ゆかりさんとわたし

謎の人

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1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて

その、手招く者は……

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 その日、わたしは図書室にやってきました。
 この日もわたしは図書室にやってきました。

 図書室は良いです。不思議なお話の宝庫です。
 西日が差し込むオレンジ色の空間に、整然と立ち並ぶ本棚。静まり返った空気。ミステリアスな雰囲気は最高です。
 不思議なことが起こる場所としてはピッタリ……というのはほとんど建前で。

 ゆかりさんは読書家の一面を持ち合わせているので(長い入院生活でそうならざるを得なかったのです)、高校の図書室にこんな面白い本があったという紹介だけでもできれば、それは十分話のきっかけになります。
 ゆえに、わたしは困ったら図書室へやってきて、面白そうな本を漁るという行為を何度も繰り返しています。

 ジャンルはファンタジーやSF。ゆかりさんは、不自由を強いられていたせいか、壮大な冒険物語を好みます。
 そのジャンルが収まる本棚の列へと足を向けます。

 選ぶ基準は、まずは背表紙のタイトル。楽しそうな雰囲気のある本が良いです。
 続いて表紙。そしてあらすじ。
 前に話したのと似たような内容ではないか、ゆかりさんの好みに合いそうかを確かめます。
 選んでいるのはわたしなので、正確にはゆかりさんの好みに合いそうだな、とわたしが思えるかどうかです。
 それからわたしが上手く要約できるような、理解しやすい内容であるかも重要です。

 ゆかりさんが熱心に見ているアニメの原作になるような本はファンタジーやSFが多いですが、慣れない横文字だったり世界観が複雑すぎて、正直わたしが話せるような内容ではないのです。
 そういう系統の本に関しては圧倒的にゆかりさんの方が詳しいので、わたしがしどろもどろで説明しなくてもその面白さを十分知っています。
 だからわたしが選ぶのは、意図的にハードカバーでメディア化されていないような、隠された名作……のつもりです。

 生憎と、そんな本をぽんぽんと選び出せるような真贋を持ち合わせておらず。
 実際に読んでみたら良く分からなかったり、つまらなかったり。
 気づかずに似たようなお話をしてしまうこともしばしば。

 それでもゆかりさんは嫌な顔ひとつせず、わたしのお話に耳を傾けて楽しげな笑顔を見せてくれるので、わたしは自分の感性を信じて本を選ぶことができるのです。


「よし、これにしよう」


 わたしは今回話題にする本を一冊選び出し、本の列から抜き取って、それを持ってカウンターへ向かいます。
 そこには図書委員の当番の人が―――居ませんでした。


「あれ?」


 さらに近づいてみますが、いつもなら貸出用のパソコンの前に座っているはずの図書当番の方が見当たりません。
 トイレでしょうか? 

 そんなことを思いながら、何気なくパソコンの画面を見ようと身を乗り出し、


「うわ」


 カウンターの向こう側、正面からは死角になる位置に人の頭が現れたので、わたしは思わずびっくりして身を引きました。
 再び見えなくなったカウンターの向こうから、にゅっ、と手だけが出てきました。ちょいちょいと手招きしています。


「……?」


 おそるおそるカウンターの方へ近づくと、今度は人差し指で左側を見るように指示してきます。
 指示通りそちらを向くと、司書室へ続く扉の前にカウンターの出入り口がありました。
 どうやら、入ってこいと言いたいらしいです。


「いいのかな……」


 本来カウンターで区切られた向こう側は、図書委員の人でないと出入りしてはいけない決まりです。
 そしてわたしは図書委員ではありません。
 しかし、指示する手はまだ左側を指差しています。心なしか急かしているように見えます。


「…………」


 迷った末、わたしは指示に従うことにしました。あまりことを荒立てたくなかったのです。

 腰の位置にある仕切り板を上にあげて、するりと中へ身を滑り込ませます。
 顔を右に向けると、カウンターの影に隠れるようにしゃがみ込む女子生徒がひとり。
 茶色がかった長い髪の、大人びた雰囲気を持つの女の子です。
 同級生には見えません。上級生でしょうか。


「あの……」


 おずおずと近づいて声をかけた瞬間、右の袖を引っ張られて無理やりしゃがまされました。


「わっ」


 悲鳴を上げると、素早く口を塞がれます。


「しーっ」


 女子生徒は口の前に人差し指を立てて、静かに! のジェスチャー。
 間近に迫った眼鏡の奥の瞳が、わたしをじっと見つめて、睨みつけて。


「……っ。……っ」


 わたしはこくこくと、二回首を縦に振り返します。そうしないと何をされるか分かりません。
 わたしが大人しくなったのを認めて、その人はわたしの口から手を除けて元の位置へ戻り、再び腰を落ち着けました。

 訳が分からないわたしは、彼女に訊ねてみるしかありません。
 少々怖いですが、仕方ありません。


「あ、あのぅ、一体何を……」


 彼女はわたしをジロッと睨みつけて、たった一言。


「小声で」


 それ以上の言葉はありません。
 一体何だというのでしょうか、これは……。

  
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