しました」

 せっかちで、かつ几帳面な性格ということだろうか。
 だから、余計に人とつるむのは苦手なのかもしれない。
 でも、この性格だからこそ、学習をどんどん進めているのだろう。
 それに、他人に自分のペースを強要しなければ、問題は全くない。

「ご飯を食べるのは、どこにしましょうか」

「一番先の、あそこにしませんか。ポアノンの街が一番よく見える場所がいいですから」

「そうですね」

 ニナ、フイン、ヒナリの意見で、西側の一番端のテーブルへ。

「汚れていない気がしますが、一応綺麗にしておきましょう。清掃」

 ニナがまた知らない魔法を使っている。

「便利そうな魔法だね」

「部屋の拭き掃除に使える魔法がないだろうか。そう思って調べたら、見つかりました。使用時に設定しなければならない項目が多いですが、慣れると便利な魔法です」

『清掃魔法は、指定した範囲を掃除する魔法です。掃除する範囲や掃除方法を指定することで発動します。掃除する範囲は平面あるいは平面に近い面である必要があります。また、掃除方法は乾拭き、濡らした雑巾で拭く、箒で掃くなど、術者がイメージ可能な方法で指定可能です。今思い浮かべた『掃除機の使用』も、使用者であるチアキなら可能です』

 なるほど、今度使ってみよう。
 さて、テーブルは毎度おなじみの煉瓦色の石製で、表面がつやつやしている。
 今、ニナが魔法で掃除したので、砂埃一つない状態だ。

 8人でも使える広さで、5人なら余裕がある。
 それまで歩いてきた状態のまま座ったので、こちら側がカタリナと私、反対側がニナ、ヒナリ、フインという形で着席した。

「それでは全員、一気に出してしまいましょうか」

「そうですね。どんなものを持ってきたのか、見てみたいです」

 確かにニナやヒナリの言う通り、一気に出した方が気が楽だ。
 いちいち出して品評するよりはずっと良い。
 ただ、私のは皿がないと出せない。
 なので、一言言っておこう。

「私のは取り皿がないと出せないタイプ。あと、甘い物だから、他のおかずと一緒になると食べにくいかもしれない」

「前にいただいたものですか?」

 前にニナと食べたのは、パンプディングだったなと思い出す。

「今回はプリン。作る器がこれしかなかったから、取り皿の上でないと出しにくい。プリンそのものはこんな感じで。あと、これが別掛け用の甘いカラメル。プリン本体にはもう少し苦めのカラメルがかかっているから、お好みで」

 見本として逆さにしてお皿に入れ直したプリンと、小鉢に入ったカラメルを出しておく。

「これを5人で分けるのですか?」

 確かに売っている値段を考えると、フインの質問ももっともだ。
 でも、もちろん今回は違う。

「これが1人分。ただ、作った後は容器なしで収納しているから、お皿か何かがないと出しにくいだけ」

「実は私も、取り皿がないと出しにくい料理を作って持ってきてしまいました。なので申し訳ありませんが、プリンは後で出してもらってもいいでしょうか」

 フインがそんなことを言った。
 作ってきたとは何だろう。
 ちょっと期待してしまう。

「もちろん。デザートだから後で出せばいいと思うし。それで、何を作ってきたのか、見ていい?」

「もちろんです。これで5人分です」

 夕食でよく使われる大きめの深皿に、骨付きの揚げ肉がどんと5つ乗っている。
 茶色い揚がり具合がいかにも美味しそう。
 肉一つ一つも私の握りこぶし大と大きい。

「これって、作るのも大変だし、お金もかかったんじゃない?」

「ちょうどいいエルアラフの骨付き肉があったので、つい買ってしまいました。10個で100Cカルクフだったので、5個なら50Cカルクフです。ここで手に入る調味料を使ったので、私の地元の味と少し変わってしまいましたが。
 ここの朝食や昼食は少し大人しめなので、小遣いが貯まるようになって以降、材料を買って時々作って食べています」

 フイン、文字通りの意味での肉食系女子だったのか。
 でも、確かにこれは美味しそう。
 サンドイッチよりご飯や麺に合いそうではあるけれど。
 というか、これ、ひょっとして……

「ひょっとして、排肉パイコー? 発音が正しいかは自信ないけれど」

「そうです。私の方ではパイグゥと呼んでいます。おかゆや麺のおかずで食べたりします」

「美味しそうだね」

「ええ。サンドイッチとスープでは、何か物足りない気がします」

 やはり肉食系女子だった様だ。
 一気に昼食がパンチ力に満ちあふれたものになったけれど、これはこれで美味しそうでいい。
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