15 / 79
1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
その、手招く者は……
しおりを挟むその日、わたしは図書室にやってきました。
この日もわたしは図書室にやってきました。
図書室は良いです。不思議なお話の宝庫です。
西日が差し込むオレンジ色の空間に、整然と立ち並ぶ本棚。静まり返った空気。ミステリアスな雰囲気は最高です。
不思議なことが起こる場所としてはピッタリ……というのはほとんど建前で。
ゆかりさんは読書家の一面を持ち合わせているので(長い入院生活でそうならざるを得なかったのです)、高校の図書室にこんな面白い本があったという紹介だけでもできれば、それは十分話のきっかけになります。
ゆえに、わたしは困ったら図書室へやってきて、面白そうな本を漁るという行為を何度も繰り返しています。
ジャンルはファンタジーやSF。ゆかりさんは、不自由を強いられていたせいか、壮大な冒険物語を好みます。
そのジャンルが収まる本棚の列へと足を向けます。
選ぶ基準は、まずは背表紙のタイトル。楽しそうな雰囲気のある本が良いです。
続いて表紙。そしてあらすじ。
前に話したのと似たような内容ではないか、ゆかりさんの好みに合いそうかを確かめます。
選んでいるのはわたしなので、正確にはゆかりさんの好みに合いそうだな、とわたしが思えるかどうかです。
それからわたしが上手く要約できるような、理解しやすい内容であるかも重要です。
ゆかりさんが熱心に見ているアニメの原作になるような本はファンタジーやSFが多いですが、慣れない横文字だったり世界観が複雑すぎて、正直わたしが話せるような内容ではないのです。
そういう系統の本に関しては圧倒的にゆかりさんの方が詳しいので、わたしがしどろもどろで説明しなくてもその面白さを十分知っています。
だからわたしが選ぶのは、意図的にハードカバーでメディア化されていないような、隠された名作……のつもりです。
生憎と、そんな本をぽんぽんと選び出せるような真贋を持ち合わせておらず。
実際に読んでみたら良く分からなかったり、つまらなかったり。
気づかずに似たようなお話をしてしまうこともしばしば。
それでもゆかりさんは嫌な顔ひとつせず、わたしのお話に耳を傾けて楽しげな笑顔を見せてくれるので、わたしは自分の感性を信じて本を選ぶことができるのです。
「よし、これにしよう」
わたしは今回話題にする本を一冊選び出し、本の列から抜き取って、それを持ってカウンターへ向かいます。
そこには図書委員の当番の人が―――居ませんでした。
「あれ?」
さらに近づいてみますが、いつもなら貸出用のパソコンの前に座っているはずの図書当番の方が見当たりません。
トイレでしょうか?
そんなことを思いながら、何気なくパソコンの画面を見ようと身を乗り出し、
「うわ」
カウンターの向こう側、正面からは死角になる位置に人の頭が現れたので、わたしは思わずびっくりして身を引きました。
再び見えなくなったカウンターの向こうから、にゅっ、と手だけが出てきました。ちょいちょいと手招きしています。
「……?」
おそるおそるカウンターの方へ近づくと、今度は人差し指で左側を見るように指示してきます。
指示通りそちらを向くと、司書室へ続く扉の前にカウンターの出入り口がありました。
どうやら、入ってこいと言いたいらしいです。
「いいのかな……」
本来カウンターで区切られた向こう側は、図書委員の人でないと出入りしてはいけない決まりです。
そしてわたしは図書委員ではありません。
しかし、指示する手はまだ左側を指差しています。心なしか急かしているように見えます。
「…………」
迷った末、わたしは指示に従うことにしました。あまりことを荒立てたくなかったのです。
腰の位置にある仕切り板を上にあげて、するりと中へ身を滑り込ませます。
顔を右に向けると、カウンターの影に隠れるようにしゃがみ込む女子生徒がひとり。
茶色がかった長い髪の、大人びた雰囲気を持つの女の子です。
同級生には見えません。上級生でしょうか。
「あの……」
おずおずと近づいて声をかけた瞬間、右の袖を引っ張られて無理やりしゃがまされました。
「わっ」
悲鳴を上げると、素早く口を塞がれます。
「しーっ」
女子生徒は口の前に人差し指を立てて、静かに! のジェスチャー。
間近に迫った眼鏡の奥の瞳が、わたしをじっと見つめて、睨みつけて。
「……っ。……っ」
わたしはこくこくと、二回首を縦に振り返します。そうしないと何をされるか分かりません。
わたしが大人しくなったのを認めて、その人はわたしの口から手を除けて元の位置へ戻り、再び腰を落ち着けました。
訳が分からないわたしは、彼女に訊ねてみるしかありません。
少々怖いですが、仕方ありません。
「あ、あのぅ、一体何を……」
彼女はわたしをジロッと睨みつけて、たった一言。
「小声で」
それ以上の言葉はありません。
一体何だというのでしょうか、これは……。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる