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2話 捕食者を喰らう者
”異端なる掃除屋”
しおりを挟むその日の昼過ぎのこと。
今日も立派に依頼を完遂し、堂々たる帰還を果たした私を、明るい声が歓迎してくれました。
「あ、お帰りなさーい」
すっかり顔見馴染みとなった受付嬢が、こっちへ来いとばかりに右手を振り回しているのが見えます。
何事かと思いながらも、報告をするため受付カウンターへ。
「おめでとう、アルルさん」
「誕生日はまだですが」
「違う違う。なんとこの度、君へ二つ名が送られることになったのです」
「二つ名?」
何のことかと首を傾げた私に、リオンさんは嬉々としながら証書を手渡してくれました。
金字で彩られた枠の内側に、びっしりと達筆な文字が並び、最後にギルドの紋章が捺印されています。
よく分かりませんが、大層立派です。
「二つ名というのは、名を上げた冒険者につけられる通り名なんだよ」
「ああ、そういうのですか。冒険者の間で勝手に呼んでいるものかと」
「普通はそうなの。だから、ギルドが公認して二つ名を送るというのは特別なんだよ。立派な武勲を上げた冒険者の証なんだから」
彼女、なんだか普段より一段テンションが高いです。
「そんなにすごいのですか?」
「そりゃあもう! 冒険者たるもの上を目指すべし。これがあるだけでも箔が付くというもの!」
私は証書に書かれた二つ名に目を通し、ややげんなりとしました。
「……箔、付きますか? 掃除屋さんで」
「……えっと」
リオンさんの無邪気な笑顔が引き攣りました。
無理もありません。
私がギルドから授けられた二つ名は『異端なる掃除屋』。
「私が怪物なのか……」
なかなか皮肉が効いています。
考えてみればこの三か月、ずうっとお掃除の依頼しか受けてきませんでした。
こういった依頼は基本新人に回されることが多く、彼らもせいぜい一回か二回やれば飽きて怪物討伐の方に流れてしまうので、依頼は常に飽和状態。
私はそれを独り占めにしているわけです。
珍しいもの好きな冒険者の間で〝小さなお掃除屋さん〟と揶揄されているのを何度か耳にしましたけれど、まだ可愛げのあるいじりでした。
これ、ギルド公認のいじめか何か?
「や、だけどね、アルルさん。新米冒険者がわずか三か月で二つ名を獲得するというのはすごいことで。まして、見習いが獲得するというのは前代未聞の一大事で。だからね、期待のルーキー誕生! みたいな?」
「そうですか」
リオンさんは頑張って盛り上げようとしてくれますが、完全に空回っていました。
「……我々ギルドは、未来ある冒険者のさらなる活躍を願い、贈呈品を用意いたしました!」
「贈呈品!」
これには耳聡く反応します。
ひょっとして特別賞与とかいただけるのではないでしょうか。
期待に胸が膨らみます。
「じゃーん、アルルさんにピッタリの専用の武器をお送りしまーす!」
ポップな紹介音とともに登場したのは、用途不明の武具でした。
大きな背負い袋からゴム製のホースが伸び、先端は可変可能な吸引口が取り付けられています。
スイッチ一つで送風と吸引が切り替えられるそうで。
街の武器屋ではまず目にすることのない、奇怪な代物でした。
「高名な武器職人に依頼して、オーダーメイドしてもらったんだよ。この武具を身に着け、颯爽と依頼を熟していくなんて、ちょっとかっこいいでしょう?」
「ほほう、それはそれは」
見習い冒険者にオーダーメイドの武具をプレゼントとは。
なんと気前が良いことでしょう。
ついつい興味惹かれて、専用武器をためつすがめつしてみます。
ワンタッチで可変可能な吸引口。
収納可能なノズルホース。
大容量ダストバック。
どんなものでも一発吸引! 頑固な汚れも吹き飛ばす、最強無敵の専用武器!
「掃除用具だこれ!」
ある程度分かってはいましたが、期待外れもいいところでした。
「ぐぬう……」
「まあまあ。おめでたいことには変わりないわけで。個人的に一飯くらいならおごってあげるから」
「ではさっそく今夜で」
「はいはい」
やや不本意ではあるものの、一飯にありつけるのならありがたいこと。
大人しく掃除用具を受け取りました。
ちなみに武具名は、お掃除兵器”クリーナー”。
そのまんまですね。
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