ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

3 出会い⑵

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 結局同じような理由で安くなっている他の布地も含めて4巻お買い上げ。
 金額は少しだけおまけして小金貨22枚220万円

 流石にこれだけの金額を店頭で支払うのは防犯上まずい。という事で商業ギルドへといく事になった。

 母が店番をしているというので俺と彼女と2人で商業ギルドへ向かう。表通りを200腕400m程度なので相手が若い女性でも問題はないだろう。

 歩きながらこの後のことについて質問する。

「この布はどうお持ち帰りになりますか? 何でしたらこちらでお届けにあがりますが」

 4巻あるので重さは6重36kg近い。持って帰るには重すぎる。

 俺が使っている自在袋を使えば重さを気にせず持ち運べる。ただ自在袋は高価だから貸し出しは出来ない。

 なので俺が自在袋を使って届けるのが一番正しいだろう。実際仕立て屋等の大口へはそうやって届けているし。

「あ、それでしたら大丈夫です。商業ギルドで渡して下さい。実は私も今日は自在袋を持ち歩いていますから」

 えっ!? 商売ではなく自家用に自在袋を持ち歩いている?
 自在袋は高価だ。店で必要だから俺は持っているけれど、普通は5重30kg程度の安物でも正金貨1枚50万円はする。
 彼女はひょっとしてお金持ちなのだろうか。あるいは金持ちの使用人なのか。

 ただ使用人という感じはしない。だったら服を自分専用にサイズ調整なんて事はしないと思う。
 しかし金持ちにしては服が実用的すぎる気がする。お金持ちの服という感じはない。似合っているし綺麗ではあるけれど。

 わからない。しかしその辺を直接聞くのは失礼だろう。
 俺はあくまで場繋ぎの話題程度に、こう聞いてみる。

「ところで布4巻きは、どう使うのでしょうか? もし必要ならこの付近の仕立て屋等の紹介も出来ますけれど」

 これも謎なのだ。普通なら2腕4mもあれば1人分の服上下を作れる。30腕60mの同じ布地を2巻きなんてどう考えても使いきれない。

「うちは大家族なので布は結構使うんです。子供は服のサイズもすぐ合わなくなりますし。
 仕立の方は大丈夫です。そういった事が得意な者もいますし、私自身もある程度は出来ますから」

 大家族か。祖父世代に親世代が兄弟姉妹とその配偶者、そして子供という感じだろうか。

 それなら大量の布を使うのは納得だ。まとめて購入するお金があるのも含めて。

 人数が多ければ必要経費もそれだけ必要だろうし準備もしているのだろう。
 それに服を購入するより布を買った方が間違いなく安くつく。自分のところで裁縫できるのならば。
 
 あと彼女の服のラインが綺麗なのもそれで納得だ。自分でそういった事が出来るのなら好み通りに出来るだろう。もちろん本人のセンスがあればだけれど。

 そしてその辺のセンスはきっと確かだ。今の服や持って歩いているカバン等だけで十分わかる。

「なるほど。それで服もサイズが綺麗にあっていらっしゃるのですね」

「気づかれましたか?」

 しまった。客の服を品評するなんてのは店員失格だ。
 ただ驚いてはいるが嫌だとか気持ち悪いとかそういったマイナス系の反応ではないように感じる。

 なら正直に白状してしまおう。ただし失礼のないように。

「すみません。服屋で買い付け担当なので、いいなと思う服や着こなしがあるとつい気になってしまうのです。

 本来この手の服はサイズ調整が出来る代わりにラインがだぼっとしてしまうのが普通です。それに色も限られているので重苦しいか膨れた感じの組み合わせになってしまいがちです。
 
 それを軽やかで綺麗な感じで着こなしていらっしゃるので、失礼ながら気になっていました。申し訳ありません」

 気持ち悪いと思われたかもしれないな。そうは思う。
 気にしない方が格好いい。楽であればそれで充分。そういう意見が多いのは知っているから。

 しかし彼女は笑顔で頷いた。

「気づいていただいて嬉しいです。この辺ではあまりそういった事を気に掛けてくれる方はいませんから。

 ただ少しお洒落、そこまでいかなくてもちょっといいかなと思える格好をすれば、それだけで自分に少しだけ自信を持てるような気がするんです。自信とまではいかないかな。それでもいつもの自分よりあと一歩だけでも前に出ることが出来るような感じで」

 うんうん、わかる気がする。俺は男だからまた少し違うかもしれないけれど。

「そのバッグと靴も合わせていらっしゃるんですよね、色を」

「ええ」

 彼女は頷いた。

「もちろん組み合わせるなんて程、何種類も持っている訳じゃないです。だからどうしてもあわない時もありますけれど、そういう時はマフラーとかストール、スカーフとか小物でカバーするとか。

 作業をする時とか長時間移動する時とか、なかなか上手くいかない時もありますけれど、それでも汗拭きの布の色にちょっと主張を入れたりして。それだけでも楽しいですし」

 うんうん、わかる。

「わかります。それにそう工夫してきてもらえると服屋としてもうれしいです。
 それにそういった工夫は自分の気持ちだけでなく他の人の気分も少しは変える力があると思います」
 
 彼女はうんうんと頷いた。

「わかります。その通りだと思います。ただこういう話って実際にはあまり人に出来なくて。生活に余裕があっていいですね、なんて見られそうですから」

 確かにそれは言われそうだ。

「もちろんそんな余裕はないというのもわかります。ただそれでもちょっとしたお金のかからない工夫は出来ると思います。そうでなくともせめて持っている服は見栄え良く着こなしてほしいと思うんです。服屋の勝手な言い分かもしれませんけれど。

 お洒落とまでいかなくてもいいです。少し気をつけるだけで見栄えは良くなるし人に与える印象もぐっと変わるります。それは間違いなく本人や周りにとってプラスです」

 こういった話が出来る相手はほとんどいない。少なくともカラバーラには。

 なのでついつい話に熱くなりかけたところで、商業ギルドに到着。
 
 ◇◇◇

 後は普通に商業ギルドのカウンターで、代金分を口座間で移動して。買い上げた布を俺の自在袋から彼女の自在袋へと移動させて。

 なお彼女の名前はセレスというそうだ。これは口座に振り込む際の手続きで判明した。

「お名前はフミノさんと仰るんですか?」

 そう聞いたのは女性がこちらに振り込んだ口座の名義がそうなっていたからだ。

「これは一緒に住んでいる仲間、というか姉みたいな存在の人の名前ですね。商業ギルドではフミノさん代表の商会形式で登録していますから。
 私の名前はセレスと申します」

 これで名前が判明した訳だ。

 あと驚いたのは持っていた革製ハンドバッグが大容量自在袋だった事。

「こんな可愛らしい形の大容量自在袋なんてものがあるんですね」

「これ、バッグ部分は手作りなんです。鞣して貰ってた革を切って穴をあけて縫い上げて。
 自在袋としての魔法はその後に付与してもらいました。これなら自在袋に見えなくて安心ですから」

 確かにその方が防犯上も安全だろう。ただそんな小さなバッグに大容量自在袋の能力を付与するには相当な費用がかかるだろうと思うけれど。相当にいい素材を使うか術者の能力が高いかしないと小さくは作れないと聞いているから。

 ただ服屋として気になったり褒めたりするのはそこではない。

「どうりで可愛らしいデザインだと思いました。この辺ではそういった物はあまり扱っていませんから。
 あと革も時間をかけて丁寧に育てている感じです。色合いが綺麗ですから」

 実用の鞄は容量重視で作られる。だからデザインがどうしても似たような形になりがちだ。四角い箱形っぽかったり、単なる袋状だったり。

 彼女の持っているような丸っこい形なんてこの辺では売っていないし作っていない。容量を稼げないし革も無駄になるしで。

「そう言っていただけると嬉しいです。このデザインは結構気に入っているので」

 ◇◇◇

 更に服や布、小物のことについて話した後。
 セレスとはそのまま商業ギルドで別れた。

 正直魅力的だったし話も楽しかった。けれど俺が店に出る事はほとんどない。そもそもあれだけ布を購入したら当分は服を購入する必要なんてのも無いだろう。

 だから多分もう会う機会はないだろう。そう思っていたのだ。
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