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4話 捕らわれの姫君

止めときましょうよ、それ

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 書き物を用意することは簡単でした。
 言えばミノタウロスが何でも持ってきてくれます。

 これまでひたすらご機嫌取りに徹していたせいか、彼は深く追求することなく、各種道具を取り揃えてくれました。

 すっかり元気になったお姫様は、「うまくいったようね」としたり顔です。


「もしかしたらそこまで考えが回らないのかも」


 リンネさん曰く、脳まで筋肉でできているらしいので。


「ふふ」


 お姫様もつられて微笑みを見せながら、全てを受け入れた穏やかな声で続けます。


「手紙と一緒にこれを渡しておくわ」


 お姫様は、左手の薬指に嵌めていた銀色の指輪を私に見せます。


「これには王家の家紋が入っているわ。これさえあればあたしの遣いだって王都に伝わる。たとえ化け物を身籠っていても、あなたが殺されることはないはずよ」
「それはどうも」
「お礼を言うのはあたしよ。アルル、あなたのことを誤解していたわ。あなたは気高い魂を持った、あたしの命の恩人……」


 不意に手紙を書いていた手が止まり、言葉も途中で消えてしまいます。


「どうかした?」
「本当にこれでいいのかしら……。だって、あなたを犠牲にして……あたしは……」
「止めときましょうよ、それ」


 それ以上は野暮でした。

 リンネさんの思惑ははっきりしませんが、優先事項は何も変わりません。

 王都に窮状を伝えること。

 であれば、これが最善手に違いありません。

 怪物の仔を身籠ることがこの城から抜け出す唯一の方法。
 
 私であれ、
 リンネさんであれ、
 地下の村娘であれ、

 誰かがその役を担い、実行するしかない。

 覚悟はありました。
 なるようになれ、程度のものでしかありませんが。

 お姫様も分かってくれたのでしょう。

 二、三度頭を振り、手紙を最後まで書き終えます。

 凛と面を上げ、それ以上臆することなく私に手紙を差し出しました。


「最後に一つだけ言わせて頂戴。アルル、本当にありが―――」


 心から告げられる感謝の言葉は、しかし最後まで聞き取れませんでした。


「え? きゃあああっ!」


 突如、激烈な横やりが入ったのです。

 横合いから襲い掛かる巨大な影。

 お姫様をその身に喰らった襲撃者は、狩人が鬨の声を上げるかのように伸縮自在な身体を勢いよく伸び上がらせます。
 スライムでした。

 ただのスライムではありません。
 極彩色の煌めきを放つ、特大サイズの怪物です。
 
 
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