ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⑸ 午後の作戦

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 レズンが調理を始めてすぐにヒューマ達が戻ってきた。
 この時間なら迷宮ダンジョンに入ってそれほど奥まで行かずに戻って来たのだろう。
 つまりはまあ、予定通りだ。

 サリアは特に何も言わなかった。
 つまりそう特異な事は無かった筈。

 しかしシグル氏にとってはそうでは無かった模様だ。

「確かに迷宮ダンジョンが出来ている事を確認した。それもかなり大きく奥深いようだ。至急冒険者ギルド本部や国、領主家に報告する必要がある。

 そこでしばらくの間、この迷宮ダンジョンの警備及び管理を依頼したい。期間は管理体制が決まり、騎士団の警備部隊が派遣され警備を開始するまでの間。形態は優先一般依頼で、依頼等級については当面はC10+のつもりだ」

 優先一般依頼とは、優先的に受ける事が出来るパーティを指定する依頼だ。
 ただし指名依頼ではなくあくまで一般依頼。
 褒賞金の上乗せは無い。

 依頼等級C10+とは人員的にC級冒険者10人相当が必要で、かつ通常より難易度が高いという意味。
 こういった言葉は冒険者ギルド運営規定に載っているし、読んだ覚えもある。
 しかしC10+の依頼が1日当たり幾らかまでは俺は憶えていない。
 この辺含めた交渉事は基本的にヒューマに任せっぱなしだから。

「わかりました。契約の詳細については冒険者ギルドで話しましょう。レウス、悪いけれどグラニーの操縦を頼みます」

「わかった」

 サリアの次にゴーレムの操縦に慣れているのはレウスだ。
 そして契約に渉外担当のヒューマが行くのは当然。

「悪いな、連続で。何なら天幕を出して置いて行ってくれ。設営しておくからさ」

「ありがとう。それではお願いします」

 俺はヒューマとレウスからそれぞれの天幕を受け取る。
 レズンが料理を中断してゴーレム車から出て来た。
 サリアがゴーレム馬のグラニーを出して、ゴーレム車と接続する。

 ◇◇◇

 ヒューマとレウスの天幕を張った後。
 ゴーレム車が無いのでリビング代わりの天幕内に低いテーブルを出し、レズンの作ったミートソースパスタとサラダで昼食。

「まだヒューマ達はかかりそうか?」

「2人は冒険者ギルドを出て店で昼食を食べています。レウスのメモによると、『ギルドマスターが領主のアデライデ伯に状況説明中。これが終わるまで依頼を正規に発出出来ない。あと2時間はかかる見込み』だそうです」

 レウスは別行動している時、状況を割とこまめにメモしてポケットに入れる。
 それをサリアが読み取って、レウスの現状を把握する訳だ。

 偵察魔法では音が聞こえない。
 だから状況が今ひとつわからない時がある。
 その為にこのメモは必要です、そうサリアは言っている。
 実際何かと便利なので俺達も何も言わない。

 本当はサリアがレウスに対して過保護気味で、常に状況把握しないと心配だからだ。
 そうレウス以外は思っているけれど。

「大変なんだな。それで参考までに2人が食べているのは何なんだな?」

「ソーセージとチーズ入りマッシュポテトです。味はまだメモに書かれていないのでわかりません」

「帰ってきたらどんな味だったか聞いてみるんだな」

「多分このミートソースパスタの方が美味しいと思うぜ」

 これは俺の本音だ。
 レズンの料理は美味しい。
 街で食堂に入って食べた時、8割以上の店で『これならレズンに作って貰った方が旨いよな』と思う位には。
  
『リディナ先生にレシピを一通り習ったんだな』

 レズン以前そう言っていた。
 実際あの勉強会以外では見たことがないような料理も時々作ったりする。
 普通の料理を作っても何処か一味違って美味しい。

 今回のミートソースパスタだってそうだ。
 ミートソースパスタそのものは割とどこの街の店にもあるメジャーなメニュー。
 しかしそれらと比べてもずっと美味しいと俺は思う。

 もっちりしてソースに絡みやすいやや平らな麺。
 濃厚な肉の旨味とトマトやタマネギの甘さ、程よい酸味。
 具に入っている揚げナス。

 そのまま食べてもいいし、粉チーズをたっぷりかけるのもまた良し。
 レズン特製の赤い辛いソースを入れるのもありだ。

 そんなミートソースパスタを食べながら作戦会議。

「午後からはどうする?」

「ゴーレム2体を出して、出来るだけ迷宮ダンジョンの奥まで確認したいです」

「2体出すのは何故だ?」

 いつもは偵察に出すゴーレムは1体だけだ。

「今回の迷宮ダンジョンは長いので、ゴーレムを入口付近に置いても奥まで偵察魔法が届きません。ある程度奥までゴーレムを進めて、より奥へ偵察魔法を届かせる必要があります。

 ですので
  ① 奥へ進むゴーレムと、
  ② 入口付近に置いて奥へ進むゴーレムを偵察魔法で監視するゴーレム
があった方が安心です。そうすれば万が一奥へ進んだゴーレムが倒されてしまった場合でも、その状況を詳しく確認してとるべき行動を判断する事が出来ます」

 なるほど、サリアの説明で俺は理由を理解した。
 偵察魔法もゴーレムも使えないからわからなかったのだ。

 ならサリアが言った作戦は正しいだろう。
 この迷宮ダンジョンについてはまだ分かっている事が少ない。
 用心してかかった方がいい。

 かつて俺達はサレルモの街で、出来たばかりの迷宮ダンジョン内に直接乗り込んだ。
 しかしあの迷宮ダンジョンはサリアやヒューマの偵察魔法で全体を把握できる大きさだった。

 内部の魔物の数も大きさも把握出来た。
 それほど魔物が強くない事もわかっていた。
 魔法が効かない魔物がいたのは誤算だったけれども。
 
 今回の迷宮ダンジョンはサリアでも全容が確認出来ない大きさだ。
 しかもサリアは奥にトロルがいると言っていた。

 トロルは高レベルの魔物だ。
 魔法なしでは1頭倒すのにB級冒険者が5人は必要だとされている。
 火属性か空属性の魔法を使えればそこまで怖くは無いけれど。

 なら更に奥にはもっと強力な魔物がいてもおかしくない。
 用心したほうがいいのは確かだ。 

「それが無難だよな」

 それでも俺がこう言ってしまったのは、やっぱり自分自身で入りたいという気持ちが強かったせいだと思う。

「了解」

「そうなんだな」

 アギラとレズンもサリアの作戦に賛成のようだ。

「それでは食べ終わったら、マグナスとロディマスを迷宮ダンジョンに向かわせます。出来るだけ注意して、迷宮ダンジョン内でも派手な魔法は出来るだけ使わないようにして。
 中にどんな魔物がいるかわかりませんから」
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