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4話 捕らわれの姫君
捕虜の末路
しおりを挟む……そもそも、魔神王の討伐なんて英雄的所業、本当に為せるものなのか。
そりゃあ、後ろの化け物と比べれば、可能性はあるような気がしますけれど。
「気を付けてください。ああ見えて皮一枚下の肉体は、後ろの筋肉質の怪物と同等かそれ以上かと。言葉がしゃべれる以上、魔法を扱う知恵も持ち合わせているはずです」
「そっか」
おかしな気を起こすのは止めた方が良さそうです。
「この我をミノタウロス如きと比べるとは、笑止千万。随分と口が軽いな、そこの神官。捻り潰されたいのか?」
リンネさんの推察を耳にしたのか、魔神王は不敵に笑いました。
凄む眼力に、私は思わず身を竦ませます。
頭では十全に理解できなくとも、本能が目の前の青年の異常性を感じ取り、警鐘を鳴らしていました。
逃げろ、と。
嘘でもハッタリでもなく、私たちを物理的に捻り潰してしまうくらい、彼にとっては造作もないのです。
態度を改め、小さく挙手。
「はい、質問よろしいでしょうか」
「あ?」
魔神王は不快そうに眉根をひそめたものの、一拍のちには興味を失い、ゆったりと背もたれに寄りかかります。
「何だ、小娘。言ってみろ」
殺す価値もないと睥睨しながらも、一応話は聞いてもらえるようです。
それではまず、状況の把握と整理から。
「ここは魔神王様のお城で、私たちはそこに潜入した賊だと疑われ、こうして捕まっている、と。そういうことでよろしいでしょうか?」
「はん、惚けたふりして何を当然のことを聞いている? それが目的で侵入してきたのだろう?」
「えっと……」
話が進まないので、とりあえず否定しないでおきます。
「それで捕虜である私たちには、具体的にどのような罰則が科せられるのでしょう?」
すぐに殺されないということは、何らかの利用価値があるということ。
情報を吐かせたいのか、はたまた死ぬまで肉体労働を課したいのか。
その内容によって身の振り方が変わってきます。
即ち、危険を顧みず今すぐ逃げるか、チャンスを覗うか。
「馬鹿を言え。先兵など捨て駒だ。拷問してまで引き出す情報などない。それに枝のような細腕でこなせる労働など、この城には存在しない」
「ではおいしくいただかれてしまうとか?」
「愚弄する気か、小娘? これでも元人間だぞ、喰って堪るか」
「おや?」
少々イメージとの齟齬が生れ、首を傾いでしまいます。
「王たる者の矜持か、彼は人食を好まないようですね」
「やろうと思えばできるわけね……」
危険性に変わりはありません。
しかし、そうなると魔神王の狙いは何でしょう。
拷問ではなく、
労働でもなく、
喰うでもない。
ならば、彼は一体私たちに何をさせようというのでしょうか。
「分かっていて言っていませんか、アルル様?」
「いいえ、さっぱり」
きっぱりと首を横に振った私を、リンネさんは疑わしげに見やり、仕方なく口を開きます。
「屈強な怪物どもに囚われた若い女の末路など決まっています。連中の慰み者です」
まあ、そうなるでしょうね。
「今この場で舌を噛み切ってしまおうかしら……」
「奇遇ですね、わたしも同じことを考えていました」
「えっ、止めてくれないの?」
早まるな、きっと助けは来るから! というセリフが欲しい場面です。
「根拠のない励ましに意味などありません。助けが来る当てなどないのですから」
「女神様に仕える神官がそれを言うの?」
「神官故に言うのです。魔の王と交わるなど、最悪の侮辱ではありませんか……っ」
変化の乏しい表情の中に、激しい嫌悪と不快感が見て取れます。
リンネさんは、神に捧げた我が身が穢されることを何よりも恐れていました。
膨れ上がる彼女の猜疑心を、しかし魔神王は一笑に伏しました。
「男を知らん生娘など、ぎゃんぎゃん喚くばかりで相手する気にもなれん。まずはスライムを使って事切れるまで調教してやろう。かろうじて生を繋ぐことがあれば、我自ら孕ませてやることもあるかもなあ。くはははははっ!」
なるほど、スライムですか。理解しました。
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