ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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おまけ ファビオ君の日常

おまけ2 2回目の卒業から更に半年後 ひっそり堅実に生きていきたい?

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 カリプロの街の市場前広場。
 僕は止まっていたゴーレム車に後部から乗り込み声をかけた。

「ただいま」

「買い出しはどうでした?」

 カリンの問いに買ってきた物を思い浮かべる。

「パンザロットの揚げと焼き、あとはサンドイッチです。中身は定番のものばかりですね。合計36食分買っておきました」

 パンザロットとは円形に平たく伸ばした小麦粉生地の上におかずを載せて、半円形に折りたたんで焼いたり揚げたりしたもの。
 中身はチーズとトマトが定番で、ベーコンや魚フライ、貝等が入る事もある。
 スティヴァレこのくに南部の典型的なテイクアウト料理だ。

 料理担当がいない僕らのパーティの食事は、テイクアウトか宿や食堂で食べるか。
 だから長距離移動時にはこうして大量にテイクアウトを買い込む事になる。

「タラントまで3日あれば着くよな」

70離140km程度だから余裕だと思うわよ。それじゃ出発!」 

 ルチアがそう言うとともにゴーレム車は動き始めた。
 広場を抜け、石畳の街道を北へ。

『オキュペテー』は僕ファビオ、ミケーレ、ルチア、カリンという4人構成のC級冒険者パーティだ。
 特に依頼を受けずに魔物討伐で稼ぎつつ、南部から中部東海岸を行き来している。

 魔物討伐をメインにしているのは特定の依頼を受けると面倒だから。
 パーティを組んで半年の新米パーティで、最年長の僕ですらまだ14歳。
 若いとどうしても面倒事に巻き込まれやすいから用心している訳だ。

 面倒事、そう思って思い出した。
 そう言えば新聞を買ってきたのだった。

「カイル先輩達、また迷宮ダンジョンを発見して、攻略したみたいですね。この新聞に載ってます」

 新聞を一面が見えるようにテーブルに置く。
迷宮消去者ダンジョン・イレーサー、またもや新規迷宮ダンジョンを攻略!』
 そんな見出しが踊っている。

「またかよ。これで5件目だろ」

 ミケーレがそう言って新聞を手に取った。

 『迷宮消去者ダンジョン・イレーサー』と呼ばれる冒険者パーティは僕達の先輩分。
 村でやっていた勉強会を1年先に卒業した6人組だ。
 当然顔も名前も性格も、得意な魔法についてもよく知っている。

 この『迷宮消去者ダンジョン・イレーサー』とは正式なパーティ名でも、カイル先輩達パーティ員自身がつけた名称でもない。
 迷宮ダンジョンを3つ攻略した時点で広まった通称だ。 

 しかし既に半ば公称となっている。
 冒険者ギルドでもそう呼ばれるとか言っていたし。

 実は僕達がパーティ名を『オキュペテー』と名乗っているのも、この辺が原因だったりする。
 自分達で名乗る名前をつけないと、『迷宮消去者ダンジョン・イレーサー』とか『殲滅の魔人』とか、とんでもない名前がつけられてしまう事があるから。

 僕達はそんな派手な活動はしないつもり。
 しかし身近にそんな例が2つもあると用心したくもなるのだ。
 なお『オキュペテー』とはスティヴァレこのくにの伝説に出てくる鳥翼の魔人で、速く飛ぶ者という意味。

「新規迷宮ダンジョンってそんなに出現するものなんでしょうか?」

 カリンが首を傾げた。
 確かにカリンの言う通り。
 新規迷宮ダンジョンなんて、普通は十数年に1つ発見されるかどうかという代物だ。
 すくなくとも本で読んだ限りはそうなっている。

「そんな訳無いでしょ、と言いたいところだけれどね。
 今までも人知れず発生して、そして消えていった迷宮ダンジョンなんてものがあったのかもね。
 サリア先輩の偵察魔法、15離30kmくらいまで見えるって言っていたでしょ。だから知られていない迷宮ダンジョンでも近くを通れば見つけてしまうし、その結果じゃない?」

 ルチアの言う事はわかる。
 確かに迷宮ダンジョンが続けて発見される説明としては、それで正しいのだろう。

 しかし僕としては疑問がある。
 迷宮ダンジョンを発見してしまう事以外でだ。

「それはそうとして、未知の迷宮ダンジョンをいきなり攻略しようとするでしょうか、普通?」

 迷宮ダンジョンは通常の野外と比べ、段違いに強力な魔物が生息している。
 中には魔法が効かないとか、魔法だけで無く剣や槍すら効かないなんてとんでもない魔物まで。

 もちろん既知の、それなりに人が入っている迷宮ダンジョンは別だ。
 どの程度の魔物がいるか、先人のおかげでわかるから。

 しかし未知の迷宮ダンジョンとなると、何が出てくるかわからない。
 そんな場所にいきなり入って攻略しようなんて、少なくとも僕は思わない。
 危険すぎると思うのだ。

「あの人達は戦力過多ですから」

 カリンがさらっとそんな事を言う。
 確かにそれは僕も認める。
 僕らと違って先輩達は6人パーティで、持っている魔法や技も僕達よりずっと強力。

 サリア先輩はゴーレムを同時に5体以上動かせるし、カイル先輩は魔法の他、近接戦闘技術もその辺の冒険者より遙かに上だ。

 アギラ先輩は魔力さえ充分なら腕1本くらいは再生治療出来ると言っていたし、他の先輩もそれぞれ強力な一芸なりそれ以上なりを持っている。

 それでも僕は思うのだ。
 
「いくら戦力が大きくても僕には無理ですね。そんな未知の危険に挑むなんて事は」

 僕はどうやっても倒し方が思いつかない魔物を見た事がある。
 竜種ドラゴンと呼ばれる魔物で、攻撃魔法は全て無効の上、剣も槍も人間の腕力では刺さらないらしい。

 ただそんな能書き以前に、出現しただけでその魔力と存在感に圧倒された。
 とっさに僕最強の防護魔法を展開するのがやっとだった。
 攻撃しようとすら考えられなかった。

 僕だけでなく、ミケーレもルチアもカリンも同じ時に同じように竜種ドラゴンを見ている。
 それだけ怖い魔物がいるという事を知っている。

「まあそうだよね」

「そうですね」

「だな」

 どうやら3人とも僕と同意見のようだ。
 やはりあの竜種ドラゴンを見た経験のおかげだろうか。
 ちょっとばかりほっとする。

「おっと、今回の迷宮ダンジョン攻略でカイル先輩達、ついにA級冒険者へ昇格だってさ」

 ミケーレの言葉で僕は思い出した。
 そう言えば新聞にそんな事も書いてあったなと。
 さて、みんなの反応はどうだろう。

「大変ですね。それじゃこれからは、断れない依頼とかも来るでしょうし」

「大丈夫じゃない? ヒューマ先輩がいるから」

「確かにヒューマ先輩、交渉事は得意だけれどさ。大金積まれれば簡単に崩せそうだよな。お金に弱いから」

「確かにそれはあるかも」

 予想通り全員、冒険者A級なんて称号に釣られない。
 勿論僕もそうだ。

 冒険者の場合、C級で受けられない仕事はほとんど無い。
 報酬だって指名依頼でもない限り同額だ。

 つまり冒険者のB級やA級はあくまで名誉職みたいなもの。
 持っているとむしろ面倒事が増えるなんて事も多い。
 逃げられないとか、指揮を任されるとか。

「私達は堅実に行きましょ」

「そうですね。今のままでも充分貯金は出来ますし」

 お金を貯めて領主から広い土地を買って、先生達のような大きい農場を作り、あとはゴーレムに働かせてのんびり暮らす。
 それが僕らの人生設計だ。

 その為には目立つ必要は無い。
 お金さえ稼げれば、むしろ無名の方が都合がいいのだ。
 余分な依頼とかを受けなくて済むから。

 今のままの冒険者稼業でも充分お金は稼げる。
 ちょっと寂れた街道を移動するだけで、1日辺りゴブリン20匹以上は余裕だ。
 オークや魔狼なんていたら更にお金が稼げる。
 それに街道近くの魔物を倒す事は人助けにもなるし。
 
 カリプロの街門を過ぎて半離1km位走行した。
 人通りはほとんど無い。
 そろそろいい頃合いだ。

「そろそろ討伐を開始しましょうか。今日の当番はルチアだから、カリンが街道の西側半離1km、僕がそれより西、ミケーレが街道の東側を海まででいいですか?」

「ああ」

「いいです」

「それじゃ止めて、ゴーレムを出すわね」

 ルチアがゴーレム車を停める。

『オキュペテー』はゴーレムを5頭持っている。
 車を牽くロバ型ゴーレムのエミールと、犬型ゴーレムのジェローム、ウイルヘルム、ダゴバード、アーノルド。
 勉強会を卒業した時に先生達から貰った記念品だ。

 街道沿いを魔物討伐で動く際は、
  ① 偵察魔法で見つけた魔物を空即斬魔法で倒し、
  ② 倒した魔物を犬型ゴーレムで回収しながら
  ③ ゴーレム車でゆっくり進む
という方法を使っている。

 これなら広い範囲の魔物を一気に倒せる。
 人が走るよりゴーレムが走る方が速いし疲れないから、回収も楽。
 ゴーレムに自在袋をつけておけばゴブリン100匹くらいは余裕で収納出来るし。

 この任務で一番辛い役割は、ゴーレム車を牽くエミールの操縦。
 魔物を探して倒すよりずっと退屈だから。
 魔物を回収する以上、ゴーレム車をゆっくり走らせざるをえないし。
 だからエミールの操縦だけは順番で当番にしている。
 今日はルチアが当番という訳だ。

 白い犬型ゴーレムのジェローム、ウイルヘルム、アーノルド3頭が駆けていく。

「それじゃジェロームが半離1km西まで行ったら、ゴーレム車を動かすわよ」

「頼みます」

 僕はジェロームを操作しながら、街道のこの先、西側半離1km以上のところを偵察魔法で走査する。
 おっと、とりあえずゴブリン2匹発見。
 さくっと倒して、ジェロームをそっちに向ける。
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