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彼女になった理由
見ているのと、見守るのと。
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さて私の知らないところで、舞台は揃います。
盤上に揃った駒達は無意識のまま、新しい流れにそっている。
生まれた奇跡、その可能性が生んだ軌跡に沿ったシナリオ。
きっと先には、見たことのない結末が待っている。
けれど、貴方が一番知っているでしょう。
この世界は既に破綻し、狂い、それでも巡ろうとすることを。
私は無力だ。
どうしてこうも後手に回ってしまうのだろう。
脳内の地図をあてに地下室にたどり着いた。
こんな時だけはあの無駄に高かった攻略本に感謝しないと、そう思いますね。
けれど期待と裏腹、そこにあったのは無抜けの殻。
手遅れだったのか、そう思って牢屋に手をかけたその時。
指先に刺さる痛み。
牢屋の柵は鉄臭くさびれていて、指を切ってしまった。
私はその痛みに顔をしかめつつ、視線を向けます。
だんだんと赤がゆっくり溢れていく、ぽたりと、落ちるしずく。
指先から垂れ落ちていく朱い、赤いしずく。
私はどうしてか目がそらせなくなって。
こんな些末な傷はどうでもいい、だから早く妹を見つけないと。
心はそうせかしてやまないはずなのに、体はどうしてか動かない。
あれ、こんなに赤って、綺麗でしたっけ。
意識が、視界が、暗転する。
...
ああ、ああ、なんて、綺麗なの。
素敵だわ、命の色ってこんな色なのね。
どうして忘れていたのかしら、私はずっと
ずっと、ずっと、昔からこれが好きだったのに。
でもそう思い出したの。
もっともっと、見て痛いわ居たい。
痛い居たい痛い居たい痛いのはどうして?
どうして、泣いているの、私は。
...
―駄目だよ、正気に戻って。
遠くでそう、夢の中の彼の声が聞こえた。
けれどどうしても身体は言うことをきかない。
ガシャンと音がして入口のほうを見てみれば、
そこには数人の衛兵とアラドという騎士が居た。
「やはり来ていたのか、しかし、どこから・・・」
私がいることに別段驚いているそぶりはないけれど、
そんなことはどうでもいいですね。
真っ直ぐ、駆け出して彼の腰にささる刃のつかに手をかけます。
そのまま引き抜こうとして、彼に手をとられました。
「お前、まさか」
わたしとした事が、バカですね。
大物から得物を取るなんてできるはずないじゃない。
考えればわかるもの。
私が力をこめれば腕は簡単にほどけました。
きっとそこまで本気でつかんではいなかったのでしょう。
視線を迷わせ、複数いる中で一番おどおどしている少年を見つけます。
私はアラドの小脇をすり抜け、彼にかけより押し倒しました。
「うわぁあ!」
情けない声で叫んだ少年。
目を白黒させて口を開閉しています。
ああ、でも彼の血も素敵なのでしょうか。
柄に手をかけて、引き抜く。
後ろでアラドの声が聞こえます。
――やめなさい!彼に、いや違うな!・・・王子を殺そうというのか!!
ああ、どうでもいいのに。
王子なんて、どうでもいい。
「ごめんなさいね、今、どうしてもね」
――チガミタイノ。
自分の左腕に刃を添え、引く。
溢れ出る、命の色。
周りはぎょっとしたように、目を見開いた。
目前の少年は困惑の表情を隠せないでいる。
私は腕を掲げ、見えない天を仰いだ。
こんな埃っぽくてかび臭い所では意味がない。
もっと、もっと素敵なところに行きましょう。
――待ちなさい!やめるんだ!!
目前の少年の手を引いて走り出します。
最後に私の耳に入ったのは、彼の声か、アラドの声か。
分かりませんでした。
僕は馬を走らせようと、小屋に向かいました。
けれど、玄関で僕は足を止めます。
目の前に人が立ちはだかっているから。
「父さまは、知っていたのですか」
そう、なるべく自分の感情を隠すように言いました。
自分でもわかっている、言葉の節に隠し切れない憎悪の念。
でもしかたがない、姉さんの今の状況はこの人のせいなんだ。
「知らなかったが、こうなるとは思っていた」
淡々と返すその言葉に温度は感じない。
嫌な言葉だ、どうせどうとも思ってないだろう。
夜会では体裁のためか、大切そうに話していたけれど。
小さいころからそうだった。
姉さん、そう小さな声で囁く。
僕の大切な姉さん。
どうして昼間、王子に会っていたのか、ちゃんと聞くべきだったんだ。
とにかく姉さんを追わないと。
「父さん、僕は行ってきますよ」
僕はそのまま彼の横をすり抜けようと、駆け出したその時。
一瞬の眩い閃光と一線の暴風。
不意を突かれて僕は背後の壁にたたきつけられる。
背に痛みが走るが、我慢した。
「どうして、どうしてですか、そんなに姉さんが嫌いですか!!」
いつだって姉さんに冷たかった。
いつだって姉さんは寂しそうだった。
「僕はあなたとは違う!姉さんが好きなんだ!!」
想いを口にする。
きっと父さんには通じない。
家族愛を超えたものだなんて、考えもしないだろう。
「ルイはここにいなさい」
そういって片手をあげる父さん、その手のひらに高圧縮された力を感じた。
現当主の名はだてじゃないのは僕だって知っているし、
僕はこの力を受け継がなかった。
王城にはこの不思議な力を持つ人たちがたくさんいる。
僕一人が行ったところで何も変わらない。
けれど。
「もう、見てるだけはいやなんだ!!!」
父さんはその手をゆっくりとおろす。
その瞳には、陰りがあるけれどどこか優しい光が映り込んでいた。
少し、ためらいながら口を開いた。
「見てるのと、見守るのと、それはとても違うことなんだよ」
その陰りは、とても深い悲しみの色だった。
それでも、それでも。
「何もしないで後悔するのは、もう…うんざりなんだッ!!」
目の前で父さんは大きく目を開く。
そんな驚いた表情は、初めて僕は見た。
そして違和感にすぐに気づく。
先程まで目の前にあった力を感じない。
視線を落とし、自分の手のひらを見る。
淡い光がこぼれ出ていた。
「ルイ、お前は…」
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