スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

文字の大きさ
19 / 78
2話 捕食者を喰らう者

現れた巨大スライム

しおりを挟む
 
 
「水音?」


 にしてはなんだか重量感があるというか、やけに粘着質な音というか。

 まるで、液体の塊が跳ね回っているような感じがします。


「何か来る……?」


 後方のオリビアさんに止まれの合図。
 ランタンを前方へ突き出し、闇を照らします。

 じっ、と目を凝らすと、真っ暗な中に飛び跳ねる何物かのシルエットが浮かび上がります。

 不快な水音とともにシルエットが徐々に大きくなり、ランタンが創り出す光の中へその異形な姿を現しました。


「これは……」


 巨大なゼリー、でした。
 そうとしか表現できないでしょう。

 色は半透明の紫。

 縦横二メートルくらいに膨れ上がった楕円形状の物体が、軽やかに巨体を弾ませながら、私たちの目の前に躍り出たのです。

 驚愕します。
 それは紛うことなきスライムでした。

 ただし、大きさが桁外れです。


「なん、ですかあれは……」


 スライムと言えば、せいぜい拳大程度の大きさで、足元でぴょんぴょん飛び跳ねるくらいしか能がない下級モンスター。
 うまく核を叩けば、子供の腕力でも倒せてしまうくらい脆弱な存在。

 しかし、四足の大型動物をすっぽり包んでしまいそうなくらいの巨体となると、話は別でした。

 これほど化け物じみた巨大なスライムは、未だかつて見たことがありません。
 これなら怪物と呼ばれても不思議はないでしょう。

 潤いに富んだそのボディは、触れればずぶずぶと沈んでしまいそうなくらい柔いもので、今にも自壊して地面に溶けだしてしまいそう。

 よくあんな不安定な形状を維持したまま活動できるものです。


「うっ、何よあれ!」


 斜め後方から息を詰まらせる声。

 討伐依頼の経験があるオリビアさんでさえ驚いたという事実が、事の異常性を物語ります。

 でっぷりと膨れた身体の内側で、ぎょろぎょろと泳ぎ回る球体がひとつ。

 私たちをロックオンします。


「下がって。ゆっくりと」
「……何よ、逃げるの? 所詮スライムでしょ?」


 倒せって?


「あんなもん、無理でしょうに……っ」

 
 巨大スライムが大きく身を震わせたかと思うと、触腕が飛ぶように伸びてきます。


「伏せて!」
「きゃっ」


 咄嗟に倒れ込み、寸前のところで攻撃を回避します。

 どうやら巨体であればあるほど持ち前の弾力性を最大限に発揮できるようです。

 目を見張る速度で伸縮自在の触腕を繰り出し、数メートルの間合いを一振りで潰してきます。

 加えて、スライムはその身に獲物を包み込んで捕食するため、彼らの身体に触れることは消化液を浴びることと同義です。

 本来なら皮膚が少しひりひりする程度で済みますが、巨体であればそれだけ溶解力も強力なはず。

 遠距離戦はまずい。
 接近戦はさらに危険です。


「立てますか? ローブ、脱いで!」
「え、何言って?」
「急いで、溶けます!」
「うわ、やだっ!」


 避けそこなったローブの端に、スライムの溶解液が付着していました。

 裾を掠めただけでもぼろぼろに溶かされ、徐々に侵食していきます。

 オリビアさんはしゅうしゅうと煙を上げるローブを振り払うように投げ捨て、転がるように走り出します。


「やっ!」


 時間稼ぎにでもなれば、と私は投げナイフを放ちます。

 巨体と言えど、スライムと対敵するのであれば、中距離からの遠距離攻撃によって外装を吹き飛ばし、直接核を叩く。
 それが正攻法のはず。

 しかし、


「な……っ」


 身体が大きすぎて核まで刃が届きません。

 ゲル状の粘液に絡め取られた投げナイフは、いともたやすく溶かされていきます。

 鉄をも溶かす溶解力。
 それがゴムのような弾力を以て襲い掛かってきます。

 紛うことなき、圧倒的な脅威でした。

    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...