彼が獣になる瞬間

高福あさひ

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「はい、いつもの」

「わぁ、ありがとう!!」

ある程度、身体が動くようになったところでお風呂を借りて、しっかりと温まる。時計を見たところ、私たちが情事を始めてから数時間が経っていた。今は夕方と夜の狭間の時間。お風呂上がり、馨の貸してくれたスウェットに身を包み、馨の持ってきてくれた私の大好きな砂糖たっぷりミルクティーを飲む。身体がホカホカして寒くなってきた季節にはちょうどいい。

「それで、引越しとかいつにする?細かいトコ決めていきましょ」

パソコンを机に引っ張り出してきた馨の隣に座ってペンタブをつつく。経験したことを忘れないように絵で描きとめるためだ。

「うーん、絶対に部屋は二つの方がいいから…。あ、お風呂とトイレは別がいい」

「もうファミリー向け物件で探した方が早そうね。部屋はもちろん二つに分けるつもりよ。あ、そういえば後輩に不動産屋に勤務してる子がいたから聞いてみるわ」

馨は私と違っていろいろなところに人脈がある。私はサークルにも部活にも所属はしていなかったし限られた人としか会話をしないタイプだったから人脈など無いに等しい。馨はそんな私をよそにスマホでその後輩とやらにメッセージを送っていた。

「ねえ、その後輩って男、女、どっち」

なぜか普段なら絶対にどうでもいいことなのに聞いてしまった。うん、そういう日もあるよね。

「やぁね、女なわけないでしょ。私、男の子の連絡先の方が多いって凛も知ってるじゃない」

「そ、そうだよね、あはは」

恋愛対象は女の子だけど、馨は線引きがうまい。馨は私にはそうじゃないけれど、他の女の子には決して踏み込ませないラインがある。私が馨に踏み込めるのは私と馨が男女の間で友情が成立している特別な関係だから。なにより、私が馨に恋愛感情を抱いていないから。馨はカッコいい、身内のひいき目なしで本当にカッコいい。そして優秀で今何て一流企業に勤めて出世街道をひた走る、そんな女の子なら目の色変えてでも欲しいと思える完璧な男。私の前で以外は普通の喋り方だから、ちょっと優しくされると女の子はみんな馨を好きになる。そうやって一番近い場所にいる私に危害を加えようとしてきた恋する女の子をたくさん見てきた。もちろん、馨に彼女がいたことは何度もあった。だけど、それでも私は遠慮してるけど、馨と私の距離は変わらないからいつのまにか彼女と別れていた。

「あ、凛。手伝えることあったら言ってね、いつでもトーン貼りでもなんでもしてあげる」

「ありがと、馨。まあ最近はデジタルですることも多いから大丈夫だと思う」

「そう、遠慮しなくていいからね」

「うん」

ペンタブで軽い線画も描いてはメモを繰り返す。その間も、馨は眼鏡をかけてパソコンとにらめっこ。その姿はとてもカッコいい。これは惚れる女の子が多いのも頷ける。











「さ、遅くなったけど夜ご飯にしましょう。昨日、作っておいたの」

「ああああもう!!そういうとこ!!大好き!!馨、結婚して!!」

私の大好きなシチューを用意してくれている馨に思わずそう言えば、馨はいつものように軽く受け流す。私はよく馨に結婚してって叫んでるから馨の反応も慣れたものだ。

「おいしいっ!!馨シェフ、隠し味はなんですかっ!?」

冗談めかしたように話せば当たり前のように馨ものってくる。

「それはですね、愛情です」

「ひゃあああ!!言うことがイケメン!!」

カッコいい顔をさらによく魅せるかのように艶やかに笑う馨に私も笑った。

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