ゆかりさんとわたし

謎の人

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プロローグ

絶句。硬直。からの赤面。

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 それから十年。
 小学生の時も、中学生の時も、高校生になった今も。ゆかりさんと過ごす日々が楽しみで、楽しくて、仕方がなくて。
 わたしは、ゆかりさんの側で彼女とともに生きてきました。何よりも彼女と居る時間を優先してきました。
 それはゆかりさんが眠りに就いたあの日も、その後も、ずっと変わることなく。

 そんなわたしに、ゆかりさんは伝えてきます。


〝私とばかりじゃなくて、他の友達を作った方がいいわ。だって、みぃちゃんはこんなにも素敵なんだから。きっと良い友達が見つかるし、私なんかよりもそういう子たちと楽しく遊びたいでしょう?〟


 そんな文字をスケッチブックに見つけたわたしの返しは、


「わたしが遊びに来ると迷惑かな……。わたし、ゆかりさんの負担になっている?」


 つい、そんな風に訊いてしまいました。
 すると、彼女は猛烈に首を振って、


「そんな訳ないでしょ!」


 鈴のように澄んだ声で、わたしを叱りつけました。
 めっきりと口数が減った彼女の声を聞いたのは、これで何回目になるのか。
 正確には覚えていないけれど、数えきれる程度にしかなくて、思わず。


「ゆかりさんの声、きれい……」


 うっとりと、場違いにもそんなことを呟いたものですから、ゆかりさんは困惑顔で憮然と眼差しを細めます。


「ご、ごめんなさい。おかしなことを言って。ええと、違くて、そうじゃなくて!」


 身振り手振り満載で弁明するわたしの様子が、あまりにも間抜けだったのでしょう。
 ふふっ、とゆかりさんは堪え切れずに吹き出して、楽しそうに身体を揺らして。それからまなじりの涙を拭いて、


「こんなことで喜んでくれるのなら、じゃあこれからはこうしていようかしら」


 言葉に声を乗せて、わたしに微笑みかけてきます。
 晴れた空のように透き通った、本当にとてもきれいな声です。いつまでも聞いていたいくらい。
 でもそれは、とても小さく儚げで。今にも壊れてしまいそうで……。

 わたしは慌てて首を振ります。


「ああっ、違うの。そうじゃなくて。ゆかりさんの声はきれいでずっと聞いていたいけれど、でもたまに聞くからレアというか、すごく幸せな気持ちになれて!」
「ふふふ、そう?」
「そうなの。だから決して無理をさせたいわけじゃなくてっ」
「わかった。じゃあ、最後にこれだけは言わせて」


 ゆかりさんは穏やかな顔をしていますが、相当無理をしているはずです。こんなにも長くしゃべる彼女を見るのは初めてでした。
 そんな焦りを感じながら、わたしは早く会話を終わらせたくて、無理をさせたくなくて、意味もなく早口で訊ね返します。


「な、なあに?」
「私、みぃちゃんのことが大好き」
「………………………………え?」


 絶句。硬直。からの赤面。

 二の句が継げなくなったわたしに構わず、ゆかりさんはさらさらとスケッチブックにペンを走らせ、


〝だからずっと側に居てね〟


 にっこり笑顔で、そんな紙面をわたしに向けてくるのだから、もう……。

 わたしがなんとか再起動するまで、しばらくかかりました。
 その間、ゆかりさんは楽しくわたしの様子を観察していたそうです。

 
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