スライムイーター ~捕食者を喰らう者~

謎の人

文字の大きさ
44 / 78
4話 捕らわれの姫君

レッツ、実食パーティー

しおりを挟む
 
 
 高笑いする魔神王の前にしずしずと歩み出て、私は進言します。


「そういうのは私ではなく、彼女の方が得意かと」
「わたしを売るとは何事ですか、アルル様?」
「だってリンネさん、スライムとか好きでしょう? 食べてしまうくらいに」
「好みの問題ではありません。食していたのは生きていくため仕方なくです」


 失礼な、と憤るリンネさん。

 次にはゆらりと立ち上がり、言わねばならないことがある! と眉を吊り上げます。


「だいたい、スライムを女人の拷問に使うだなんて言語道断! 人の体液を喰らうスライムなど、生臭い上に食感はドロドロで口にする気にもなれません!」


 荒げる声にこもるのは壮絶な怒り。
 握った拳に曲げられない信念を滲ませて、声高々に力説します。


「美味なるスライムとはやはり肉食。それも、強大な怪物を喰らったスライムは格別です。するりと流れるようなのど越し、鼻を抜ける爽やかさ……。あれは是非、アルル様にも味わっていただきたいっ」
「いや、正直遠慮したいんだけど。……でもそんなにおいしいの?」
「ええ! とりわけ、竜の肉を喰らったスライムはこの世のものとは思えない味がするのだとか」
「へえ。スライムってドラゴン倒せるものなの?」


 ギルドから借りた怪物図鑑によると、確か伝説級の怪物だったような気がしますが。


「力関係を考慮すればとても考えられません。しかし、不可能と言い切るのは早計です。運よく死肉を喰らいでもすればあるいは」
「なるほど。レアドロップを狙うわけか」
「そうして竜の肉を喰らったスライムは、いずれ王となる資格を手に入れるというのが通説です」


 一体どこの? と聞くのは止めておきましょう。
 
〝スライム実食クラブ〟などという怪しげな集まりについての話が飛び出してきそうです。
 恐ろしい。


「ああ……っ、是非生きている内に実食してみたいっ」
「あなたも好きねえ」


 内なる欲望を顕わにし、身悶えるリンネさん。
 胸の前で両手を組み、知的に整った顔を紅に染め、恋する乙女のように身をくねらせます。

 一つ、閃きました。


「それならいっそう、食べさせてみたら? 魔神王の城というくらいだから、ドラゴンだっているんじゃない?」
「おおっ、確かに! なんて斬新な発想でしょうか。さすがです、アルル様!」


 話はまとまりました。


「聞きましたか、そこの魔神王! 身を差し出す従順な竜と新鮮なスライムを一匹ずつ、今すぐ用意なさい! 成功の暁には想像を絶する美味を味わうことができるのです!」
「用意できるわけあるか、たわけ」


 要求は即刻却下されました。


「スライムがドラゴンを喰らうなど狂気の沙汰だぞ……。おいそれと我が身を差し出すドラゴンが居ようはずもない。誇り高き竜族の面汚しだ」


 魔神王は苦虫を噛み潰したような面持ちで、私たちを睥睨します。


「なんなのだ、こいつらは……。恐怖で頭がいかれたか? いくら顔立ちが良くとも頭のネジが飛んだ阿呆など相手をする気にもなれん。オークどもにでもくれておけ」


 さぞかしお似合いだな、と哄笑します。


「良かったな、馬鹿女ども。今は大層気分が良い。この場での無礼には目を瞑ろう。性欲処理の仕事を与えたのち、貴様らの大好きなスライムの餌にしてくれよう」
「おや、何か良いことでも?」
「それはテンション上がります、どんな味わいなのかと思うが故に!」
「違うわ! もうじき、我の後継ぎが誕生するのだ」
「あら、おめでた?」
「実食パーティーにはちょうど良い余興です」
「ふむ、余興か。言い得て妙だな」


 また怒られそうなことを口走ったかと思いきや、魔神王は意外にもご機嫌に口元を歪めます。
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...