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無闇矢鱈と触れたらダメだよ?
しおりを挟む先程...先程と言っても何時間も前の事だけど
少しだけ、ほんの少しだけ位なら信じても良いかもと思った自分の心を今すぐ取り消したい
「開けてっ!」
ドンッと扉を叩くもウンとスンとも言わない頑丈な扉
「いい加減にしてっ!」
まるで壊す勢いで何度も何度も扉を叩くもビクともしない扉を前に、叩き過ぎって腕から掌に掛けての痛みと感覚も麻痺してきて、足でガツンと蹴る
この際足癖が悪いなど気にしないし、行儀が悪いなど言われたくも無い
そして等々叫びすぎて声が枯れてきた頃
漸く固くて頑丈な扉がゆっくりと開く
そして、そこから出てきたのは白衣を着た眼鏡の男性
ヒョロリとした優男風の男性が人の良い顔で笑いかけて来る
も、その白々しい笑顔に私は一層顔を顰めて睨み付ける
そして自分よりもずっと背の高い男性の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす
抵抗も無く、すんなりと指が届いたのは、脚に力を込めて飛び上がったからだ
そのまま躊躇する事無く、首を絞める勢いでグッと掴み持つと、足が宙を浮き男性にぶら下がる様になる
すると男性が引っ張られる様に上半身を傾ける
「わわわわっ!危ないっ」
焦った声を出す男の言葉を無視して、若草色した瞳を睨みグッと顔を寄せ低く凄む
「ユイを返して!!!」
私の言葉に人畜無害そうなその顔が、くしゃりと歪む
「あの、あのっ!ちょ....お、落ち着け俺....あ、あの子はユイ君って言うのか....あの子は君の...弟さん?とか、になるんだろうか?」
気安く息子の名前を呼ぶなと言ってやりたいが、今一緒に居ないユイの事が気掛かりで私は言葉を飲み込む
「ふざけないでっ!息子に決まってるでしょ!」
私が叫ぶ様に言葉を吐き出した瞬間、男性が驚いた様に固まる
それに気付かず手に力を込め言い放つ
「早くユイを返して!!!」
下手すれば、コッチが悪者に見えるかも知れないが、私は眼力を弱めずギンっと睨み上げる
人の良い顔して、この人達は、私からユイを引き離したのだ
ユイに何かあったら私は絶対っ.....
許さない!
ーーー
あの後、巨大兎がどうなったかは知らないが、数十分後、息も乱れず合流した男達によって私達親子はお礼を言う暇もなく攫われる様にこの場所へ連れて来られた
そして、一つの部屋に私達を押し込み数時間経過後
先程まで一緒に居たユイを突然連れて行ってしまったのだ
抵抗?
勿論したに決まってる
噛み付き、髪を振り乱し、涙と鼻水まで垂らして喚き散らし怒鳴り散らしたものの
女一人では限界があり、白衣を着た男性と騎士の様な出で立ちの男数人に引き裂かれる様にユイと離されたのは
つい先程の事だ
その中の一人だったこの男性が言うには検査が必要だと突然言われ、当然検査など必要ないと突っぱねる私の言葉を無視したのだ
予防接種などちゃんと受けてるし、健康そのものなユイは赤ちゃんの頃を除くと風邪など滅多に引かない健康優良児なのだ
滅多に引かない風邪を引いた時は大変だし、めちゃくちゃ心配になるけれど、親ならそうなって当たり前だ
「えーコホン...ユイ君は私の見立てでは身体には何の問題も無く....」
だったら早く返して!!!と、唇を開き掛けるも
「わわわっ!ちょ!近いっ!ああああ!!!いい匂いがっ!」
顔を真っ赤にしてあたふたと慌て出す男の声に混じり、低くも無く高くも無い、少し困った様なそれでいて呆れた様な声が掛かる
「それ位にして貰えないか?ソイツは忍耐が付いてないからそんなに近付くとぶっ倒れる」
白衣の男性の背後を伺う様に顔をずらすと白衣の男性の後に二人の男が立っていた
一人は最初に出会った黒髪の男性
腰に刺してる剣がカチャンと音を響かせる
そしてもう一人は初めて見る男性だった
「わぁー本当だ....女の子だぁ」
瞳をパチクリと見開きニコッと笑う男性
こう言う人ほど油断出来ないと良く知る私は醒めた目で観察する
人好きのする笑顔は朗らかで明るい
大抵の人ならこの人の持つ笑顔や空気に騙されるだろう
仕草や言葉使い、声の高低、それらの使い方が非常に上手い人だと思った
自分のその容姿さえ、武器になる事がわかってそうな人
要するに胡散臭い代表と言いたい
そんな人物を私は1人だけ知ってる
一番身近な人物
私の大事な旦那様がその典型
ま、自分の旦那様が胡散臭いと言ってる様なモノだが、本当だからしょうがない
ウチの旦那様と容姿はまったく違うけど、同じ人種な目の前の男性を下から上までマジマジと見つめる
黒髪の男性が真っ黒な騎士服に対し、この男性は真っ白い騎士服を身に纏い、オレンジ色の綺麗な髪と青い瞳を持っていた
ただ、黒髪の男の瞳が少し暗い紫色を帯びた、紺青色なのに対しこの男性は淡い薄青色
そう、晴れた空の透き通る様な薄い青
その二体の青がジッと私を見つめる
真逆の青色に見つめられ私は咄嗟に視線を逸らす
そして白衣の男性から手を離す
すると明らかにホッと胸を撫で下ろす白衣の男性
きっとこの人は女性が苦手な人なんだろうと結論付け、私は黒髪の男性に向き直る
「ユイはどこ?」
少しは話しが分かるだろうと私は真っ直ぐ男を見つめる
すると男は少し言いにくそうに息を小さく吐き出し話し出す
「まだ少し時間が掛かる」
私は冗談じゃないと男を押し退け、男と扉の隙間から出ようとするも
行く手を遮る大きな身体
「そこを退いて!」
オレンジ色した髪の男性がニッコリ笑い身体をスーッと横にずらして通り道を塞ぐ
その笑顔は太陽みたいに眩いが、私には関係ないと手を伸ばす
するとどうだろう
男が妙な事を口走る
「ダメだよ?どんな理由があろうと無闇矢鱈と触れたら?悪い男に襲われちゃうよ?」
「は?」
私はただ、男の身体を押し退け様としただけだ
「ま、それは置いとき、取り敢えずお茶でも飲んで話そっか?」
そう言って男が指を指すのは部屋の中の丸いテーブル
私が暴れた事によって椅子はなぎ倒れ、一つは脚が折れていた
三脚しかない椅子の内一脚は脚が折れて使い物にならないが、私にはそんなの関係なくて
今すぐにでも息子を返して欲しいと唇を開く
「嫌だっ!息子が無事に戻って来るまで私に話など無い!」
扉の前からテコでも動かない私の姿に小さく息を吐き出した男性が優しく声を掛ける
「大丈夫だから、少し話しをするだけ、息子さんも無事に返すから」
約束、ね?と、顔を傾け笑う男性は顔をゆっくりと後ろに逸らし、扉から顔を出すと視線をチラリ横に向ける
「君、お茶と...そうだな甘いクッキーでも持ってきて」
「はっはいっ!」
バタバタと誰かが走って行く足音
どうやら扉の向こう側にまだ人が居た様だ
私はジッと男を見つめ、一つ、大きな溜め息を吐き出す
「話しがすんだら絶対息子を返して!」
「騎士の誓いに掛けて」
私の言葉に二人の男性が胸に拳を当てゆっくりと頭を下げる
そしてゆっくりと顔を上げた二つの違う青い瞳が余りにも綺麗過ぎて私は逃げる様に視線を逸らす
そして私は一つ、息を大きく吐き出し、漸く観念した様にテーブルへ歩いて行くのだった
そして倒れた椅子を起こそうと手を伸ばすと、先程まで扉の前に居た男性があっという間に椅子を引き起こし、まるで紳士の様に優雅に椅子を引く
頬をヒクリと引き攣らせ腰を降ろす
そして目の前にオレンジ色の男性が優雅に腰を降ろし、残りの二人がその背後に立った頃、ノックの音が響き渡る
どうぞとオレンジ色の男性が促すとトレーを押して入って来る小さな少年
まだ少年の域を脱しない彼は一歩足を室内へ踏み入れ固まった様に動かない
トレーを持ったまま微動だにせず、ポーッと熱に浮かされた様に顔を赤らめるではないか
私は心配になり目の前の男性に大丈夫か聞くと苦笑いされ、大丈夫だと返ってくる
「訓練番号5番、早く彼女にお茶をお出しして?」
その言葉にハッと我に返ったのか、少年はカチコチ、ぎこちない動きをしながらも室内に入って来る
そして私の横まで来るとお茶をカップに注ぎ、緊張からかカップをカチャカチャ鳴らしてテーブルへ置く
「ど、どうぞ」
照れ屋さんなのか恥ずかしいのか真っ赤な顔の少年にニッコリと微笑みかける
「ありがとう、頂きます」
すると少年を始め、他の三人の男性が固まった様に身体を硬直させるも
私は気付かずカップに手を付ける
叫び過ぎて喉がカラカラな私は少年が注いでくれたお茶を片手に匂いをスンッと嗅ぎ、一口コクリと飲む
ハーブの爽やかな味に自然と笑顔になる
その味は少し懐かしい事を私に思い出させる
初めてお茶を容れた時のユイを思い出し、静かに微笑む私を男性が見つめるも私は気付かない
震えながら一生懸命お茶を運びお客様にお茶を出したユイも丁度こんな感じだったなぁとしみじみ思い、クッキーの皿を片手に固まる少年に視線を向ける
「とっても美味しいわ」
「あ、いえ、その.....し、失礼しましたっ!」
少年は顔を真っ赤にして、クッキーの皿をカチャンと音を鳴らし置くと、まるで逃げる様に部屋を飛び出して行った
私はそんな少年をポカンと見つめ、目の前の三人に目をやる
苦笑いする三人は大丈夫だと言いながら咳払いする
そして、気を取り直した様に三人の男性は自己紹介と、この世界の事に付いて教えてくれた
その結果、やはりここは私の知る地球では無く
私は気を引き締め目の前の男性を真っ直ぐ見つめる
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