スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

文字の大きさ
9 / 78
2話 捕食者を喰らう者

”異端なる掃除屋”

しおりを挟む
 
 
 その日の昼過ぎのこと。

 今日も立派に依頼を完遂し、堂々たる帰還を果たした私を、明るい声が歓迎してくれました。


「あ、お帰りなさーい」


 すっかり顔見馴染みとなった受付嬢が、こっちへ来いとばかりに右手を振り回しているのが見えます。

 何事かと思いながらも、報告をするため受付カウンターへ。


「おめでとう、アルルさん」
「誕生日はまだですが」
「違う違う。なんとこの度、君へ二つ名が送られることになったのです」
「二つ名?」


 何のことかと首を傾げた私に、リオンさんは嬉々としながら証書を手渡してくれました。
 金字で彩られた枠の内側に、びっしりと達筆な文字が並び、最後にギルドの紋章が捺印されています。

 よく分かりませんが、大層立派です。


「二つ名というのは、名を上げた冒険者につけられる通り名なんだよ」
「ああ、そういうのですか。冒険者の間で勝手に呼んでいるものかと」
「普通はそうなの。だから、ギルドが公認して二つ名を送るというのは特別なんだよ。立派な武勲を上げた冒険者の証なんだから」


 彼女、なんだか普段より一段テンションが高いです。


「そんなにすごいのですか?」
「そりゃあもう! 冒険者たるもの上を目指すべし。これがあるだけでも箔が付くというもの!」


 私は証書に書かれた二つ名に目を通し、ややげんなりとしました。


「……箔、付きますか? 掃除屋さんで」
「……えっと」


 リオンさんの無邪気な笑顔が引き攣りました。

 無理もありません。
 私がギルドから授けられた二つ名は『異端なる掃除屋モンスタースイーパー』。


「私が怪物モンスターなのか……」


 なかなか皮肉が効いています。

 考えてみればこの三か月、ずうっとお掃除の依頼しか受けてきませんでした。

 こういった依頼は基本新人に回されることが多く、彼らもせいぜい一回か二回やれば飽きて怪物討伐の方に流れてしまうので、依頼は常に飽和状態。

 私はそれを独り占めにしているわけです。

 珍しいもの好きな冒険者の間で〝小さなお掃除屋さんリトルスイーパー〟と揶揄されているのを何度か耳にしましたけれど、まだ可愛げのあるいじりでした。

 これ、ギルド公認のいじめか何か?


「や、だけどね、アルルさん。新米冒険者がわずか三か月で二つ名を獲得するというのはすごいことで。まして、見習いが獲得するというのは前代未聞の一大事で。だからね、期待のルーキー誕生! みたいな?」
「そうですか」


 リオンさんは頑張って盛り上げようとしてくれますが、完全に空回っていました。


「……我々ギルドは、未来ある冒険者のさらなる活躍を願い、贈呈品を用意いたしました!」
「贈呈品!」


 これには耳聡く反応します。

 ひょっとして特別賞与とかいただけるのではないでしょうか。
 期待に胸が膨らみます。


「じゃーん、アルルさんにピッタリの専用の武器をお送りしまーす!」


 ポップな紹介音とともに登場したのは、用途不明の武具でした。

 大きな背負い袋からゴム製のホースが伸び、先端は可変可能な吸引口が取り付けられています。
 スイッチ一つで送風と吸引が切り替えられるそうで。
 
 街の武器屋ではまず目にすることのない、奇怪な代物でした。


「高名な武器職人に依頼して、オーダーメイドしてもらったんだよ。この武具を身に着け、颯爽と依頼を熟していくなんて、ちょっとかっこいいでしょう?」
「ほほう、それはそれは」


 見習い冒険者にオーダーメイドの武具をプレゼントとは。
 なんと気前が良いことでしょう。

 ついつい興味惹かれて、専用武器をためつすがめつしてみます。

 ワンタッチで可変可能な吸引口。
 収納可能なノズルホース。
 大容量ダストバック。

 どんなものでも一発吸引! 頑固な汚れも吹き飛ばす、最強無敵の専用武器!


「掃除用具だこれ!」


 ある程度分かってはいましたが、期待外れもいいところでした。


「ぐぬう……」
「まあまあ。おめでたいことには変わりないわけで。個人的に一飯くらいならおごってあげるから」
「ではさっそく今夜で」
「はいはい」


 やや不本意ではあるものの、一飯にありつけるのならありがたいこと。
 大人しく掃除用具を受け取りました。
 
 ちなみに武具名は、お掃除兵器”クリーナー”。
 そのまんまですね。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...