15歳から始まる悪女人生計画。

🐾🐾

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彼女になった理由

静かに、密やかに。

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――ほんの少し、時は先送りされる。

少女は草木をかきわける手を止めた。
近くで複数の足音が聞こえた気がしたのだ。
それに加えて、男性の会話。
(気づかれた・・・?)
内容は聞き取れない、かすかなものだ。
気づかれてはいない、そう理性は反論する一方で、まさかと乗除の体はかすかに揺れる。
夜の暗闇を利用し、一部の者しかしらない抜け道を使って中に侵入した。
ばれないから大丈夫と言って彼、エンディミオン子爵はついて来ようとしたが私は止めた。
だから、ここにいるのは私一人だ。
女である上に一人では地下牢まで行ける可能性も低い。
そう、ただの女であれば、けれど私はただの女じゃない。
私の脳内には膨大な攻略情報が詰まっている。
設定資料5600円(高すぎる)に無駄に、事細かく、書かれた記述を思い出す。
イベントで地下牢に捕まるシーンがある。
その時脱出に使われたルートと方法、それを使えば簡単にできるのだ。






静寂と暗闇につつまれているはずの王宮の庭。
色とりどりの艶やかな花たちが咲き誇るその庭に、不釣り合いな影が一つあった。
戦場で鍛え上げられた筋肉質な身体を、硬質な赤の甲冑がつつむ。
彼の名はアラド。
ナルロス王子の近衛兵隊長であり、王宮護衛騎士を率いる者でもある。
それらを完璧に務めている彼に与えられたものが伯爵騎士という名誉だ。
彼の近くにはもう一人の影。
そう、ナルロス王子その人だ。
王子は憂鬱そうにため息を零す。

「なぁーアラド、どうしたら姉ともう一度あえると思う?」

口から出た言葉は堅苦しいそれではない。
まるで旧友に話しかけるような口ぶりである。
それにこたえるように彼は王子である彼の表情も見ず、目前の花達を見ていた。

「そのために今回妹を返さなかったんだろう、姉を引きずりだす為に」

アラドはため息をこれ見よがしと言わんばかりにつく。
彼らの側近がこの場に居れば、あまりの無礼に卒倒してしまうかもしれない。

「私は反対でしたよ、女性を地下牢に入れるなんて、しかも無罪じゃないですか」

と悪態をつく。
ナルロス王子はその言葉を聞いた瞬間、おかしそうにくつくつと笑い出した。

「ああ、あれは嘘だぞ、地下牢に入れてない」

次に表情を変えたのはアラドだ。
当然、聞いていない事実に顔を濁す。

「はぁ?!王子あなたって人は、で、どこです」

ここにいるぞ。
そういってナルロス王子は右手を目の前の空間にかざす。
すると空間は楕円形に歪みを作り、次第にそれは大きくなると
半円のような暗闇が生まれた。
目を凝らせば一人の少女が目を怒りに燃やして王子をにらみつけていた。
王子は笑みを崩さない、むしろ愉快そうに微笑みを浮かべている。

「馬鹿だ、この王子、バカだ。」

アラドは言葉を飾らずにそのままの感想を言った。
王子は不服そうにアラドを見る。
バカだ、といった言葉に彼は続けて口を開く。

「そんなことをしていると、痛い目をみますよ王子」




ふと脳裏によぎるのは彼女の姉の姿。
助けるといった私の言葉をはねのけ、やめてくれといったあの表情。強い意志の眼差し。
彼女なら彼を、王子を懲らしめてくれないだろうか。
このバカはもう私の言葉を聞かないのだ。
王宮を探し回ったがもう良物件はいない。

王子にさらりと無礼を働いたお嬢さんならば、と思った。
けれど彼女は駄目だ。
力が弱すぎて、対抗できていない、今の現状がまさにそれだ。
それでは意味がないのだ。
半円の空間から優美といわれる少女は何かを叫んでいる。
空間ごと隔離しているらしい、だから当然のごとく声は聞こえない。

「姉君は素晴らしい能力だったな」

アラドのその、つぶやきにも似た一言にナルロス王子は反応する。

「素晴らしかった」

恍惚とした声色が耳に飛び込んできて、私は背筋が凍った。
王子を恐る恐るといったように見れば、そこには気持ち悪いくらい笑顔。
もとい、ゲス顔といわれるものがそこにあった。

「王子、顔をどうにかしろ、酷い有様だ」




姉よ、早くこい、そしてこの王子を調教どうにかしてくれ。


アラド・フェン伯爵騎士。彼の今までの苦労を知る者はいない。
だがしかし、王子による被害の後処理が近衛兵である彼にしわ寄せがいっている。
そのことと、彼の行動を考えれば、以下に苛酷だっただろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実力主義の思想を王子は持っているため、不敬罪にはしないです。
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