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4話 捕らわれの姫君
レッツ、実食パーティー
しおりを挟む高笑いする魔神王の前にしずしずと歩み出て、私は進言します。
「そういうのは私ではなく、彼女の方が得意かと」
「わたしを売るとは何事ですか、アルル様?」
「だってリンネさん、スライムとか好きでしょう? 食べてしまうくらいに」
「好みの問題ではありません。食していたのは生きていくため仕方なくです」
失礼な、と憤るリンネさん。
次にはゆらりと立ち上がり、言わねばならないことがある! と眉を吊り上げます。
「だいたい、スライムを女人の拷問に使うだなんて言語道断! 人の体液を喰らうスライムなど、生臭い上に食感はドロドロで口にする気にもなれません!」
荒げる声にこもるのは壮絶な怒り。
握った拳に曲げられない信念を滲ませて、声高々に力説します。
「美味なるスライムとはやはり肉食。それも、強大な怪物を喰らったスライムは格別です。するりと流れるようなのど越し、鼻を抜ける爽やかさ……。あれは是非、アルル様にも味わっていただきたいっ」
「いや、正直遠慮したいんだけど。……でもそんなにおいしいの?」
「ええ! とりわけ、竜の肉を喰らったスライムはこの世のものとは思えない味がするのだとか」
「へえ。スライムってドラゴン倒せるものなの?」
ギルドから借りた怪物図鑑によると、確か伝説級の怪物だったような気がしますが。
「力関係を考慮すればとても考えられません。しかし、不可能と言い切るのは早計です。運よく死肉を喰らいでもすればあるいは」
「なるほど。レアドロップを狙うわけか」
「そうして竜の肉を喰らったスライムは、いずれ王となる資格を手に入れるというのが通説です」
一体どこの? と聞くのは止めておきましょう。
〝スライム実食クラブ〟などという怪しげな集まりについての話が飛び出してきそうです。
恐ろしい。
「ああ……っ、是非生きている内に実食してみたいっ」
「あなたも好きねえ」
内なる欲望を顕わにし、身悶えるリンネさん。
胸の前で両手を組み、知的に整った顔を紅に染め、恋する乙女のように身をくねらせます。
一つ、閃きました。
「それならいっそう、食べさせてみたら? 魔神王の城というくらいだから、ドラゴンだっているんじゃない?」
「おおっ、確かに! なんて斬新な発想でしょうか。さすがです、アルル様!」
話はまとまりました。
「聞きましたか、そこの魔神王! 身を差し出す従順な竜と新鮮なスライムを一匹ずつ、今すぐ用意なさい! 成功の暁には想像を絶する美味を味わうことができるのです!」
「用意できるわけあるか、たわけ」
要求は即刻却下されました。
「スライムがドラゴンを喰らうなど狂気の沙汰だぞ……。おいそれと我が身を差し出すドラゴンが居ようはずもない。誇り高き竜族の面汚しだ」
魔神王は苦虫を噛み潰したような面持ちで、私たちを睥睨します。
「なんなのだ、こいつらは……。恐怖で頭がいかれたか? いくら顔立ちが良くとも頭のネジが飛んだ阿呆など相手をする気にもなれん。オークどもにでもくれておけ」
さぞかしお似合いだな、と哄笑します。
「良かったな、馬鹿女ども。今は大層気分が良い。この場での無礼には目を瞑ろう。性欲処理の仕事を与えたのち、貴様らの大好きなスライムの餌にしてくれよう」
「おや、何か良いことでも?」
「それはテンション上がります、どんな味わいなのかと思うが故に!」
「違うわ! もうじき、我の後継ぎが誕生するのだ」
「あら、おめでた?」
「実食パーティーにはちょうど良い余興です」
「ふむ、余興か。言い得て妙だな」
また怒られそうなことを口走ったかと思いきや、魔神王は意外にもご機嫌に口元を歪めます。
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