203 / 322
拾遺録1 カイル君の冒険者な日々
俺達の決意⑸ 午後の作戦
しおりを挟む
レズンが調理を始めてすぐにヒューマ達が戻ってきた。
この時間なら迷宮に入ってそれほど奥まで行かずに戻って来たのだろう。
つまりはまあ、予定通りだ。
サリアは特に何も言わなかった。
つまりそう特異な事は無かった筈。
しかしシグル氏にとってはそうでは無かった模様だ。
「確かに迷宮が出来ている事を確認した。それもかなり大きく奥深いようだ。至急冒険者ギルド本部や国、領主家に報告する必要がある。
そこでしばらくの間、この迷宮の警備及び管理を依頼したい。期間は管理体制が決まり、騎士団の警備部隊が派遣され警備を開始するまでの間。形態は優先一般依頼で、依頼等級については当面はC10+のつもりだ」
優先一般依頼とは、優先的に受ける事が出来るパーティを指定する依頼だ。
ただし指名依頼ではなくあくまで一般依頼。
褒賞金の上乗せは無い。
依頼等級C10+とは人員的にC級冒険者10人相当が必要で、かつ通常より難易度が高いという意味。
こういった言葉は冒険者ギルド運営規定に載っているし、読んだ覚えもある。
しかしC10+の依頼が1日当たり幾らかまでは俺は憶えていない。
この辺含めた交渉事は基本的にヒューマに任せっぱなしだから。
「わかりました。契約の詳細については冒険者ギルドで話しましょう。レウス、悪いけれどグラニーの操縦を頼みます」
「わかった」
サリアの次にゴーレムの操縦に慣れているのはレウスだ。
そして契約に渉外担当のヒューマが行くのは当然。
「悪いな、連続で。何なら天幕を出して置いて行ってくれ。設営しておくからさ」
「ありがとう。それではお願いします」
俺はヒューマとレウスからそれぞれの天幕を受け取る。
レズンが料理を中断してゴーレム車から出て来た。
サリアがゴーレム馬のグラニーを出して、ゴーレム車と接続する。
◇◇◇
ヒューマとレウスの天幕を張った後。
ゴーレム車が無いのでリビング代わりの天幕内に低いテーブルを出し、レズンの作ったミートソースパスタとサラダで昼食。
「まだヒューマ達はかかりそうか?」
「2人は冒険者ギルドを出て店で昼食を食べています。レウスのメモによると、『ギルドマスターが領主のアデライデ伯に状況説明中。これが終わるまで依頼を正規に発出出来ない。あと2時間はかかる見込み』だそうです」
レウスは別行動している時、状況を割とこまめにメモしてポケットに入れる。
それをサリアが読み取って、レウスの現状を把握する訳だ。
偵察魔法では音が聞こえない。
だから状況が今ひとつわからない時がある。
その為にこのメモは必要です、そうサリアは言っている。
実際何かと便利なので俺達も何も言わない。
本当はサリアがレウスに対して過保護気味で、常に状況把握しないと心配だからだ。
そうレウス以外は思っているけれど。
「大変なんだな。それで参考までに2人が食べているのは何なんだな?」
「ソーセージとチーズ入りマッシュポテトです。味はまだメモに書かれていないのでわかりません」
「帰ってきたらどんな味だったか聞いてみるんだな」
「多分このミートソースパスタの方が美味しいと思うぜ」
これは俺の本音だ。
レズンの料理は美味しい。
街で食堂に入って食べた時、8割以上の店で『これならレズンに作って貰った方が旨いよな』と思う位には。
『リディナ先生にレシピを一通り習ったんだな』
レズン以前そう言っていた。
実際あの勉強会以外では見たことがないような料理も時々作ったりする。
普通の料理を作っても何処か一味違って美味しい。
今回のミートソースパスタだってそうだ。
ミートソースパスタそのものは割とどこの街の店にもあるメジャーなメニュー。
しかしそれらと比べてもずっと美味しいと俺は思う。
もっちりしてソースに絡みやすいやや平らな麺。
濃厚な肉の旨味とトマトやタマネギの甘さ、程よい酸味。
具に入っている揚げナス。
そのまま食べてもいいし、粉チーズをたっぷりかけるのもまた良し。
レズン特製の赤い辛いソースを入れるのもありだ。
そんなミートソースパスタを食べながら作戦会議。
「午後からはどうする?」
「ゴーレム2体を出して、出来るだけ迷宮の奥まで確認したいです」
「2体出すのは何故だ?」
いつもは偵察に出すゴーレムは1体だけだ。
「今回の迷宮は長いので、ゴーレムを入口付近に置いても奥まで偵察魔法が届きません。ある程度奥までゴーレムを進めて、より奥へ偵察魔法を届かせる必要があります。
ですので
① 奥へ進むゴーレムと、
② 入口付近に置いて奥へ進むゴーレムを偵察魔法で監視するゴーレム
があった方が安心です。そうすれば万が一奥へ進んだゴーレムが倒されてしまった場合でも、その状況を詳しく確認してとるべき行動を判断する事が出来ます」
なるほど、サリアの説明で俺は理由を理解した。
偵察魔法もゴーレムも使えないからわからなかったのだ。
ならサリアが言った作戦は正しいだろう。
この迷宮についてはまだ分かっている事が少ない。
用心してかかった方がいい。
かつて俺達はサレルモの街で、出来たばかりの迷宮内に直接乗り込んだ。
しかしあの迷宮はサリアやヒューマの偵察魔法で全体を把握できる大きさだった。
内部の魔物の数も大きさも把握出来た。
それほど魔物が強くない事もわかっていた。
魔法が効かない魔物がいたのは誤算だったけれども。
今回の迷宮はサリアでも全容が確認出来ない大きさだ。
しかもサリアは奥にトロルがいると言っていた。
トロルは高レベルの魔物だ。
魔法なしでは1頭倒すのにB級冒険者が5人は必要だとされている。
火属性か空属性の魔法を使えればそこまで怖くは無いけれど。
なら更に奥にはもっと強力な魔物がいてもおかしくない。
用心したほうがいいのは確かだ。
「それが無難だよな」
それでも俺がこう言ってしまったのは、やっぱり自分自身で入りたいという気持ちが強かったせいだと思う。
「了解」
「そうなんだな」
アギラとレズンもサリアの作戦に賛成のようだ。
「それでは食べ終わったら、マグナスとロディマスを迷宮に向かわせます。出来るだけ注意して、迷宮内でも派手な魔法は出来るだけ使わないようにして。
中にどんな魔物がいるかわかりませんから」
この時間なら迷宮に入ってそれほど奥まで行かずに戻って来たのだろう。
つまりはまあ、予定通りだ。
サリアは特に何も言わなかった。
つまりそう特異な事は無かった筈。
しかしシグル氏にとってはそうでは無かった模様だ。
「確かに迷宮が出来ている事を確認した。それもかなり大きく奥深いようだ。至急冒険者ギルド本部や国、領主家に報告する必要がある。
そこでしばらくの間、この迷宮の警備及び管理を依頼したい。期間は管理体制が決まり、騎士団の警備部隊が派遣され警備を開始するまでの間。形態は優先一般依頼で、依頼等級については当面はC10+のつもりだ」
優先一般依頼とは、優先的に受ける事が出来るパーティを指定する依頼だ。
ただし指名依頼ではなくあくまで一般依頼。
褒賞金の上乗せは無い。
依頼等級C10+とは人員的にC級冒険者10人相当が必要で、かつ通常より難易度が高いという意味。
こういった言葉は冒険者ギルド運営規定に載っているし、読んだ覚えもある。
しかしC10+の依頼が1日当たり幾らかまでは俺は憶えていない。
この辺含めた交渉事は基本的にヒューマに任せっぱなしだから。
「わかりました。契約の詳細については冒険者ギルドで話しましょう。レウス、悪いけれどグラニーの操縦を頼みます」
「わかった」
サリアの次にゴーレムの操縦に慣れているのはレウスだ。
そして契約に渉外担当のヒューマが行くのは当然。
「悪いな、連続で。何なら天幕を出して置いて行ってくれ。設営しておくからさ」
「ありがとう。それではお願いします」
俺はヒューマとレウスからそれぞれの天幕を受け取る。
レズンが料理を中断してゴーレム車から出て来た。
サリアがゴーレム馬のグラニーを出して、ゴーレム車と接続する。
◇◇◇
ヒューマとレウスの天幕を張った後。
ゴーレム車が無いのでリビング代わりの天幕内に低いテーブルを出し、レズンの作ったミートソースパスタとサラダで昼食。
「まだヒューマ達はかかりそうか?」
「2人は冒険者ギルドを出て店で昼食を食べています。レウスのメモによると、『ギルドマスターが領主のアデライデ伯に状況説明中。これが終わるまで依頼を正規に発出出来ない。あと2時間はかかる見込み』だそうです」
レウスは別行動している時、状況を割とこまめにメモしてポケットに入れる。
それをサリアが読み取って、レウスの現状を把握する訳だ。
偵察魔法では音が聞こえない。
だから状況が今ひとつわからない時がある。
その為にこのメモは必要です、そうサリアは言っている。
実際何かと便利なので俺達も何も言わない。
本当はサリアがレウスに対して過保護気味で、常に状況把握しないと心配だからだ。
そうレウス以外は思っているけれど。
「大変なんだな。それで参考までに2人が食べているのは何なんだな?」
「ソーセージとチーズ入りマッシュポテトです。味はまだメモに書かれていないのでわかりません」
「帰ってきたらどんな味だったか聞いてみるんだな」
「多分このミートソースパスタの方が美味しいと思うぜ」
これは俺の本音だ。
レズンの料理は美味しい。
街で食堂に入って食べた時、8割以上の店で『これならレズンに作って貰った方が旨いよな』と思う位には。
『リディナ先生にレシピを一通り習ったんだな』
レズン以前そう言っていた。
実際あの勉強会以外では見たことがないような料理も時々作ったりする。
普通の料理を作っても何処か一味違って美味しい。
今回のミートソースパスタだってそうだ。
ミートソースパスタそのものは割とどこの街の店にもあるメジャーなメニュー。
しかしそれらと比べてもずっと美味しいと俺は思う。
もっちりしてソースに絡みやすいやや平らな麺。
濃厚な肉の旨味とトマトやタマネギの甘さ、程よい酸味。
具に入っている揚げナス。
そのまま食べてもいいし、粉チーズをたっぷりかけるのもまた良し。
レズン特製の赤い辛いソースを入れるのもありだ。
そんなミートソースパスタを食べながら作戦会議。
「午後からはどうする?」
「ゴーレム2体を出して、出来るだけ迷宮の奥まで確認したいです」
「2体出すのは何故だ?」
いつもは偵察に出すゴーレムは1体だけだ。
「今回の迷宮は長いので、ゴーレムを入口付近に置いても奥まで偵察魔法が届きません。ある程度奥までゴーレムを進めて、より奥へ偵察魔法を届かせる必要があります。
ですので
① 奥へ進むゴーレムと、
② 入口付近に置いて奥へ進むゴーレムを偵察魔法で監視するゴーレム
があった方が安心です。そうすれば万が一奥へ進んだゴーレムが倒されてしまった場合でも、その状況を詳しく確認してとるべき行動を判断する事が出来ます」
なるほど、サリアの説明で俺は理由を理解した。
偵察魔法もゴーレムも使えないからわからなかったのだ。
ならサリアが言った作戦は正しいだろう。
この迷宮についてはまだ分かっている事が少ない。
用心してかかった方がいい。
かつて俺達はサレルモの街で、出来たばかりの迷宮内に直接乗り込んだ。
しかしあの迷宮はサリアやヒューマの偵察魔法で全体を把握できる大きさだった。
内部の魔物の数も大きさも把握出来た。
それほど魔物が強くない事もわかっていた。
魔法が効かない魔物がいたのは誤算だったけれども。
今回の迷宮はサリアでも全容が確認出来ない大きさだ。
しかもサリアは奥にトロルがいると言っていた。
トロルは高レベルの魔物だ。
魔法なしでは1頭倒すのにB級冒険者が5人は必要だとされている。
火属性か空属性の魔法を使えればそこまで怖くは無いけれど。
なら更に奥にはもっと強力な魔物がいてもおかしくない。
用心したほうがいいのは確かだ。
「それが無難だよな」
それでも俺がこう言ってしまったのは、やっぱり自分自身で入りたいという気持ちが強かったせいだと思う。
「了解」
「そうなんだな」
アギラとレズンもサリアの作戦に賛成のようだ。
「それでは食べ終わったら、マグナスとロディマスを迷宮に向かわせます。出来るだけ注意して、迷宮内でも派手な魔法は出来るだけ使わないようにして。
中にどんな魔物がいるかわかりませんから」
718
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。