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1話 ゆかりさんとわたしと、図書室にて
放課後の徘徊者
しおりを挟むその日、わたしは放課後の校舎を徘徊していました。
夕暮れが近づく校庭では運動部の人たちの元気の良い声が響き、校舎内では吹奏楽部の練習演奏を背景音楽に文科系の部活動が行われています。
どこにも所属していないわたしは、そんな賑やかな喧騒の中を目的もなく歩き回っています。
強いて言うのなら、何か面白いことはないか、変わったことは無いかとそんなことを考えながら。
普段はこんな怪しい行為などしないで、ホームルームが終わり次第真っ直ぐゆかりさんのお家に向かうのですが、今日ゆかりさんはそこに居ません。病室で眠る身体の所に居ます。
時々そういうことがあるのです。気分的に近くに居たい日があるのだとか。
良く分かりませんが、それは自分の身体のことなんですから、気に掛けて当たり前でしょう。
普段は家の敷地から出られない彼女ですが、そういう気分になると決まって病室に入れてしまうのだとか。
不思議な話です。
本当は気分どうこうの問題ではなくて、肉体が魂を呼び戻そうとしている表れなんじゃないかとわたしは勘ぐっているのですが、ゆかりさんに訊ねても判然とせず。
それなら変に問い詰めたりしないで、自由にさせてあげるのが一番でしょう。
昨日の夕食時、ゆかりさんは、ちょっとそんな気分になったから明日行ってくるね、と書いたスケッチブックをわたしに見せてきました。
というわけで、わたしは持て余した時間を使い、何か面白いことは無いかと校内を徘徊しています。
病室に行けば会えるのかというと、まあ確かにそうなんですが、しかし。ゆかりさんの姿を見ることができるのはわたしだけ。
眠っているゆかりさんに声を掛けるふりを装うことはできますが、それでもいつも通りのやり取りをするわけにもいかず。
結局、病室でぼんやりしているしかありません。
そんなことをしていれば、当然お母さんに気を遣わせてしまうだけなので、ここは素直に大人しくしています。気になりますが、仕方ないのです。
それにきっと、ゆかりさんも自分の身体が気がかりで、わたしと遊ぶ余裕はないはずです。
数日もすれば、ゆかりさんはまたあの古風なお家に戻って来てくれるので大丈夫……なはず。
「……って、わたしが暗くなっても意味ないか」
ひとつ深呼吸をして、胸のざわざわを掃出し、すっきりと気持ちを切り替えます。
気に病んではいけません。わたしは待っていればいい。
そうすればまた楽しい日々が、ゆかりさんと過ごす大切な時間が訪れます。あと数日の辛抱です。
たとえ、明日が駄目でも明後日があります。もっと長くゆかりさんに会えなかった時期もあるのです。
心に余裕を持って気長に待ちましょう。
そして、帰ってきたゆかりさんに笑顔でおかえりなさいをしましょう。
「よし」
そのためにも、わたしは放課後の徘徊を続けます。
ゆかりさんを楽しませることができそうな、彼女の退屈を晴らせるような、奇妙な話のタネを求めて。
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