ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録6 俺達の決断

6 密談終了

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 それでは、俺の方から開示しておこう。 
 今日の昼間に冒険者ギルド支部、それも最寄りのテモリ支部ではなく少し離れたイゼラニアの地方支部まで行ってきた結果を。

「この機会に俺からも報告だ。昼間冒険者ギルドに行って、情報水晶を使ってタウフェン公爵と直接連絡を取ってきた。
 ひとつは申請の厳正確認について。具体的にはアコルタ子爵家から子爵位の継承申請及びそれに関連しそうな申請、たとえば養子縁組や降嫁による貴族籍返上願があった場合、署名者の魔法証明を厳密に確認するようにと国王庁へ申し入れるよう、お願いした」

 俺としても、悪党が領主家を牛耳るなんて事になって貰いたくはない。
 気分が悪いというだけではなく、実害を被ることにもなりかねないから。

「もうひとつは今後『闇の右手』絡みの事案に対応した際、こちらの冒険者ギルドの判断に任せず、王都支部から直接指揮して被疑者を収容、護送、調査して欲しいと依頼した。
 どちらも了承して動いてくれるそうだ。状況は明日、イゼラニアにある冒険者ギルド地方支部に行って確認してくる」

 今回の6人はアギラの伝手で何とかした。
 しかし今後も同じ伝手を辿るのは申し訳ないし、上層部となればそういった方法での更生も難しいだろう。
 だから地元領主家が取り扱わない場合であっても、正規に取り扱える仕組みを整えようとした訳だ。
 
 タウフェン公爵は冒険者ギルドスティヴァレ支部の名誉顧問で、現国王の従兄弟。国王派貴族の領袖でもある。
 あの人に話を持って行けば、冒険者ギルドにも国王庁にも話が通る訳だ。

 ただそんな身分だから、本来なら一介の冒険者としては雲の上の存在。
 なのだがA級冒険者となって男爵位について以来、何かと連絡を取る事が多い。
 具体的には国の行事に冒険者代表として参加するとか、祭典で模範試合を披露するとか、そういった場合の王家側、冒険者ギルド側、いずれの窓口も俺の場合はタウフェン公爵扱いになっているのだ。

 なのでその分話しやすいし、連絡もとりやすい。
 だから昨晩の件についても概略を話して、協力を求めた訳だ。

「カイルさんって、そういう所でそつないというか、マメですよね」

 レウスにそう言われてしまうけれど、俺だって好きでやっているわけじゃない。
 いわゆる『迷宮ダンジョン消去者イレーサー』のメンバーで他に誰も冒険者ギルド対応をしてくれないから、仕方なくやっているだけだ。
 最初の内は外部対応担当のヒューマが、冒険者ギルドも対応していたのだけれど……

 いや、ため息をつくのは後でいい。
 もう少し具体的に話を伝えておく必要がある。
 サリアあたりはもう俺が言わんとしている事はわかっているだろうけれど、他の皆さんにも理解して貰う為に。

「だから『闇の右手』については、今後は現場の実行犯でなくとも身柄確保が可能だ。必要がある場合は、王都ラツィオ支部にて心理強制魔法で自白させる事も可能にしてもらう予定だからさ。場合によっては事後依頼という形で冒険者ギルド的に処理する事も考慮して貰っている」

「わかりました。それでは明日以降も調査を続けていいでしょうか」

「むしろ頼む。どうせまた此処には仕掛けて来るとは思うけれどさ。その時は実行犯を最低1人は捕らえずに残して、後を追えるようにしてくれ。そう言っても、結局はサリアに後を追って貰うことになるんだろうけれどさ」

 これで次回襲撃があるまで、裏でこっそり動いていきなり確保なんて事はないだろう。
 そして次回の襲撃時にもいきなり全員捕まえるなんて事はせず、ある程度は泳がせてくれる筈だ。
 
 襲撃については、正直あまり心配していない。
 敵意がある奴が近づけば、危険察知魔法で誰かが気づく筈だ。
 戦力的にも、それこそ騎士団の魔法部隊でも連れてこない限りは、問題ないだろうと思っている。
 
「さて、それであと何かここで話しておいた方がいい事はあるか?」

「襲撃まで何か特別な体勢をとる必要はあるだろうか」

 これはアギラだ。

「一応此処にいるうち3人は常に此処にいるようにしよう。あと此処にいない誰かが外へ出る際は、ここにいるうち誰か1人をつける形で。最悪の場合でも高速移動魔法で此処に逃げ込めるようにすれば問題ないだろう」

「商会の方は、当分は僕とレウスで交互に動きますよ。そうすれば僕かレウス、アギラ、レズンで最低2人はここにいるように調整出来ますから」

「エミリオの早朝巡回は、私の方でカバーします。危険を察知した時点でこの拠点へと戻せば問題ありません」

 ヒューマとサリアがそう言ってくれれば、問題は解決したようなものだ。

「俺も冒険者ギルド本部との連絡の他は、出来るだけ此処にいるようにするつもりだ。少しばかり動きがとれなくて、不自由になるかもしれない。でもそう長い事は無いと思うしさ」

 もしサリアがもう少し情報を掴んでいるのなら、ここで何か言ってくるだろう。
 例えば襲撃してくるだろう日程とか。
 そう思ったのだけれど、サリアは何も言わなかった。
 まだ言うべき段階ではない、そう判断しているのかもしれない。

 言わないのなら、今は特に話を向けたりはしない。
 その辺はサリアの判断だろうし、俺としてはそれを信じるだけだ。
 
「それじゃ、他に何かあったら言ってくれ」

 何も無い。今回の密談は終わりのようだ。
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