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彼女になった理由
バッドエンド。
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
花弁は風に乗って天を舞う。
宝石のような輝きを持ち空を飾るのは星々。
幻想的な青い月は何かを憂うように、陰りを持っていた。
満月の月がだんだんと、色を変えていることに誰も気づかない。
雲が、流れている。
植木を無視して私は見知らぬ彼の手を引いて、
数々の華が彩る庭へと躍り出た。
「綺麗、綺麗!!」
香しい鉄の香りが鼻腔をくすぐる。
ああ、もう腕から全然流れてこない。
足りない、足りない。
もう一度、次は右腕に剣を添わせて。
「やめてよ!おねえさん!!」
背後の見ていた少年が慌てて止めに入った。
私の手から無理やり剣を奪おうとしたので私も抵抗する。
そのまま剣先は彼の頬をかすめる。
一瞬痛みに目をつむるが、真っ直ぐ私を見てきた。
先程待ておどおどしていた少年はどこに行ったのだろう。
面倒な光のともった瞳をしていた。
ああ、でも素敵。
「なんて、綺麗なのかしら」
頬に手を添えれば、私の手のひらはそれに濡れる。
鬱くしい赤色、私の瞳の色。
彼の頬に顔を近づけて香りを味わう。
「おおおおねいさん!!とにかく医務室いきましょう、腕から血が」
何を言ってるのかしら。
動揺しているのか手には力が入っていない。
そのままつかみかかってきた手を解いて、剣先を彼の喉元に添える。
「もっと、赤が見たいのだけれどどこを切ればいいのでしょう」
私の問いに、彼は喉を鳴らした。
何を考えているのか、予想がついたのだろう。
「おねえさんは狂ってる」
彼は本当に先程の少年だったのか。
真っ直ぐと大嫌いな瞳で見つめてくる。
「ふむ、君は悪い子だったのか」
聞きなれない声、だけどとても印象に残る声。
それは王子のものだ。
「妹を追ってきたのかと思ったが、君は何をしたいんだい?」
初めて会った時の猫かぶりはそこにはない。
そう皮を脱いだ彼の素顔がそこにあった。
頬を赤目らせて、少し興奮気味なのはすこし気持ちが悪い。
「妹なんて今はどうでもいいの、ただ私は」
と口にした瞬間。
喉の奥のほうから愛しいものがこみあげてきた。
耐え切れずそれは口からあふれる。
ごぽりと零し、服を地面を染め上げるそれは赤。
とたん力が入らなくなった。
手元にあったはずの剣はどうしてか、自分の胸に突き刺さっていた。
否、自分で刺していた。
無意識だった。
「お姉ちゃん!!!」
突然目の前の空間が音を上げて割れると、そこには探していたはずの妹がいた。
どうしてどうして、と手を伸ばしながら私に駆け寄る。
私はその手をとろうとして、地面におちた。
視界と、意識とが一瞬だけ白転(※)する。
「あ、あー、忘れていた」
そうだ、私は、姉は、ヘマトフィリア(血液嗜好症)だ。
どうして今発症していたのか、よくわからないけど。
目が醒めたような感覚の今では、とても気持ちが悪い。
どうしてだろう、胸がとても暑くて、視界がかすんだ。
少年と男と、妹の声。
「嫌だよ、嫌だ、お姉ちゃん!また、またなの!!どうして」
泣いている、そうだ私は泣かないでほしかった気がする。
最初の時。
私じゃなくて、私じゃない私だった時。
その時の姉の感情が流れ込んでくる。
私の妹はとてもできた娘でしたわ。
私の愛しい愛しい妹。
孤独からすくってくれた唯一の子。
私がすべてから守ってあげる。
たとえ、王国からも、世界からも、私からも。
どんなものからも救って見せる。
5年前。
あの子の力が暴走してしまった。
心が育ち切っていないあの子にはその能力からくる
心的負荷には耐え切れなかった。
病んでいく、私の妹。
そんな妹もとてもかわいらしかったけれど、つまらない。
だから私は。
夢の中、世界は水面に蓮華が咲く世界。
何よりも死を連想させる、その中心で。
あの子と、あの子の現身うつしみという器をえた力がそこにいた。
「そうだね」
肩を震わせる妹に、そっと優しく抱きしめてあげる。
指をさして目の前の”それ”を問う。
「それはなに?」
――悪魔。
妹はぽつりと零すようにそう言った。
それは違う。
私は優しく、壊れてしまわないように。
一つ一つ言葉を選びながらヒントをあげる。
賢い妹ならすぐにわかるでしょう。
やはり妹は答えを言った。
私の想像とは違ったけれど、とてもうれしい数多ある選択肢の一つを。
なら怖い力は私が貰い、あなただけの剣となりましょう。
貴方の敵を全て壊す力となりましょう。
「だから、怖い力は私が――全て引き受けてあげるわ」
妹の瞳に笑みはない。
笑って、もう怖いものなんてないの。
貴方自身からだって守って見せるのだから。
「大丈夫、大丈夫」
そういっても彼女の表情は変わらない。
流れていくものは、私の命を繋ぎとめていた唯一のもの。
弧をあがいては広がって、地面に沿っては線を描く。
私は死にたくなかった。
けれど、どうして私はこうなっているのだろう。
こうして過去の記憶を想い出させて、何がいいたいんだろう。
きっと違う、これは走馬灯なんだ。
強制力なんて知らない。
私はただ、私として新しい命を全うしたかった。
私はただ、一人の女の子として生きてみたかった。
そうだ、私はただ――。
「やだ、まだ、生きて・・・い――」
世界が狂っていると知ってしまってから。
私は私として生きられなくなったんだ。
気づいたら、死んでしまうとわかったから。
こんなに苦しいんだ。
ひやりと冷たい世界に落ちていく。
また、巡るのかな。
あの人と会えるのかな。
会ったら聞きたい、どうしてのすべてを。
「ーーーー」
意識が途切れそうな最後の瞬間、弟の声を聞いた気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※造語:フラッシュ、視界が白くなる。
花弁は風に乗って天を舞う。
宝石のような輝きを持ち空を飾るのは星々。
幻想的な青い月は何かを憂うように、陰りを持っていた。
満月の月がだんだんと、色を変えていることに誰も気づかない。
雲が、流れている。
植木を無視して私は見知らぬ彼の手を引いて、
数々の華が彩る庭へと躍り出た。
「綺麗、綺麗!!」
香しい鉄の香りが鼻腔をくすぐる。
ああ、もう腕から全然流れてこない。
足りない、足りない。
もう一度、次は右腕に剣を添わせて。
「やめてよ!おねえさん!!」
背後の見ていた少年が慌てて止めに入った。
私の手から無理やり剣を奪おうとしたので私も抵抗する。
そのまま剣先は彼の頬をかすめる。
一瞬痛みに目をつむるが、真っ直ぐ私を見てきた。
先程待ておどおどしていた少年はどこに行ったのだろう。
面倒な光のともった瞳をしていた。
ああ、でも素敵。
「なんて、綺麗なのかしら」
頬に手を添えれば、私の手のひらはそれに濡れる。
鬱くしい赤色、私の瞳の色。
彼の頬に顔を近づけて香りを味わう。
「おおおおねいさん!!とにかく医務室いきましょう、腕から血が」
何を言ってるのかしら。
動揺しているのか手には力が入っていない。
そのままつかみかかってきた手を解いて、剣先を彼の喉元に添える。
「もっと、赤が見たいのだけれどどこを切ればいいのでしょう」
私の問いに、彼は喉を鳴らした。
何を考えているのか、予想がついたのだろう。
「おねえさんは狂ってる」
彼は本当に先程の少年だったのか。
真っ直ぐと大嫌いな瞳で見つめてくる。
「ふむ、君は悪い子だったのか」
聞きなれない声、だけどとても印象に残る声。
それは王子のものだ。
「妹を追ってきたのかと思ったが、君は何をしたいんだい?」
初めて会った時の猫かぶりはそこにはない。
そう皮を脱いだ彼の素顔がそこにあった。
頬を赤目らせて、少し興奮気味なのはすこし気持ちが悪い。
「妹なんて今はどうでもいいの、ただ私は」
と口にした瞬間。
喉の奥のほうから愛しいものがこみあげてきた。
耐え切れずそれは口からあふれる。
ごぽりと零し、服を地面を染め上げるそれは赤。
とたん力が入らなくなった。
手元にあったはずの剣はどうしてか、自分の胸に突き刺さっていた。
否、自分で刺していた。
無意識だった。
「お姉ちゃん!!!」
突然目の前の空間が音を上げて割れると、そこには探していたはずの妹がいた。
どうしてどうして、と手を伸ばしながら私に駆け寄る。
私はその手をとろうとして、地面におちた。
視界と、意識とが一瞬だけ白転(※)する。
「あ、あー、忘れていた」
そうだ、私は、姉は、ヘマトフィリア(血液嗜好症)だ。
どうして今発症していたのか、よくわからないけど。
目が醒めたような感覚の今では、とても気持ちが悪い。
どうしてだろう、胸がとても暑くて、視界がかすんだ。
少年と男と、妹の声。
「嫌だよ、嫌だ、お姉ちゃん!また、またなの!!どうして」
泣いている、そうだ私は泣かないでほしかった気がする。
最初の時。
私じゃなくて、私じゃない私だった時。
その時の姉の感情が流れ込んでくる。
私の妹はとてもできた娘でしたわ。
私の愛しい愛しい妹。
孤独からすくってくれた唯一の子。
私がすべてから守ってあげる。
たとえ、王国からも、世界からも、私からも。
どんなものからも救って見せる。
5年前。
あの子の力が暴走してしまった。
心が育ち切っていないあの子にはその能力からくる
心的負荷には耐え切れなかった。
病んでいく、私の妹。
そんな妹もとてもかわいらしかったけれど、つまらない。
だから私は。
夢の中、世界は水面に蓮華が咲く世界。
何よりも死を連想させる、その中心で。
あの子と、あの子の現身うつしみという器をえた力がそこにいた。
「そうだね」
肩を震わせる妹に、そっと優しく抱きしめてあげる。
指をさして目の前の”それ”を問う。
「それはなに?」
――悪魔。
妹はぽつりと零すようにそう言った。
それは違う。
私は優しく、壊れてしまわないように。
一つ一つ言葉を選びながらヒントをあげる。
賢い妹ならすぐにわかるでしょう。
やはり妹は答えを言った。
私の想像とは違ったけれど、とてもうれしい数多ある選択肢の一つを。
なら怖い力は私が貰い、あなただけの剣となりましょう。
貴方の敵を全て壊す力となりましょう。
「だから、怖い力は私が――全て引き受けてあげるわ」
妹の瞳に笑みはない。
笑って、もう怖いものなんてないの。
貴方自身からだって守って見せるのだから。
「大丈夫、大丈夫」
そういっても彼女の表情は変わらない。
流れていくものは、私の命を繋ぎとめていた唯一のもの。
弧をあがいては広がって、地面に沿っては線を描く。
私は死にたくなかった。
けれど、どうして私はこうなっているのだろう。
こうして過去の記憶を想い出させて、何がいいたいんだろう。
きっと違う、これは走馬灯なんだ。
強制力なんて知らない。
私はただ、私として新しい命を全うしたかった。
私はただ、一人の女の子として生きてみたかった。
そうだ、私はただ――。
「やだ、まだ、生きて・・・い――」
世界が狂っていると知ってしまってから。
私は私として生きられなくなったんだ。
気づいたら、死んでしまうとわかったから。
こんなに苦しいんだ。
ひやりと冷たい世界に落ちていく。
また、巡るのかな。
あの人と会えるのかな。
会ったら聞きたい、どうしてのすべてを。
「ーーーー」
意識が途切れそうな最後の瞬間、弟の声を聞いた気がした。
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※造語:フラッシュ、視界が白くなる。
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